第5話「長い長い夢の始まり」
窓から差し込む光はこの先はもう無い。
(——どうする?このまま進めばいつか光がなくなって何も見えなくなるだろう。)
何か…明かりは……
———!僕には荷物があったじゃないか!
カバンは…ない。ホームから転落した時に落としたか?
僕がポケットを探ると、何か硬い物に手が触れる。
懐中電灯。
「…良かった。まだ点くみたいだ。」
僕は試しに懐中電灯で奥を照らす。…端は見えない。
内装は同じ。…何の変化も無い。
僕は、向こう側に足を踏み入れる。
そして一歩、一歩と進んで行く。
…進めば進むほど、空気が冷たく変わっていく。——吐く息が白い。
「そろそろ戻ってみたりは……っ——」
そこにあった筈の光は見えなかった。
(閉じたのか…?)
「…はぁ…出口も探さないとだな…」
——進むしか無い。
指が悴んで痛い。
足の震えが止まらない。
耳がちぎれそうだ。
吐く息はもう白くない。
「はぁっ…はぁっ…見つから…ない」
(こんな…所で…終わる…訳、には…)
「走れば…温まるか…?」
そんな体力はもう無い。
…逃げてしまおうか?
彼女とはここで会っただけだ。向こうは僕のことを知ってるらしいが…こっちにはそんなこと知ったことじゃ無い。
見なかったフリをして、振り返るだけだ。
そう、それでいい。
(…僕は…何を考えている。)
足がもつれ、床に倒れる。
冷たい床が、わずかに残っていた体温を奪う。
もう…ダメか。
(眠れば…楽になる。)
もう瞼を閉じてしまえ。何を躊躇っている?
——その時。
急に体が熱くなった。
汗が滲んでいる。
僕は苦笑いをした。
凍死する寸前、体が熱くなるという…そんな話を思いだした。
「動ける…」
——どうせ死ぬなら…最後まで足掻いてやる。
僕は歯を食いしばって立ち上がる。
そして——
車両を駆け出した。
——どのくらい走ったかわからない。
息が荒い。もう足の感覚はない。
視界も滲み始めた。
少しでも止まれば…死ぬ。
「はぁっ…はぁっ…!」
その時。
暗闇の中に何かが見える。
僕は自然とスピードが上がる。
——いた。
——彼女だ。
ふらふらとした足取りで近づく。
「ねぇ…——っ!」
思わず息を呑んだ。
…冷たい。まるで死体みたいに。
「嘘…でしょ?」
声が震える。
「ねぇ…何とか言ってよ」
——その時。
僕は目を疑った。
「…胸が…上下して…」
息はある。…だが、それももう虫の息だ。
相変わらず、意識はない。
「…急いで、病院へ…っ…」
僕は懐中電灯を床に置く。
——重い。
だが、僕は歯を食いしばって無理やり彼女を背負う。
「くっ…うっ…」
背負ったのは良いものの…これでは歩けそうにない。
僕は顔を伏せる。
——その時。
足元に何か黒い霧みたいな物が足にまとわりついている。
前からの威圧感。
——何かが居る。
僕はゆっくり顔を上げる。
——僕は恐怖で固まってしまった。
手足が異様に伸びた“人のような”黒い化け物が立っていた。
鋭い爪を懐中電灯の光が照らす。
その時、僕はずっと奥の方に光が灯っているのを見つけた。
「——出口だ」
僕は直感でそう感じた。
だが、この状態で化け物を振り切れるだろうか?
——無理だ。
「私を…おい…て…いけ」
彼女が掠れた声で囁く。
「——!意識が——」
「喜んで…いる暇…は、ないぞ。」
「………昔の…ツケが回って…きたんだ。」
一拍間が落ちる。
「…報いだよ」
彼女は当たり前のように言う。
「報いって…後でいくらでも反省しててくれ。」
僕は身構える。
「——!やめろ…何をするつもりだ」
僕は化け物の爪を睨む。
あんな爪くらい…1発くらい耐えれる。
——駆け抜ける!
僕は地面を蹴る。
…だが、自分の想像していた衝撃はやってこない。
後ろを振り返ると…
あの化け物は…既に遠くなっていた。
(一歩しか踏み出してない筈なのに…それに…体が異様に軽い!)
「ガァァアアアア!!」
化け物は耳をつんざくような方向を上げながらこっちへ走ってくる。
僕は振り向いて走り続ける。
(懐中電灯は既に無い…あの光だけが頼りだ。)
耳が空気を切る。
光が大きくなっていく。
——よし!やっ——
ダン
僕は出口を目の前にして倒れた。
(なんで…?力が入らな——)
——その瞬間、胸に焼けるような痛みが走る。
「ぐっ!?あ゛あ゛ぁ!!」
内臓が焼けるみたいだ。
あまりの痛みに汗が噴き出る。
(意…識が…)
ダン ダン ダン ダン!!
化け物の足音が近づいてくる。
その時、僅かに引っ張られる感覚を感じた。
「くそっ…やはり負担が…だからやめろと…」
さらに足音は大きくなっている。
「くっ…ふっ…」
出口が近づいていく。
「私も使う…しか!」
その瞬間、すごい力で引っ張られる。
爪が頭を掠めると同時に、僕らは光に飛び込んだ。




