第303話 今はエレメント捕獲が一番
ランディはザイフを倒した翌日、いつも通り学院へと向かっていた。目的はもちろん、午後から開催されるランディ主催の交流会だが、午前中は授業もあるため朝から学院に顔を出さねばならない。
いつも通りの時間、いつも通りの道。ただいつもと違うのは、エリーとリズが不在ということだ。
二人共昨日はハートフィールドの旧王都邸宅に宿泊したため、今日はセシリアやルークと一緒に馬車で登校する予定である。
普段から目立つランディだが、今日は一人ということで余計に目立っている。周囲から注がれる視線の理由に思い当たりがあるランディは、欠伸を噛み殺しつつ独りごちた。
「電話でもありゃ、待ち合わせも出来たんだろうが」
言ったところで仕方がない。少なくとも二人はそろそろ馬車に乗って現れるはずなので、ランディが今だけはこの微妙な視線に耐えようと心に決めた時、後ろから近づいてきた馬車が、ランディの真横でピタリと止まった。
「あれ? アンタ一人なの?」
車窓から顔を見せるのはキャサリンだ。
「ちっと事情があってな」
「……ついに捨てられたのね」
同情するようなキャサリンの視線に「ンなわけあるか」とランディが顔を顰めた。
「セシリア嬢んところに泊まりに行ってんだよ。お泊まり会ってやつだ」
ランディの言葉に、キャサリンの顔が分かりやすく変わった。どこか羨ましそうな顔に、ランディが思わず吹き出す。
「今回は急だったからな。次は誘ってもらえ」
笑うランディに「は、はぁああ?」とキャサリンが眉を寄せた。
「なんだよ。お泊り会に参加したかったんだろ?」
「ち、違いますぅ!」
口を尖らせるキャサリンだが、引きつる顔が全てを物語っている。
「こーゆー時は、素直に『そうする』って言っとけ」
ため息混じりのランディが、「なぁ、リヴィア」と窓の向こうにチラチラと見えるリヴィアへ声をかけた。
「そうだよキャシー。次はリヴィア達もやろう!」
嬉々としてキャサリンを押して窓に並ぶリヴィアに、「あ、アタシは……」とキャサリンが言葉を詰まらせたちょうどその時、キャサリン達の乗る馬車の真後ろに、ハートフィールドの馬車が停まった。
「噂をすれば――」
ランディがそちらを見たことで、キャサリンとリヴィアも、窓から顔を出すように視線を後ろへ向ける。車窓から顔を出し、後ろを覗き込む令嬢二人……。その行儀の悪さに、車内からレオンとユリウスが、「行儀が悪い」と声をかけているのだが、二人は無視したまま後ろを見ている。
そうして三人が見守る中、馬車の扉が開きルークがまず降りてきた。ランディに視線だけ向けたルークが、馬車を振り返り手を差し出す。
ルークの手を取り、セシリアが馬車から降り、続いてルークはリズ、エリーの手を取って馬車から降りるのを手伝っている。
「ランディ――」
「ちゃんと一人で起きられたようじゃな」
パタパタと小走りで駆けてきたリズと、わざとゆっくりと歩くエリー。そんな二人にランディが笑顔で手を挙げる。
「二人共おはよー。つーか、一人で起きられるわ」
ランディの返しに、リズとエリーが顔を見合わせ笑う。
「キャサリン様も、おはようございます」
リズの挨拶にキャサリンが「お、おはよ」と小さく返し、リヴィアは「おっはよー」と元気良く手を振っている。
『聖女様、これ馬車から降りたほうが早いんじゃない?』
『そうだな。いつまでもこの格好は行儀も悪いだろう』
馬車の中からまた聞こえてきた、レオンとユリウスの声に、「分かってるわよ」とキャサリンが車内をチラリと振り返り、窓から離れてすぐ、車室の扉が開いた。
まず降りてきたのはレオンだ。ランディに「どもっす」と小さく挨拶をしたレオンが、少しだけ元気のないキャサリンの手を取り、その後はリヴィア、ユリウスとそれぞれが一人で降りてきた。
「皆様、おはようございます」
遅れてきたセシリアに、ランディやリヴィア、ユリウスが挨拶を返すのだが、キャサリンだけはやはり少しだけ元気がない。
「あら? キャサリン様はお加減が悪いのですか?」
首を傾げるセシリア同様、リズも心配そうな顔でキャサリンを見ている。
「ううん。元気よ」
笑ってみせるキャサリンだが、モロに表情に出ている寂しさに、理由を知っているランディは、レオンと顔を見合わせ思わず笑ってしまう。
「女子会に呼ばれなかったショックで凹んでるんだよ」
「ち、ちが――」
慌てるキャサリンに、リズとエリーがセシリアと顔を見合わせ、思わず笑う。
「今回は急でしたからね」
「誘うかとも思うたが、お主も一応立場ある人間じゃろう」
「子爵令嬢としても、聖女としても、ですわ」
三人の言葉に「そりゃまあ」とキャサリンも頷く。遊びに行くくらいなら問題はないが、泊まるとなれば話が変わってくる。曲がりなりにも子爵令嬢で聖女が、伯爵家にお邪魔するのだ。何の準備もなく訪問するわけにはいかない。
「そうだ。来週末に、選挙と撮影会の打ち上げをしませんか?」
手を打ったリズが、今リズ達が暮らしている借家でのパーティを提案した。確かにランディの借りている家ならば、キャサリンでも気兼ねなく訪れる事が出来るだろう。
そんな提案に飛びつくのはリヴィアだ。
「やるやるー!」
楽しそうに「キャシーも行こうよ」と飛び跳ねるリヴィアと、「ど、どうしてもっていうなら」とニマニマの止まらないキャサリン。
賑やかな女子達を見るランディが、仕方がないと言いたげな笑顔でため息をついた。まだ何も終わっていないのに、打ち上げとは……そんな無粋なことを言うランディではない。
ただルークやユリウス、レオンと顔を見合わせ笑顔で肩をすくめるだけだ。
「絶対に選挙戦に勝てってよ」
ニヤリと笑ったルークが、ランディの脇をつついた。
「でも、昨日の騒動でかなり先輩への風が吹いてるっすよ」
レオンの言葉に「みたいだな」とユリウスが頷くのだが、何かに気がついたように、ランディを見て声を落とした。
「昨日、あれから――」
「ああ。来たぞ」
頷くランディに、ユリウスとレオンが驚いたように目を見開いた。
「それで、相手は……」
「ぶっ殺したよ」
事も無げに言うランディに、ユリウスとレオンは苦笑いが止まらない。特にザイフ・アルドレンに関して、人より知っているユリウスからしたら驚きだったのだろう。だがそれ以上にユリウスが驚いたのは……
「死体は【黒月庁】とかいう連中が持っていったけどな」
「【黒月庁】か……」
ランディが帝国の影の名前を出した事だ。
「やつら、確かにそう名乗ったんだな?」
「ああ。銀の仮面をつけた野郎がな」
肩をすくめるランディに「銀月か」とまたユリウスが驚いたように呟いた。
「なんだ? そんなにヤバいやつなのか?」
眉を寄せるルークに、ユリウスが「内部監察官だ」と銀月の主な立ち位置を解説している。
「まあ自治区が出来たばかりだし、色々とあるんだろ」
この地域の状況を考えれば、そんな人物が居合わせていたとしてもおかしくはない。そんなランディの言葉に、「そうだといいが」とユリウスが小さくため息をついた。
「気にすんな。済んだことはどうしようもねーよ」
カラカラと笑うランディに、ルークも「まあ、だよな」と頷いた。今ここで気にした所で、連中の目的や理由などが分かるわけではないのだ。
「それよりも、さっさと行こうぜ。今日は昼からがメインなんだ。遅刻してケチをつけるわけにはいかねーからな」
ランディが学院へと歩き始めるのと同時、どうやら女性陣の話もまとまったようで、「じゃあ、来週末ですね」とリズが楽しげに微笑んでいる。
馬車を降りたキャサリン達も一緒に、全員で賑やかに校門をくぐるランディ達は、ここ数日で一番目立っている。それは彼らが楽しそうなこともだが、やはり午後からある未知の交流会への期待が大きいからだ。
新たな風を学院に吹き込んでいる。そんな自覚のないランディ達に憧れ、学院の雰囲気が少しずつ変化している事を、彼らはまだ知らない。
☆☆☆
賑やかに学院の中を歩くランディ達を、遠くから監視する勢力が二つ。一つはダリオを担ごうという総督派。そしてもう一つは、エドガーを担ごうという旧王家派。
どちらの勢力も、表向きには離脱者こそ出ていないが、ダリオもエドガーも風向きが変わった事を肌で感じているのだ。
だからこそ……
「頼むぞ。何としても交流会を失敗させねばならない」
「場合によっては、交流会そのものを潰しても構わん」
……離れた場所にいるというのに、ダリオとエドガーの陣営を支持する高位貴族は、奇しくも同じような事を、自身の子飼いへと囁いていた。
ランディの主催する交流会への潜入と撹乱。そんな重大任務を背負わされたのは、何の因果かあの日、運動場へと避難し、ランディ達のやらかしを眼の前で見ていたエルシアとガイの二人であった。
法務卿に返り咲いたクリスの父に恩を売りたいエルシアと、元王室の財産管理を任されていた縁から、今も王家派だと思われているガイ。
覚悟を決めた二人には、楽しそうなランディ達の様子がやけに遠くに感じられていた。
※質問来てました。
『王国を併合した帝国。両者の争いに関係のない公国の一領が戦争に関与して大きな影響を及ぼした、更に王国内の勢力と手を繋いで力を付けてきている。公国としては何も問題ないのだろうか?ヴィクトールがさきの戦争に関与したのは王国も帝国もわかっているはず。本来ならダメだよね。何で帝国は黙ってるのかな。』
このあたり、全部書くとすっごく長くてつまらない政治の話になるので、端折っていましたが、折角質問が来ましたので、近況ノートにてお答えしています。
全部書くと長くなるので、近況ノートでご勘弁下さい。
以下近況ノートのURLです。興味がある方はどうぞ。
https://kakuyomu.jp/users/--0_0--/news/16818622177226374857





