知ってたのですか
アレンは「じゃあ、話していいんですね」と、一つ咳払いをしました。
「別に、そんなに会話を遮られるほど大げさな話ではないんですけどね」
こう前置きをしたうえで、話を続けます。
「うちの領の貴族の話なんです」
「貴族の話ですか?」
「はい。昔ね、うちの領でちょっとした事件があったんですよ。とある貴族様の家が襲撃されましてね。話によると、酷い怪我を負ったり、金品が盗まれたりしたらしく。家も壊されて住めたものではなくねなりまして。一家は、それはそれは酷い目に遭ったそうです」
「まあ、それは大変」
「それでですね、そのご家族は大きな借金を抱えることになりまして、苦しい生活を強いられているようなんです。ご子息なんて他領に出稼ぎに出ているらしいですよ」
「なんておかわいそうに」
「でも、大事なのはここからです。その一家に最近動きが出てきたんですよ」
「動き?」
「どうやらその一家の当主様が、領内の竜騒ぎに加担しているのではないかという噂が流れていまして」
「竜騒ぎにですか?!」
「ええ。まず、前回あなた達に会って以降、俺たち領民が騒いだおかげもあってか、領地でも少しずつ竜の存在を調査する動きが出てきました」
「それは良かったではないですか」
「はい。それは本当に喜ばしい話です。ですが……調査が進むにつれて、竜を呼び込んだのがその貴族の関係者だという話が聞こえるようになりました。」
「どうしてそんな……」
「詳しいことは俺たちも知りませんが、昔の事件に対しての逆恨みからではないかと言われています。俺たちとしては、一度あなた方の領地の人が竜を連れてきたと疑ってしまい、申し訳ないと思っていて。だから今日はこうして、謝罪と報告をしに来たつもりだったのです」
アレンは説明しつつも、最後は少し申し訳なさそうにしました。
なるほど、竜の話の発端はこちら側の領地からではなかったようですね。ならば、少し安心しました。
向こうの領地に関しても、貴族が関わっているとまで判明しているのであれば、あとはあちら側の自治でなんとかしてくれるでしょう。
「なるほど、そういうことだったのですね」
別に、隠すような話でもありませんね。
なぜレイバーはこの話を私に隠そうとしたのでしょう。
と、ふと私は横にしゃがみ込んでいるレイバーを見ました。
……が、その表情を見て背筋が凍りました。
アレン達には見えないようにはしていますが、険しい顔をしていたからです。
下唇を噛み、眉間に皴が入っています。足元の一点をただ見ており、何かを考えているようにも思えました。
ーーもしかして
嫌な予感がしました。
私はそっとレイバーにささやきました。
「もしかして、その貴族って……」
すると、レイバーは私の声でハッと我に返ります。険しい表情は解けたものの、こちらに目を合わせることなくまた視線を地面に向けました。
少し、ためらっているようにも見えます。
しかしほんの少ししたところで、私を見上げるとついに小さくコクリと頷きました。
ーーやっぱり。
竜に加担していると言われている貴族は……レイバーのご家族というこことなのですね。
そうですか、レイバーの家族が竜に加担……それはさぞ驚きでしょう。
厳しい表情になるのも納得ですし、私にも言うのを躊躇うのも頷けます。
すると、レイバーは私から少しだけ気まずそうに目を背けました。やはり、家のことなので、言うのは気が引けるでしょうね。悪いことをしました。
ただ……私はレイバーの様子に少しだけ違和感を感じました。
だって、気まずいという表情の中に焦りのようなものが一瞬表れたからです。
見逃しはしませんでした。
なぜそんな表情を?
ーーと、そこまで考えて私は自分の体が急に冷たくなるような感覚を覚えました。
そうだ。私は大切なことに気付きました。いえ、気づいてしまいました。
ーー竜に……加担?
竜ってあの……例の……?
途端に私の目の前が真っ暗になったような、そんな感じがしました。
ここでやっとレイバーが私に聞かせたくなかった理由に納得しました。
「……知ってたのですか」
自分でも驚くくらい、低く冷静な声が出ました。
怒りのような、失望のような、なんとも言い難い感情が私の中で現れました。
やっとレイバーへの違和感、そして必死さを理解しました。
”自分の家族が竜に関わっている”と……私には知られたくなかったとのですね。
だって、その竜は……私のお師匠さまを攫った竜かもしれないのですから。
すると、レイバーは私のただならぬ雰囲気を察したのか、顔が真っ青になりました。きっと、私がこのような反応をすると、心のどこかでは思っていたのでしょう。
すぐさま「知らなかった。本当に。信じてほしい」と先ほどの控えめな態度とは打って変わって、大きく首を横に振りながら、慌てたように私の手を握りました。
強く握られていて、必死さを感じます。
一見すると、レイバー自身も事実を本当に知らなかったように見えます。
でも、本当でしょうか?
私のお師匠さまを攫った竜の犯人が、レイバーの家族なのかもしれない状況が出てきました。
噂で信憑性は低いとは言え、本当のことかもしれません。
私はレイバーさんが嘘をついて、私を監視していたのではないかと、だんだんと疑心暗鬼になります。
私が疑っているというのが顔に出ていたのでしょうか。レイバーは手を握ったまま膝をついて私に懇願するような姿勢をとりました。
「本当に信じてくれ。僕は何も知らないんだ。だって仮に知ってたら、この話を君に聞かせたりはしないだろう? 僕が犯人だとなぜ自ら暴露する必要があるんだ。だから本当に今僕も知って動揺してるんだ」
「でも、それを証明することはできますか?」
すると、レイバーは大変悲しそうな顔をして「いや、今はまだ……」と、こぼしました。
レイバーの必死な様子を見て、なんだか信用したい自分と、でも警戒をした方がいいと思っている自分がいて、葛藤をしてしまいます。だいぶ懐柔されてしまったものですね。
私たちのただならぬ雰囲気に気づいたのか、アレンが心配そうに「あの……大丈夫ですか? 何かまずい話でしたか?」と言いました。
そうでした、この方々を放置していてはいけません。一旦この場はうまくやり過ごし、後で詳しく話を聞くことにしましょう。
逃しませんよと警告をするように私はレイバーを睨み、逃げないように片手だけレイバーの手を握りました。
そして私は、くるりと振り返ると、表情筋を無理やり動かしてにこりと微笑み、「いいえ、ちょっと気になることがあっただけです。」と返しました。




