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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第312話 正解だ。良く分かったな

 午前の授業は盛大に居眠りをかまし、昼休憩中には中庭でバルクに叱られる。そんないつも通りの情けない姿を晒したランディではあるが、間もなく始まる投票を前に演説があることを知って、


「え? なにそれ?」


 と、今日一番の情けない声を発していた。


「演説ですよ。候補者が複数いる場合は、投票前に全校生徒の前で最後の演説があるんです」


 二度目になるリズの説明に「ふーん」とランディが頷いて、果実水のストローに口をつける。しばしチューチューと大人しく果実水を啜ったランディが、「演説……」と呟いた。


「誰が?」

「ランディが、ですよ」

「俺が?」

「はい」

「ホントに?」

「ホントです」

「いやでも――」

「諦めろ。何度聞いても聞き間違いじゃねえよ」


 ため息混じりのルークに、ランディが「だってよ」と盛大に眉を寄せた。


「演説だぞ? 俺が……。何話すんだよ。今日の天気か?」

「馬鹿か。選挙の演説だっつってんだろ」


 呆れ顔のルークに便乗するようにウェインも「ばーか、ばーか」と呆れ顔で笑っている。それにすら反応できない程ランディは「マジか……。え? 演説ってなに?」と今も一人呟いている。


 仲間たちが半ば呆れ顔でランディを見守る中、セシリアは隣のリズをチョンチョンと突付いた。


「それで? 原稿は準備しているんですわよね?」


 セシリアの疑問に、エリーと顔を見合わせたリズが、苦笑いで首を振る。リズが見せるまさかの反応に、セシリアが「なぜ?」と言いたげに目を見開いた。無理もない。ランディの状況と頭を考えれば、ブレーンともいえるリズやエリーが原稿を準備していないなど、考えられないのだ。


 驚くセシリアに、リズが「エリーと決めたんです」と呟いてランディをチラリと見た。


「最後までランディに任せよう、って」


 微笑むリズに、セシリアが「ハァ……」とため息をつきながら、ニヤニヤとした顔を二人に見せた。


「惚れた殿方は大きく見えてしまうんですのね」

「な゙――」

「そ、そんなんじゃ……」


 慌てるエリーとリズだが、顔の赤さは隠せない。そんな二人の様子に満足したセシリアも、ランディへと視線を移した。


「えー。本日はお日柄も良く……」


 ブツブツ呟くランディの背中を見て、「大きく…見えてしまうんですのね」とまた苦笑いを見せた。


「それでもランドルフ様なら、何かしてくれそうな期待はありますわね」


 小さくため息をつくセシリアの視線の先で、


「あとは、三つの袋だったっけ。あれ、これはなんか違うな……」


 ランディは未だブツブツと演説を考えているのであった。



 ☆☆☆


 生徒会長選挙がある今日は、午後からの教練は全て休みになり、選挙に使用される。ランディは一年、二年とエドガーがいた事で、誰も生徒会長に立候補しなかったから知らないが、本来は複数候補者がいる場合の演説などに時間を割くための措置である。


 そして今回ランディが三年になって初めて、こうして候補者が三人現れ、演説をしなければならなくなったのだが……。問題はその中にランディが入っているという点である。


 初めて来る大講堂の舞台袖……。そこからチラリと客席を見たランディが「最悪だ。満員じゃねーか」と何とも馬鹿そうなことを呟いた。


 全校生徒が参加するのだから、大講堂の客席が埋まるのは当たり前である。そんなことにすら気が回らないランディは「なんでこんなに人が来てんだよ」と今も頭を抱えている。


 何度も舞台袖から顔を覗かせ、「クソ、見間違いじゃねえ」と呟き、ウロウロするランディを、同じ舞台袖にいるエドガーが鼻で笑う。


「落ち着きのない奴め。今更怖気ついたか?」


 嘲笑を浮かべるエドガーを、ランディが振り返る。真っ直ぐ、真剣とも言える顔で何も言わないランディに、「……何だ?」とエドガーが僅かに眉を寄せた。


「……お前、なに仲良さそうに話しかけてきてんだ? アレか? もしかして俺と仲良くしてーのか?」


 本気の疑問。そんな雰囲気のランディに、エドガーの顔が見る間に赤くなる。


「だ、誰が貴様などと――」

「良かったぜ。俺お前のこと嫌いだし、仲良くしたいって言われたら、どうしようかと思ったぜ」


 安堵のため息をつくランディに、「お、俺のほうが嫌いだ」と怒りを顕にするエドガーを、今度はダリオが鼻で笑った。


「殿下、こんな馬鹿の言うことを真に受けては――」

「貴様も何を仲良さそうに話しかけている。もしかして許してほしいのか?」


 嘲笑を浮かべるエドガーに、ダリオが「チッ」と舌打ちをもらした。二人の間に流れる不穏でピリピリとした空気に、ランディが盛大にため息をついた。


「なんだお前ら? 友達同士じゃねーのかよ?」


 眉を寄せるランディに、ダリオとエドガーが同時に嘲笑を浮かべた。


「君も僕達に仲良さそうに話しかけて――」

「絶対に仲良くなどしてやらんがな」


 嘲笑を浮かべ、してやったりという雰囲気の二人に、「はぁ?」とランディが呆れた声を返した。


「どこも仲良さそうじゃねーだろ。普通だ、ふつー。道聞いてんのと変わんねー、フラットで単純な疑問だろ? それともなにか? お前らが俺と仲良くした過ぎて、勝手にそんな変換してんのか?」


 呆れ顔のランディに「「違う!」」と二人が同時に立ち上がるのだが、ランディの口撃は止まらない。


「良いって。お前らアレだろ? 文章に書いてあることとかを、勝手に変換して自分の都合のいいように解釈するタイプだろ。そういうの良くないから、止めとけよ」


 呆れ顔のランディが「ちゃんと国語の勉強しとけ」と鼻で笑い、二人に興味を無くしたようにまた舞台袖から客席を覗き込んだ。


 エドガーもダリオも顔を盛大に歪めるが、ランディの背中を睨みつけるだけで何も言わない。いや、言うことが出来ない。


 何だかんだで、二人とも優秀な生徒達故に、理解しているのだ。のっけの「仲良くしたいのか」発言に始まり、先程の「ただの質問だ」という結びで、完全にランディのペースに巻き込まれていたことを。


 完全に後手にまわっている。


 こうなっては、無言を貫くのが得策なのだ。何を言っても、屁理屈のような内容で煙に巻かれる。だから、今だけは二人で黙ったままランディを睨みつけるに留まった。


 しばしランディを睨んでいたエドガーとダリオだが、自分の気持ちを落ち着けるように椅子へ座り直し、ランディから視線を逸らした。睨みつけていても、怒りが収まらない事に気がついたのだろう。


 再び静かになった舞台袖で、各々がその時を静かに待つ。


 ランディは相変わらず舞台袖から見える観客席を、羨ましそうに眺めている。妙な緊張感のある舞台袖とは違い、生徒達は皆楽しそうに笑っているのだ。


「くそ。何度見ても見間違いじゃねーな」


 諦めたようにため息をついたランディが、自分に用意された椅子へと腰を下ろした。何度見たところで、客席を埋める生徒達が減ることはない。


(つっても、舞台袖を見ても気が滅入るんだがな……)


 ため息混じりのランディの視線の先では、先程までとは打って変わって静かな二人の姿がある。


 熱心に原稿の確認をするダリオ。そして……


「そうだ……あの頃から全てが狂ったのだ」


 ……ブツブツ呟きながら、くすんだ輝きを見せる金の玉を握りしめるエドガーの姿。


(あれって……。確か分校長の話じゃ、何とかっつー研究機関に封印されたはずじゃ……)


 眉を寄せるランディの視線に気がついたのか、エドガーが玉を守るようにランディから隠した。


(いや、いらねーし)


 内心ため息をついたランディが、エドガーから視線を逸らした。なぜアレをエドガーが持っているのか、そしてなぜあそこまで執着しているのか。分からないことばかりだが、今ここで聞いた所で答は得られないだろうことは分かる。


 それでも一応、後で分校長に報告だけしておこう、とランディが決めた時、


『これより、マクシミリアン帝国学院アレクサンドリア分校の、初代生徒会長選挙を始める』


 ルキウスの声に、生徒達が拍手で答える。


『では諸君。投票の前に、候補者達に最終演説を聞かせてもらおうではないか』


 会場を覆っていた拍手が、「わぁ」という歓声へと変わる。一週間あった選挙期間の集大成であり、何より候補者達にとっても最も重要なイベンドでもあるからだ。


 どれだけ事前の期間で先行していたとしても、ここで逆転して会長になった人間は数多くいる。自分が目指す学院像を語る演説の力は馬鹿にできない。


 だからこそ、生徒達も候補者が何を語るか、それを見極めねばならない。


 舞台袖にまで届く歓声と拍手にだが、こんな状況でも緊張を一切見せないダリオとエドガーは、流石に場馴れしていると言えるだろう。


 ちなみにランディはというと……


「かぼちゃだ。かぼちゃ……。あれ? 大根だったっけ?」


 ……二度の人生を通じて、最も緊張をしていた。


「あー。やべー。ゲー吐きそうだ……」


 ランディが虚ろな瞳で虚空を見つめたその時、「立候補順に行くぞ。まずはワイスマンだ」と係の教官に呼ばれ、ダリオが「はい」と真っ直ぐ舞台へと歩いていった。


 堂々と歩くダリオの背中を見つめるランディは、「よし、スベれ……スベれ……」とわけの分からない念を飛ばし続けている。


 ランディの念を一身に受けたダリオが、舞台に用意された演説台の前に立ち、まずは一礼。そしてゆっくりと聴衆である生徒達を見回した。


「〝楽しそうだから〟選ぶ。……それが君たちの選択基準か?」


 名乗らず、そして静かに始まった演説に、聴衆がざわつく。それを無視して、ダリオは間を置かず続ける。


「この先に続くだろう、いくつもの選択肢。君たちの未来に待っている、栄光とも言える経歴――それを〝面白いかどうか〟で測るのか?」


 語気を声を強めるダリオが、聴衆を見回した。


「君たちはこの学院で何を学ぶ? 魔法か? 剣術か? 政略か? ――違う。

 ここで学ぶべきは、〝己の未来に責任を持つ覚悟〟だ。

 学院は遊び場じゃない。次代を担う者の、試練の場だ。」


 ダリオが拳を握り、ひと呼吸置いた。


「確かに楽しそうな者は眩しく見える。仲間に囲まれ、拍手喝采を受け、英雄のように見えるかもしれない。だが、その笑顔の下にあるのは何だ? 理念か? 政策か? ――否。ただの勢いと空気だ」


 真っ直ぐに前を見るダリオが己の胸に手を当てた。


「だが私は違う。私には〝信じる道〟がある。国を捨て、故郷を裏切ってでも、この手で秩序を築くと誓った。それがどれほど非難されようと、私は己を恥じない。

 なぜなら――〝世界は、綺麗事では守れない〟と知っているからだ。」


 聴衆のざわめきが大きくなる。まさかこの場で自身の裏切り行為を、出してくるとは流石に誰も思わなかったのだろう。


「それこそ私の未来への覚悟。君たちはどうだ? 君たちが真に、〝この学院を託したい〟と言えるのは誰だ?

 皆と笑い合える奴か? それとも、皆の覚悟を導ける者か?」


 ダリオが今日一番の声を張り上げ、全体に響かせる。


「――私に託せ。君たちの〝未来〟を、世界の〝秩序〟を、この学院の〝誇り〟を!」


 ダリオが両手を広げ、顎を上げた。


「ここから始めよう。遊びではない、本物の学院生活を……。覚悟あるものは私についてこい。この、ダリオ・ワイスマンに!」


 演説が終わり、ダリオが優雅な一礼を見せた瞬間、講堂内の一画から割れんばかりの拍手とダリオコールが巻き起こった。それが伝播するように、拍手が一気に広がっていく――。


 もとより優秀かつ将来を見据える生徒が多い学院なだけに、彼らの未来を約束してくれるような、強烈なリーダーシップを見せたダリオの演説に、多くの生徒達が感心したのだ。


 ランディの持つ雰囲気が、どこか刹那的なことも作用している。ランディを擦るような「楽しいだけでいいのか?」という呼びかけは、間違いなく生徒達の中にあった、小さな不安を大きくし、ダリオという強烈なリーダーの安心感を刷り込む一助となっている。


 ランディらしさを逆手に取った、ダリオ渾身の演説とも言えよう。


 完全に会場が一体となったような、空気にダリオは高々と手を挙げて応えながら舞台袖へと帰ってきた。途中すれ違ったランディを、「フッ」と鼻で笑うことも忘れていない。


 思い切りランディを擦った内容の演説で、これだけの歓声を貰ったのだ。次に登壇するランディにとっては、強すぎる逆風である。それを理解しているからこそ、ダリオは堂々と椅子に座り、高みの見物とばかりにランディへ嘲笑めいた顔を見せている。


「次、ヴィクトール!」


 荒れ狂う逆風の中、名前を呼ばれたランディが「はいよ」と気の抜けた返事とともに、舞台袖から一歩踏み出した。


 全員の注目を浴び、ゆっくりと歩くランディが演説台にたどり着いた。静まり返る聴衆。全員がランディに注目している。


 ――あの演説に、どういう演説で対抗するのか。


 全員が興味を示し、その時を静かに待つ……のだが、その静けさは少しずつ崩れていく。


 演説台の前に立つだけで、いつまで経っても演説を始めないランディに、会場がにわかに騒がしくなりはじめた。


「あいつ、何も考えてないんじゃないか?」


 そんな声が聞こえてくるほどに――。

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