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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第310話 皆色々あるよね

 もう間もなく日が沈み、学院の下校時刻が迫る中、ランディはというとリズやエリー、ルークにセシリアといつもの五人で、学舎の正面玄関前にいた。日除けの大きな屋根エントランスキャノピーの柱に凭れるランディに、リズが心配そうな顔で口を開く。


「皆さん、大丈夫でしょうか?」


 不安そうなリズに、「心配すんな」とランディが微笑んだ。ユリウスやリヴィアはもちろんだが、ウェインもレオンも、そしてキャサリンも、全員が「自分が行く」と言って聞かなかった連中である。心配するのは逆に失礼だ、とランディが笑いながら話すのだが……


「でも、キャサリン様と殿下は……」


 リズの言わんとしていることに、ランディも「まぁ……な」と歯切れの悪い言葉を返した。それに関しては、リズの心配も分からないランディではない。


「いくら連中が馬鹿だとしても、学内でいきなり斬り掛かったりはしねーだろ」


 リズに、というより自分に言い聞かせるように呟くランディに、「ですよね」とリズも頷いて、それ以上は何も言わない。


 そうしてまた、静かになった正面玄関前に風が吹き抜けた時、ランディとルークが、「ん?」と視線を前庭から横に伸びる道へと向けた。大講堂や運動場へ抜けられる道を見る二人に、リズ達が首を傾げて同じように視線を向ける。


 何も無い、夕日が照らす道の先から少しだけ賑やかな声が響いてきた。


「この声って……」

「キャサリン様達のものですわ」


 リズとセシリアが呟き、顔を見合わせたかと思えば、二人は小走りで前庭へと駆け出した。


「全く……そそっかしいやつらめ」


 二人の背中にため息をつくエリーだが、ランディはその顔を見て小さく笑う。エリーの顔にも分かりやすい安堵の色が見て取れるからだ。ランディの笑みで、エリーもそれに気がついたのだろう、慌てたように「……なんじゃ?」とランディにジトッとした視線を向けて取り繕ってくる。


「いんや。なにも――」


 それがまた面白く可愛らしいのだから、ランディとしても言葉とは裏腹に笑みが抑えられない。


「何を笑っておる」

「笑ってねーって」

「笑っておるではないか」


 頬を膨らませてにじり寄るエリーの額を、ランディが人差し指で押しのけた時、「イチャついてねえで、行こうぜ」とルークが前庭を顎でシャクった。ルークの言う通り、道の向こうにはこちらに向けて歩いてきている数人の人影が見えるのだ。


「だな。なんで全員であっちから帰って来るのかも気になるし――」


 呟いたランディが、エリーに「行くぞ」と声をかけつつ前庭から通じる道の方へと駆け出した。



 茜に染まる道の向こうから歩いてくるのは、間違いなくエルシアやガイと一緒のユリウス達だ。だがランディもそしてリズ達も、ここで待っている全員がその異変に気がついた。


「……ウェイン様もレオン様も、どうされたんですの?」


 呟くセシリアの言う通り、ウェインとレオンは遠目に見ても、制服がボロボロに見えるのだ。想像していなかった光景に、思わず駆け出したランディ達に向こうも気付いたようで、「おーい」と呑気な声で手を振っている。


 近寄ってみると、やはりウェインとレオンの姿はボロボロであった。服は所々破れ、血がついている。露出した肌や、顔に傷は見えないのは、キャサリンのおかげだろう。それでも未だ鼻に詰められたティッシュにも、僅かに血が見える。


「なぜこのような――」

「リズ――」


 思わず駆け寄りそうになったリズを、ランディが押さえユリウスに視線だけ向けた。説明を求める、と言いたげなランディの視線に、ユリウスが仕方がない、とため息をついて口を開いた。


「キャサリン嬢に会って合流してからしか知らないんだが……」


 もう一度ため息をついてウェインとレオンを見たユリウスが、「やり合ったんだ」と道の向こうを振り返った。それだけでその場の全員が、一体何が起きたのかを理解した。


 どちらがどちらと戦ったか、までは分からずとも、ウェインとレオンがエドガーとアーサーと戦い、そして――


「えらく、ボコボコにされたんだな」


 苦笑いのランディを、キャサリンが「ちょっと――」と顔をしかめて睨みつけた。もちろんそれはキャサリンだけではない。ガイとエルシアは驚き、セシリアも少々非難めいた視線をランディに見せるのだが……リズとエリーだけは呆れ顔で「ランディ……」と呟き、ウェインとレオンの当人二人に至っては、ランディの言葉に笑い声を上げた。


「そうだな。ボッコボコだったな」

「っすね。完敗っす」


 爽やかに笑い飛ばす二人が、それでも何発かは殴ってやったと見せるドヤ顔に、ウェインの隣にいたガイが、何度も頷いて、終いには我慢できなくなったように口を開いた。


「お二人のお陰で、殿下達に『好きにしろ』って言ってもらえて」


 頭を下げるガイに、ランディが「そうか……」と頷いた。


「ま、実際は『こんな雑魚に裏切り者が与したところで、何の脅威にもならん』って見下されて終わったんだけどな」


 笑いながら頭を掻くウェインに、ランディはもう一度「そうか」と頷いて、二人に向かって微笑んだ。


「お前らを行かせて良かったよ」


 笑顔のランディに「負けたんだぞ? 嫌味かよ」とウェインが口を尖らせるのだが、ランディは「馬鹿か」とそれに首を振る。


「掛け値なしの本心だ」


 真っ直ぐなランディの視線に、「どうだか」とウェインが肩をすくめる。


「充分過ぎる結果だろ。後輩を守って、ムカつくやつをぶん殴って――」

「その十倍は殴られたけどな」


 苦笑いのウェインに、「良いんだよ。お前ら、カッコ良すぎんだろ」とランディが笑顔を返す。ランディの笑顔と言葉に、ウェインが思わず「どこが――」と発した声が僅かに震え、慌てたように口を噤んだ。


「カッコ良いだろ。ちゃんと『任せろ』って言ったことを、達成してきた。これがカッコ良くなくて、何がカッコ良いんだ?」


 ため息混じりのランディが、おもむろにジャケットを脱いで、ウェインの頭から被せた。


「何す――」

「いいから被ってろ」


 払いのけようとするウェインの頭を、ランディが軽く押さえつけた。


「ちっとカッコ良すぎるからよ……。俺のリズやエリーに、今のお前の顔は見せらんねーんだよ」

「ンだよそれ?」

「みっともねー。男のジェラシーだ」


 笑うランディが、ウェインの頭からそっと手を離した。黙り込んだウェインに満足したランディは、今度はレオンを見た。


「レオンも。キャサリン嬢を守ったんだろ?」

「いや、そんな……守ったっていうか――」


 シドロモドロになるレオンと、急に大人しくなっウェインに、ランディが「とにかく、ありがとな」と言葉をかけた。


 一瞬訪れる静寂と、吹き抜けた風にランディが「んじゃ、帰るか……」と前庭を振り返ったその時、


「……ホントはよ……。もっと上手くやるつもりだったんだ」


 不意にジャケットの中から、ウェインのくぐもった声が響いた。


「でも……ムカついちまって」


 僅かに震えるウェインの声に、誰も何も言わない。


「だって、ランディの腰巾着とか言われたんだぜ?」

「そりゃ、キレていいな。俺だって、お前みたいな可愛げのねー腰巾着なんて持ったつもりはねーよ」


 笑い飛ばすランディに、「だろ?」とウェインが鼻をすすりながら笑う。


「ウェインが腰巾着とか、勘弁だぜ……。お前は友達で十分だ」


 微笑むランディの言葉に、「お、お前……」とウェインが言葉を震わせる。


「急に優しくしやがって。泣かせるんじゃねーよ」


 震えるウェインの声に、「なんだ? 泣いてんのか?」とランディが笑い声を上げた。


「な、泣いてねーし」

「じゃあジャケット取ってみろよ」

「テメーが被ってろって言ったんだろ」


 震えながらも笑い声の混じるウェインに「だったな」とランディが舌を出してみせた。


「もう少し……。もう少しは戦えるつもりだったんだよ」


 また呟くウェインに、「そうか」とランディが呟いた。


「でも、本当に何発か殴ったんだぜ? 初めてあのアーサー・ランスをよ」


 再び震えるウェインの声に、ランディはまた「そうか」と頷く。


「嘘じゃねーよ?」

「誰も嘘だなんて言ってねーだろ」

「本当だって……」


 ウェインの声が更に震え、ポタポタと地面を濡らす雫からランディ達は視線を逸らすように顔を上げた。


「……ごめんな、ランディ」

「何がだよ」

「お前の顔に泥を塗っちまった……。あいつら、『腰巾着がこれなら、程度が知れる』って」


 肩まで震わせるウェインから、女性陣が視線を逸らす。


「気にすんな。顔どころか全身泥だらけだ。今更泥の一つ増えた所で、誰も何にも言わねーよ」


 笑うランディに「……そりゃ確かに」とウェインも笑えば、ランディが「そこは否定しろよ、ぶっ飛ばすぞ」と笑顔を歪めた。


 二人の笑い声が重なり、そしてゆっくりと収まっていく。


「俺ぁよ……。お前らの中で唯一何でもねー男なんだ」


 ポツポツと呟くウェインに、誰も何も言わない。確かにこの場を見ても、ウェイン以外は、何かしらの肩書を持っているのは事実なのだ。


「だからよ。ちっとでもお前の役に立ちたくて――」


 ランディはその思いを否定することはない。何に悩み、何を考えるかは本人にしか分からない。仮にランディがどれだけ対等だ、と言ったところで、本人が気後れしていては、一生その差は埋まらない。


 その差を埋めるのは、結局は本人であり、そして積み重ねたお互いの年月でしかない。まだ友人として月日が浅い以上、ウェインが色々と気にするのは仕方がないのだ。


 それでもランディだからこそ、言える言葉というものもある。


「十分過ぎるくらい、役に立ってんだろ」


 ため息混じりのランディに、「そう…かな」とウェインが弱々しく呟いたその時、学院内に完全下校を知らせる予鈴が鳴り響いた。


「ったく……せっかちな鐘だな――」


 ランディが呟いたその時、通りの向こうがにわかに騒がしくなり、二十人近い集団が現れた。それはエドガー、アーサーを筆頭にした彼らの派閥のメンバーだ。


 ゾロゾロと連れ立って歩く彼らは、ランディ達に気が付き一瞬身構えたものの、エドガーがあえて堂々とした姿で歩き始めたことに合わせて、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


 脇へと避けたランディ達を横目に、何故か勝ち誇った顔で通り過ぎていくエドガー……が、ピタリと足を止めランディを振り返った。


「礼を言うぞ、ランドルフ・ヴィクトール」


 ニヤリと笑うエドガーに、「はぁ……」とランディが気のない声で返事をした。


「今は大事の前の小事……。会長選など、結局は遊びにすぎん。今の俺には本当に使える人間だけが必要だ、と理解させてくれた事には、感謝しておこう」


 含みのあるエドガーの言葉に、「今の俺達に戦えない役立たずはいらないからな」とアーサーも嘲笑めいた顔でガイとウェインを見ている。


「俺達に今必要なのは、高い志を共有出来、それに命を掛けられる真の同志だ」


 言いながらランディ達を見るエドガーが、「フッ」と鼻で笑う。


「バラバラの思想、纏まりのない集団……。いずれ俺達が全てをひっくり返す。そして――」


 エドガーの視線がリズへ注がれた。


「――あるべきものを、あるべき場所へと返してみせる」


 力強く言い切るエドガーに、ランディは「そいつぁ、よーござんした」と盛大なため息を返した。


「頑張ってくだせーよ。応援してますから」


 ヒラヒラと手を振るランディの張り合いのない態度に、「チッ」と舌打ちをもらしたエドガーが「行くぞ」とお供を引き連れて前庭へと向けて歩き始めた。いつの間にか前庭へと集まっている馬車は、予鈴を聞いて駆けつけたのだろう。


 もちろんその中にはエドガー達だけでなく、キャサリンやセシリアの馬車も見える。もうそろそろ帰らねばならない、もう時間もない、そんな中ランディは遠くなっていくエドガー達の背中へ「王子サマよ!」と声を張り上げた。


 不意に声をかけられ、訝しげに振り返ったエドガーに、ランディはニヤリとした顔を見せる。


「俺のツレ(友達)は強かったろ?」


 ランディの言葉にエドガー達が顔を見合わせ、吹き出した。


「……強かったな。恐ろしく」


 含みを持たせた笑顔のエドガーに「そーかい」とランディも笑みを返した。


「呼び止めちまって、悪かったな」


 ヒラヒラと手を振るランディに、「フン」と鼻を鳴らしたエドガーは、ランディ達へ背を向け前庭へ向けて歩き始めた。少しずつ遠くなっていくエドガーの背中を見ながら、ランディがポツリと呟いた。


「ウェイン、レオン……次は勝てよ」

「勝てって、そもそも次って――」


 ウェインに便乗するように、レオンも「もうそんな機会ないっすよ」と慌てながら首を振っている。


「分かんねーだろ。それに俺の勘が言ってんだよ。リベンジマッチがあるってことを」


 笑うランディに「リベンジマッチっすか……?」とレオンが苦笑いを見せた。


「大丈夫だよ」

「何を根拠に……」

「強くなりゃ良いだろ。それしかねーよ。お前の悩みに答えを出すには」


 馬車へと消えていくエドガー達を眺めるランディは、先程ウェインが吐露した悩みを引き合いに出している。結局のところ、自分の悩みを解決できるのは自分だけなのだ。呟いたランディの横で、ウェインが「簡単に言いやがって」とジャケットを取ってランディへと放り投げた。


「俺はお前みたいなバケモンと違って――」

「強くなれる。お前らなら」


 振り向いて言い切るランディから、ウェインが少し張れた目を隠すように視線を逸らした。


「だから、簡単に――」

「自信を持て」


 ランディがウェインの肩を強く叩いた。


「俺ぁ《《なまくら》》に鉄を斬れとは言わねーよ」


 そう言って笑ったランディが、呆けるウェインの肩を叩いて「そろそろ帰るか」と前庭へと向けて歩き始めたのと同時、完全下校を知らせる鐘が鳴り響いた。


 それにゾロゾロと続く皆を見送るウェインとレオン。その肩をルークがそれぞれ別の手で叩いた。


「まあなんだ。これだけは言えるが……あいつの目は本物だ」


 その一言だけで十分だった。一度打ちひしがれ、もう二度と立ち向かうことはないと思っていた二人の闘志に火を付けるには。


 燃え上がる二人の心を示すように、いつもよりも赤い夕焼けがいつまでも西の空を照らしていた。

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