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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第299話 やられたらやり返す! 倍返しだ!

「腕の二、三本くらい折ってやったらよかったのによ」


 ため息混じりのルークに、「腕は二本しかねーだろ」とランディが眉を寄せた。


 二人が今いるのは、明かりの灯り始めた大通りにあるベンチだ。


 なぜこんな所に二人がいるのかというと、端的にいえば情報交換である。午後の教練に引っ張り出されたランディだが、仲間達の誰もその戦いは見ていないからだ。


 何があって、どんな相手だったか、そして何をしたのか。それらを話したランディに対するルークの返しが、冒頭のそれだ。


 拳骨二発に、蹴りとスタンピング。たったそれだけで終わらせたランディに、ルークは今も、「もっとボコボコにしたらよかったのに」、と不満が止まらない。


「エリザベス嬢やエレオノーラ様に治してもらえば、三本目の腕が出来るじゃねえか……」

「馬鹿か。ンな事したら、二人が目ぇつけられんだろ」

「それすら出来ないように、心を折るのがお前だろ?」


 眉を寄せるルークに、「やだよ。面倒くせえ」とランディが不満気に鼻を鳴らした。ランディとしては、相手の嫌がらせに、いちいち全力で相手をする程暇ではない。


「そもそも教練の延長線上だ。後輩を必要以上にビビらせるわけにはいかねーだろ」

「あー。それもそうか……」


 ルークもようやくランディの戦いが、教練の一部であったと思い出した。ルークもヴィクトールの感覚が抜けていないのだろう。


「つっても、それで狙われちゃ世話ねえけどな。もう少しくらい痛めつけたら――」

「馬鹿か。骨を折ったからって変わんねーよ」


 肩をすくめるランディが「余計面倒になるわ」とため息をついた。確かルークの言う通り、ああいう手合は間違いなく報復に来る。だから徹底的に叩き潰すのが基本でもあるのだがランディの言う通り、痛めつけ過ぎたら、面倒になるのも事実だ。


 それは報復が苛烈になるから……などではない。


 いつ来るか、分かりにくくなるからだ。折れた骨の回復に、どれだけ時間がかかるかなど、ランディに分かるわけがない。


 平時であればいつ来ても構わないが、今は街の発展にコピー機、そしてルックブックとやる事が盛り沢山なのだ。来るなら早いに越したことはない。


「つっても、本当に今日来んのか?」

「来るだろ。そのために気絶程度にしてやったんだ」


 鼻を鳴らしたランディが、逆にあの状態で今日来ないのなら、相手にすらならないと笑う。


 五体満足で、即座に行動出来ないというのなら、ランディからしたら警戒する必要もないのだ。


「まあ、言いたいことは分かる」


 ルークとて覚えがある。幼い頃、喧嘩でランディにやられた後、目覚めて直ぐに再戦に現れたくらいだ。


「それで、今日一日はセシリア様と一緒にいるように……か」


 ため息をついたルークが言うのが、ランディがリズやエリーにお願いした事の一つだ。


 ザイフの雰囲気や殺気から、ランディは間違いなくザイフが報復に来ると睨んでいた。教練の場での模擬戦だ。あの場で殺すことが出来ぬ以上、報復は免れない。


 ならばその日とターゲットをランディに絞らせるために、あの場でリズやエリーを遠ざけ、かつ安全であろうハートフィールドの屋敷へ避難させているのだ。


 ちなみにリタとハリスンも同行している。屋敷の周りを【暗潮】が固め、中はハリスンとエリー。そこにルークも合流すれば、例えランディですら乗り込むのに躊躇する完全防備である。


 屋敷の防備に思いを馳せるランディの横で、ルークは通りを歩く人を眺めながら口を開いた。


「ザイフ・アルドレンか。聞いたことはねえな」

「どうも、【黒狼】とか呼ばれてたらしいぞ」


 ランディが語るのは、ルキウスから聞いた情報だ。ザイフ・アルドレン。若い頃は帝国軍に所属しており、帝国最強と名高いライオネルと双璧を成す、とまで言われていた才能と実力の持ち主であったらしい。


 ただその冷酷かつ残忍な性格と、問題行動の多さから軍を追われた。ただ野に放たれた獣は、多くの問題を引き起こし、結局逮捕されたあと、特別恩赦という形でラグナル皇太子の私兵となったという。


「最初っから首輪つけとけよな」


 鼻にシワを寄せるルークの言う通り、一回野に放ったせいで、要らぬ被害が出ているのは事実だ。


「どうせ暗殺しようとして失敗したから、慌てて首輪をつけた、とかそんな所だろ」


 危険人物過ぎて、軍から追い出しその上で殺そうとしたが失敗。仕方がなく子飼いにした。そんな流れだとランディは言う。何とも馬鹿げた話であるが、ありえそうなのでルークもそれに「なるほどな」と頷くしか出来ない。


「とにかくイカれてんのは間違いねえと」

「魔剣持ちらしいしぞ」


 笑うランディに、「へぇ」とルークもようやく興味を示した。


「どんな魔剣か知らんが、実力は半分も出してないらしいからな」

「勢い余って、近くの建物を壊すなよ」

「普通に街の外でやるって」

「ならいい。派手にやってこい」


 何とも物騒な会話であるが、大通りを急ぐ人々はルークとランディの会話を気にする事はない。この時間の大通りは、家路を急ぐ人、外から帰ってきた冒険者、買い物帰りの人々、様々な人々でごった返し、誰もが皆自分の時間で必死なのだ。


 だからこそ、こんな場所で堂々と物騒な会話が出来るというものなのだが。


 そうしてザイフに関する情報が落ち着いた事で、ランディもルークに聞きたいことを尋ねることにした。


「つーか捕獲器の方はどんな感じだ?」

「問題ねえよ」


 肩をすくめるルークが、ノアがランディの理想通りの形に仕上げてくれた事を教えてくれる。ランディが戦闘教練で推薦の是非を判断されている間……いや、それ以降もセシリアや時間の空いている者を始め、リズやエリーもつれて魔道具研究会で明日に控えた捕獲調査会の為の準備を進めてくれていたのだ。


 ベンチに凭れ、暮れゆく空を見上げたルークが「馬鹿丸出しの形だけどよ」と笑い声を上げた。


「どこが馬鹿丸出しだ。トラディッショナルと言え」


 眉を寄せるランディに、「うるせえ馬鹿」とルークがまた笑い声を上げる。


「ちなみにエリザベス嬢も、エレオノーラ様も『何だこれ』って顔してたぞ」


 しっかりとルークが二人を見守ってくれていたようで、ランディとしては内心安堵のため息をついている。


 これもランディがリズやエリーに頼んだ事の三つのうちに一つだ。明日の準備をルーク達と頼む、と。ランディにとって、メインはあくまでも明日の捕獲調査会なのだ。


 もちろんルークに二人の護衛を頼む目的もあるのだが。


 ちなみにそれを頼んだ後のリズとエリー、二人の反応はというと……


 ――やりすぎたら駄目ですよ。

 ――結果が分かっている勝負なぞ、見る価値もないからのう


 であった。もちろん学院での騒動だけでなく、今から始まるだろう本番に関しても、である。


(心配されねーのは良いことなんだが……。全く心配されないってーのもな)


 何とも微妙な悩みで、思い出し苦笑いを浮かべるランディに「気持ち悪いな」とルークが眉を寄せた。


「うるせーな。ぶっ飛ばすぞ」

「やってみろ」


 大通りのベンチで睨み合う二人だが、どちらともなく「フン」と鼻を鳴らして視線を逸らした。


「俺が退いといてやるよ。小事の前の大事になっちまうからな」


 鼻で笑うルークに、「言ってろ」とランディも鼻で笑った。


「小事の前の小事だ」


 悪い顔で笑うランディに、ルークが「ぶっ飛ばすぞ」と眉を寄せた。


 不気味な男に狙われているだろうことなど、感じさせないランディとルークの下らない話は、それからしばらく続き、忙しない大通りに時折二人の笑い声が響いていた。



 ☆☆☆



「……一体何なんだ。あのバケモノは」


 奥歯を噛み締め、貧乏揺すりを繰り返すグスタフは、昼間に感じた恐怖を思い出し、思わず顔を青ざめた。


 ランディによって花を持たされた形になったが、見る人間が見たら、グスタフが避けたのではなく、微動だに出来なかったことなど一目瞭然だ。つまり完全に馬鹿にされた形である。


 プライドの高いグスタフには、それが許せない。だが許せないからといって、ランディを相手にどうこう出来るビジョンは見えない。唯一可能性があるとしたら……本気になったザイフの存在だが、グスタフ本人としても何かをやり返したくて仕方がない。


『ザイフ殿が目を覚ましました』


 扉の向こうから聞こえた声に、グスタフが「そうか……」と顔を上げたちょうどその時、執務室の扉が開きザイフが顔を見せた。


「総督……みっともない真似を見せたな」


 貼り付けたような笑顔ではなく、射抜くような瞳のザイフの全身から、信じられない程の殺気がもれている。


「……いや。私も相手を見誤っていた」


 だからまずは作戦を立てよう、と言うグスタフに、ザイフが一瞬で間合いを詰め、腰の剣を突きつけた。


「まさか私が負けるとでも?」


 薄暗い部屋で不気味に輝くのは、ザイフが振るう魔剣【呪刻剣】だ。


「そうは言わんが、今アイツを殺せば、我々が疑われるのは――」

「なら好都合ではないか。舐められたら殺す。そんなイメージを植え付けるには」


 怪しく笑うザイフの言葉に、グスタフも「確かにそうだが」と瞳の奥が揺れる。今日のことは間違いなく、行政府の人間はおろか、街の人間にも伝わるだろう。その時、舐めた人間を始末していた方が、後々好都合なこともあるのだ。


「やれるんだろうな」

「必ず殺す……。あそこまで虚仮にされたのは始めてだ」


 始めて見せるザイフの表情に、グスタフも驚きを隠せない。魔剣を持ったザイフの強さは、グスタフもよく知っている。


 なんせ彼が所有していたロートハイム公爵騎士団の実力者十人近くを、ザイフはたった一人で手玉にとったくらいだ。


(あの時以上の殺気……。これなら――)


 当時を思い出し、それ以上の殺気をみせるザイフに、グスタフが「任せるぞ」と小さく呟いた。


「待っていろ。朝には戻る。ガキの首を引っ提げてな」


 姿を消したザイフの背中に、グスタフは大きく息を吐いて明かりをつけた。ランディを失踪扱いにするために、必要な諸々の書類を準備するため。そしてグスタフなりにランディへ意趣返しをするため。


「待っていろ、ヴィクトール。平時には平時の戦い方という物があるのだ」


 怪しく笑うグスタフの背後で、太陽が静かに城壁の向こうへと沈んでいくのであった。

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