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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第309話 え? 僕、もう関係ない感じですか?

 エルシアがダリオ一派の選挙対策事務所前で、まごついていた頃……。ひと足早く、エドガー陣営に顔を出していたガイも、似たような状況に陥っていた。


 交流会の報告に始まり、潜入任務の失敗、そしてエドガー派閥からの脱退のお願い。唯一違うのは、真っ直ぐエドガーを見据えて、「これ以上ご協力は出来ません」とストレートに思いを告げたことくらいか。


 深々と頭を下げ、今まで世話になってきたことへの感謝を述べつつも、それでも自分の気持ちに嘘はつけぬ、とガイはエドガーへ思いの丈をぶつけていた。


「……君も俺を裏切るというのか?」


 底冷えするようなエドガーの声に、「裏切る、なんて……」とガイが首を振るのだが、エドガーには届いていない。


「裏切りたければ裏切ればいい……。奴らのように」


 エドガーの瞳に映っているのは、ガイではなくダリオやクリスだろう。友人と思っていた連中が裏切り、祖国を帝国へと売り払った。エドガーからしたら、心底許せぬ出来事であっただろう。


 だから今もガイが申し出た脱退に、あの時の怒りがふつふつと湧き出てきているのだ。


「もう一度言おう。裏切りたければ裏切るといい。ただ――」


 拳を握りしめたエドガーが、ガイに強い殺意を向ける。


「――裏切り者には必ず報いを受けさせる。必ず、だ」


 力強く言い切るエドガーの真横で、アーサーもガイを睨みつけている。まるで教室から出るならば、即座に斬り捨てる。とでも言いたげな視線に、ガイはブルリと身を震わせた。


 ここから出ても地獄。出なくても地獄。進退窮まるガイが、困ったような顔を浮かべたその時、


『ただの学院生活に、裏切りも何もないでしょ』


 教室の外から声が響いた声に、全員が扉を振り返った時、勢いよく扉が開かれた。


「……何の用だ?」


 エドガーが睨みつける先に立っていたのは……


「用も何も、たまたま通りかかったら、不穏な話し声が聞こえたもんで」


 ……呆れ顔で肩をすくめるウェインだ。


「たまたま通りかかった? 嘘をつくな。ここは廊下の突き当りだぞ」


 眉を寄せるアーサーに、ウェインが「バレたか」と笑いながら頭を掻いた。


「ま、バレたんなら仕方ないんで――」


 ため息混じりに教室へと入ってきたウェインが、「一年坊主をイジメても仕方ないでしょ」とエドガーとアーサーを見比べた。


「なるほど。ヴィクトールにでも言われて、票になりそうな人間を囲いに来たわけか。この腰巾着め」


 鼻を鳴らすエドガーに、「人を囲う?」とウェインが眉を寄せる。


「んなわけないでしょ。こいつが誰を支持するか、誰と一緒にいるかなんて、俺やましてランディが預かり知ることじゃない」


 首を振ったウェインが、「もちろん、あなた達も」とエドガーを真っ直ぐ見つめる。


「俺がここに来た理由はただ一つ……。ダサい真似は止めて下さい、て言いに来たからですよ」


 真っ直ぐなウェインの瞳に「ダサい?」とエドガーが眉を寄せた。


「ええ。俺ぁこれでも一年の頃からアンタ達を認めてたんですよ。少し融通が効かないけど、優秀な王太子に、一年時から学園一の剣の腕前を持つ騎士。いち王国民として、アンタ達には期待してたんだ……それがワケの分からん女にうつつを抜かしたかと思えば、今やコソコソ後輩イジメですか?」


 軽蔑するようなウェインの瞳に、「「お前に何が分かる」」とエドガーとアーサーがほぼ同時に同じ言葉を紡いだ。


「知らないんで好き勝手言うんですよ。ただ……事情はどうあれ、今のアンタ達はダサいのは間違いないですけど」


「ダサいだって? 俺達が好きでこんな事をしてるとでも――?」


 椅子から立ち上がったアーサーに、ウェインが盛大なため息を返し、おもむろに自身のポーチ型マジックバッグから、木剣を二本引き抜いた。この状況で出てきた木剣に、エドガー以外の全員がガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる。


 どう考えてもウェインがカチコミの様相なので仕方がないが、本人は「焦るなよ」と苦笑いでアーサーへと視線を移した。


「これ以上は平行線でしょうし、俺ぁアッチに行った奴みたいに賢くもないんで……」


 ウェインが木剣を一本アーサーへと放り投げた。木剣を受け取ったアーサーが「何のつもりだ?」と訝しげな顔でウェインを見つめる。


「こいつで決めようや。アンタが勝ったら、俺は大人しくこの場を去る。俺が勝ったら、アンタらはダサい真似を直ぐに止めて、一年坊主を自由にする」


 敬語を止め、煽るようなウェインの顔に、アーサーの顔が分かりやすく歪む。


「……舐めてるのか? お前、戦闘教練で俺から一本を取った事なんてないだろう」


 盛大に眉を寄せるアーサーに「舐めてねーよ」とウェインが首を振るが、実際アーサーの言う通りなのだ。一年の頃に思い切りボコボコにされ、直近の戦闘教練でも負けている。つまりウェインは、今まで一度もアーサーに勝つどころか、剣を当てたことすらない。


 だからといって、退くことは出来ない。なんせランディに「俺が行く」と啖呵を切ってここに来たのだ。つまりは自分の意思でこの場に立っているのである。


「言ったろ? 俺ぁ賢くねーから、こういう方法しか思いつかねー。それに……試合じゃなくて、真剣勝負なら何が起きるか分かんねーだろ」


 ニヤリと笑ったウェインに、アーサーがため息をついた。


「……いいだろう。そのかわり、骨の一本二本では済まないぞ」


 殺気すら感じるアーサーの気迫に、ウェインがゴクリと唾を飲み込んだ。腐っても元騎士団長の令息だ。ウェインなどの一般人と比べると、幼少の頃から積み重ねた修練の量は桁違いである。本来なら相手にすらならないはずだ。


 それでもウェインとて、退くつもりはない。あのダンジョン研修から今日まで、出来る限りの修練は繰り返し、暇さえあればルークに手解きを受け、最近はリヴィアもそれに加わっているのだ。


 あの二人に比べれば、アーサーはまだ可愛い相手だと言える。……勝ち負けは置いておいて。


 深呼吸をしたウェインに、アーサーが外を示すように顎で窓の外をしゃくる。


「表に出ろ」

「望むところ――」

「ストーーーップ!」


 盛り上がる空気に、水を差すような女性の声。どこか残念な雰囲気が隠せないその声の主に、アーサーとエドガーは分かりやすく顔をしかめた。


「……エヴァンス嬢」

「何しに来たのさ?」


 顔をしかめる二人に、「止めに来たの……二人を」とキャサリンが固い表情で呟いた。


「止めに来た、だと……?」


 エドガーの表情が見る間に歪んでいく。


「君や教会のせいで俺達は――」


 思わず立ち上がったエドガーだが、流石にその先の言葉を紡ぐほど愚かではない。いや、紡げないという方が正しいか。なんせエドガーが怒りをぶつけたい、旧教会の上層部は、既に全員が処刑された後なのだ。


 それでもキャサリンを前にすると、思わず口をついて言葉が出たのだろう。言葉を押さえ込んだエドガーの顔に映るやり場のない怒りに、キャサリンは下唇を噛み締めた。


「ごめんなさい……」


 力なく、そして小さく謝るキャサリンに、エドガーの顔に疑問符が浮かぶ。


「何故君が謝る? 君も洗脳されていたのだろう?」


 首を傾げるエドガーに、キャサリンは何とも言えない顔で頷いた。もちろんキャサリンは頷くしか出来ないのだが、それ以上にエドガーが純粋にその話を信じていることに胸を締め付けられる思いなのだ。


 ――エドガー:よくも悪くも純粋で真っ直ぐ。


 キャサリンの脳内に浮かんだのは、乙女ゲー『うせやろ』のキャラクター紹介文だ。純粋だからこそ、壊れやすく、色々な事に染まりやすい。


 エドガーだけではない。ダリオもクリスもアーサーも……。『うせやろ』の攻略対象達は、皆よくも悪くも、多感で脆い一〇代の子供なのだ。


 いずれ大国を背負って立つとは思えぬ程、良く言えば純粋、悪く言えば甘ちゃんである。同い年で達観しているユリウスとは違う、一人で立てぬ弱さを皆が抱えているからこそ、ヒロインによって、立派な青年へと変わっていく。


 それぞれに様々な背景がある。だからこそ、彼らは完璧超人ではなく、その仮面を被らされたただの男の子なのだ。その仮面の下の脆さに気づき、癒やし、彼らに寄り添えるのがヒロインのはずであった。


 その過程があるからこそ、高位貴族たる彼らが、キャサリンという一人の女性に夢中になるのだろう。これがユリウスや人生二周目のランディのような攻略対象では、ゲームのヒロインとの関係では絆が深まらない。


 ヒロインの本当の立ち位置。それに気づいたキャサリンが、また「ごめんなさい」と頭を下げた。


「だから何を――」

「あなた達を……私のせいで――」


 この世界で彼らを導けなかった。本来なら純粋で優しいキャサリンがいて初めて、彼らは弱さを克服して進んでいけたはずなのに。もし、今の考えのキャサリンのまま出会えていたら……そんな事を思うキャサリンに、エドガーの顔が見る間に歪んでいく。


「『私のせい?』何を言っている?」

「私がもっと、皆の事を見ていたら――」

「見ていたらなんだ? まさか、俺達のこの状況を君一人がどうにか出来たとでもいうのか?」


 悲痛とも思えるエドガーの叫びに、キャサリンは「分からない……けど」と言うしか出来ない。本当はそうなのだ。己がゲームだと思って、好き放題した結果が、今のこの――攻略対象に敵意を向けられ、そして大好きだったはずの彼らは、今は見る影もない――現状なのだから。


 もっと彼らの弱さに真正面から向き合っていたら、間違いなく今のような酷い状況にはなっていなかったはずだ。


 キャサリンは痛感している。あの時ランディに言われ言葉の重さを。


 ――悪いがここは現実で、アンタはケツの青いガキだ。


 自分はヒロインだから、何をしても許されると思っていた。その傲慢さが、彼らに悪影響を与え、そしてこのような形で今キャサリンに牙を剥いている。


 大好きだった彼らはもういない。それでも、好きだった事実は変わらない。だからキャサリンに出来るのは、ただ謝ることだけなのだ。


「ごめん……なさい――」

「いい加減にしろ。これ以上俺を愚弄するなら、いくら聖女とはいえ――」


 睨みつけるエドガーが思わず口を噤んだ。自分の目の前で小さくなるキャサリンを庇うように、一人の男が現れたからだ。


「『いくら聖女とはいえ』……なんすか?」


 目の座ったレオンに、エドガーは「部外者は下がっていろ」と眉を寄せた。


「レオン、下がって――」

「聖女様は黙っててよ」


 キャサリンを押しのけるように後ろへ下げたレオンが、エドガーに真っ直ぐ向き直った。


「聖女様から、『自分が話すから下がってろ』って言われたんだけどさ……。あまりにもアンタらがクズすぎて、黙ってられなくて」


 鼻で笑うレオンに、エドガーが「なに?」と蟀谷に青筋を浮かべる。


「さっきから聞いてたら、『俺はこんなに大変なんだ』って不幸自慢ばかり。自分で何か変わろうとしたのかよ」


 眉を寄せるレオンに、「知ったふうな口を――」とエドガーが一歩近づいた。


「知らないよ、アンタのことなんて。たださ、アンタや聖女様の言う通り、キッカケは聖女様だったかもしんない」


 ため息混じりのレオンが、チラリとキャサリンを振り返った。驚いた顔を見せたキャサリンが、目を伏せ俯く姿にレオンがもう一度ため息をついた。


「確かに俺もアンタ達とつるんでる頃の聖女様は嫌いだったよ。馬鹿で、何も考えてなくて、男漁りばかりしてる……」


 味方に傷を抉られるキャサリンが、僅かに息をもらして更に俯いた。


「でもさ……。最近の聖女様は変わってきたんだよ。自分の立場を理解して、皆のために色々動いて……それ以上に今の聖女様は凄く楽しそうだ」


 キャサリンを振り返ったレオンが、「顔上げなって」と笑顔を向ける。


「今日のことも、アンタ達には自分の口から謝りたいって、ずっと言ってた。アンタ達は本当は凄い人なんだって、ずっと言ってた。それがどうだよ……。いつまで人のせいにして、駄々こねてんの?」


 見透かすようなレオンの瞳に、エドガーもアーサーも奥歯を噛みしめる。


「いっつも言ってた。本当は凄いんだって……。正直アンタらが羨ましかったよ。聖女様にそこまで言ってもらえるなんて」


 大きく息を吐いた、レオンがまっすぐにエドガーを見据えた。


「でもそれも今日までだ。今のアンタらに、聖女様の賛辞はもったいないね」


 ランディのような嘲笑を浮かべるレオンに、「頼んだわけじゃないさ」とエドガーが顔を歪めた。


「わっかんない人だな……。今の聖女様は、アンタなんかが相手にできない程いい女なんだって。その賛辞が相応しい男になってくれって意味だったんだけど」


 ため息をつくレオンの肩を、ウェインが叩いた。


「レオン。こーゆー馬鹿は、殴らねぇと分かんないんだって」


 ニヤリと笑うウェインに、レオンも「でも、相手のほうが強いっすよ」と眉を寄せる。


「良いんだよ。ムカつくから殴る。男の子なんだ。負けるからやらない、なんて情けねえこと言ってんなよ」


 拳を手のひらに打ち付けるウェインに、「そう……っすね」とレオンもニヤリと笑った。


「つーわけで、表に出ろや」


 手招きするウェインを、アーサーが「勝てると思ってるのか?」と鼻で笑う。


「馬鹿か。お前の方が強かろうが、負けるつもりで喧嘩なんか売るかよ。ぜってー一殴ってやるからな」


 ウェインの真っ直ぐな瞳に、「格の違いを教えてやる」とアーサーが嘲笑を浮かべ、レオンとエドガーも睨み合ったままゆっくりと頷いた。


 やると決まれば、四人の行動は速い。「ついて来い」というアーサーに連れられ、エドガー、ウェイン、レオンの順で教室を出て、更には派閥の生徒達も引き連れて行ってしまったのだ。


「え、ちょ――。止めに来たのに、何してんのよ」


 呆けていたキャサリンが、慌てて彼らを追いかけ教室を出た時には、既に彼らの姿は廊下にはなかった。


 教室にはポツンと残されたガイが一人。


「え? 僕、どうしたら……」


 ガイの疑問だけが、静かになった教室に響いて消えていった。

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