第4話「長い長い夢の始まり」
「だめだ、危険すぎる!人の体が負荷に耐えられる訳がない!」
僕は声を荒げる。
「これが成功すれば、沢山の命が救えるんだ!それにもう時間がない!」
負けじと彼女も声を大きくする。
「馬鹿言わないでくれ!神洩を常に引き起こす人工心臓だって!?そんなの体を常に蝕み続ける…癌みたいな物じゃないか!それが一生だ!装着者の事を考えてくれ!」
彼女はさらに声を大きくする。
「えぇ!だから私が付ける!それなら文句はないだろう!」
僕は呆れる。
「文句がないだって?あるに決まってるだろう!」
(今のは…)
さっきの人は…何処か彼女に似ていた。
「うっ…」
首を締められたからか、声が掠れ、喉が痛い。
首には、絞められた時の感覚が残っている。
(何かに襲われたのか…?)
「——っ!なら彼女は!?」
周囲を見回す。
——いない。
胸がざわつく。
最悪な光景ばかりが頭をよぎる。
(そんなはずは無い。でも…)
「急がないと」
僕は横にある手すりを掴む。
「っ…」
手に力が入らず、上手く立ち上がれない。
それでも無理やり立ち上がる。
その時、僕は自分の足元に微かに灰が落ちているのに気がついた。
「風?」
でも、風は感じられない。
だが、灰は自分の背後へと流れて行く。
「どうせ…二つしか道はないんだ。…行くしかないか。」
僕は灰が流れる先へと足を向ける。
——どれくらい歩いただろうか?
貫通路を数えきれないくらい潜り、全く変わらない景色を何度もみてきた。
瞼の裏にこの車両が映るくらいだ。
「はぁ…」
僕は溜め息をついて横にある植物の隣の座席に座ると、植物君に話しかける。
「やぁ?元気かい?こんな所だと光合成できないだって?あぁ、なるほどね、だから白いのか。適度な日焼けは大切だよ。」
(僕は…このまま…)
永遠に彷徨うことになるんだろう。
等間隔に配置された手すり、1車両に4つある開かない扉、車両の左後ろに生えた植物。
どれもいつまでもいつまでも変わらな——
…どうやら僕はおかしくなってしまったらしい。
植物が車両の左前に生えているように見える。
まるで鏡越しに見たように反転している。
「お引越しかい?確かにいつまでも同じ場所に居ると飽きちゃうもんね」
僕は溜め息を吐く。
「…いつからだ?」
僕は自分がまだおかしくなっていない可能性に賭けることにした。
「ここだ…」
僕はついに反転し始めた場所に着いた。幸運なことに、それほど遠くは無かった。
境となっている貫通路には…何もない。
(どうして景色が反対になってるんだ?何か意味があるはず…)
だが——何も見つからない。
「ここまで来たのに…」
その時。
視界の端に、何か違和感が走る。
境の丁度真ん中。
そこに、小さい灰の山がある。
——完璧に半分になっている。
まるで、見えない線で仕切られたみたいに。
「見えないけど…ここには確かに“何か”がある」
手を伸ばした。
——手は何にも触れることは無かった。
「…目を瞑ってみよう」
どうしてそう思ったのかはわからない。けど何となく、それならできる気がした。
暗闇の中、ゆっくり手を伸ばす。
その指が何かに触れることを期待しながら。
指先に…
何か冷たい感触を感じる。
ゆっくり目を開けると——
そこにはガラスのような“何か”があった。
触れている部分が歪んでいる。
「これは——」
その瞬間。
——ピシッ。
表面に細かいヒビが入る。
僕は力を入れる。
「っ…」
力を入れれば入れる程、ヒビが広がって行く。
それが全面に広がりきった瞬間——
パキン!!
目の前の景色が崩れる。
「ついに——」
頬を冷たい風が撫でる。
「…っ…」
——目の前には暗闇が広がっていた。




