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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第296話 偉いさん来てるってよ!って聞いても「へぇー」としかならない

 学院に現れたグスタフは、廊下を堂々と歩き、すれ違う生徒達へ挨拶を投げ、敢えて時間をかけて分校長室へとたどり着いた。


 己の存在を広く知らしめ、ダリオ一派の流した噂を補完しつつ、力を誇示する行為でもある。実際に、多くの生徒がグスタフを見るや否や「おい、さっき聞いたのって――」と声を漏らしていた。


 狙い通りの状況に満足したグスタフは、分校長室の扉をノックする。音が三回――扉の中から返ってきた入室を許可する声に、グスタフは「失礼する」と分校長室の扉を開いた。


 グスタフの視線の先にいたのは、驚いた顔のルキウス分校長だ。


「ルキウス翁に、そんな顔をさせられたのなら、突然訪問した甲斐があったな」


 満足気に笑うグスタフが、連れの大男を伴い分校長室へと足を踏み入れた。部屋へと入ってきたグスタフに、ルキウスも驚いていた顔を引っ込め、ソファを勧める。


「ロートハイム管理官……。今日はいかがなされた?」


 優しい言葉とは裏腹に、ルキウスのズレた眼鏡の奥では、眼光鋭い瞳が光っている。射抜くようなその視線に、グスタフも思わずその身を引き締めた。


「迫力はあの頃から変わらぬな」

「君が赤子の頃から、爺をやっておるからな」


 砕けた口調になったルキウスだが、グスタフは咎める事なく「確かに」とだけ言って笑った。


「して、何用ですかな?」


「今日は来週月曜に迫った、生徒会選挙についていくつか質問をしたくてな――」


 ルキウスから目を逸らさず、グスタフが生徒会選挙における推薦に、気になる点があると話を続ける。


「ダリオ・ワイスマン。エドガー・アレクサンドロス。この両名についての推薦は、彼らの成績と推薦教官の担当教科を見れば、納得のいく推薦だ」


 ソファにふんぞり返るグスタフが、控えていた大男から書類を受取り、ルキウスへ差し出した。それはダリオ、エドガー両名の推薦人の名前と教科、そしてそれぞれの成績や、授業での様子が記載してある。


「問題は、最後の一人。ランドルフヴィクトールだが――」


 グスタフが男から受け取ったのは、ランディの推薦人である、ガルド、バルク両教官の名前と、ランディの戦闘教練の成績だ。


 成績とはいうが、ランディは戦闘教練を選択していないので、『―』と書かれているだけだ。前の二人と比べると、その異様さが一目で分かる。


 ルキウスならば、書類など無くても分かる内容を、グスタフがわざわざ目に見える形で持ってきた理由は、ランディの推薦をピンポイントでつつくためである。


「管理官の仰りたい意味は十分理解できる……が、あのアルナセス両教官が、忖度で推薦するわけがなかろう」


 ため息混じりのルキウスに、「それは分からんな」とグスタフが、不満気に鼻を鳴らした。


「同輩であれば、彼らの事はよく知っているであろうに」

「翁よ……。あれから年月が経ったのだ。私の知る彼らと一緒とは限らんだろう」


 引く素振りをみせないグスタフに、「確かに。年月は経ったのう」とルキウスがまたため息をついた。


 言外に含まれる、「君も変わった」という意味を、グスタフが笑い飛ばした。


「翁が耄碌してしまう程度には」

「かもしれんな」


 挑発には乗らないルキウスに、グスタフが面白くなさそうに肩をすくめた。グスタフ・ロートハイム、いや、かつてグスタフがまだアレクサンドロス姓を名乗っていた十五年程前は、グスタフも、ガルドも、バルクも、この学院の前身たる学園に在籍していたのだ。


 つまりグスタフもガルドもバルクも、ルキウスの教え子と言える立場である。


「私の所にも、推薦理由としてあの双子から、『自分達よりも強い』と直筆の書状が届いている」

「ならば、よいではないか?」


 首を傾げるルキウスに、グスタフはそれを馬鹿正直に信じることは出来ぬと首を振る。


「無論、ヴィクトール家が先の戦いで、活躍したことは聞き及んでいる」


 苦虫を噛み潰したようなグスタフが、「だがそれはあくまでも、騎士達の話だ」と表情を切り替えた。


「武を重んじる家系において、仮にも嫡男が、領地の守りすら任せられなかったこと。その事実と、双子の話とでは少々乖離があるのではないか?」


 ニヤリと笑うグスタフに、ルキウスがため息を返した。


「子供を参加させない。そういう方針だったと聞いておるが?」


 まさかランディとリズが、ルキウスと一緒にあの戦争の裏で、古の魔法使いを復活させていたなどとは言えない。


 言ったところで、戦争で起きる負の感情を煮詰めた、疑似神格を相手にしていたなど、信じられる話ではない。


 故にヴィクトール家全体の方針を、話すにとどまるのだが……


「参加させずとも、問題ない。そういう判断じゃったとも言えるのう」


 それでもルキウスなりに、「あいつら異常なんだって」とやんわりと諭したのだが、残念ながらグスタフには届いていない。


「確かに先の戦いでの話を聞く限り、翁の言うことは正しいのかもしれん……が、あくまでもそれは、ヴィクトール騎士隊への評価であって、ランドルフ・ヴィクトールへの評価とは違うだろう」


 これはグスタフの言う通りでもある。先の戦いに参加していない以上、ヴィクトール家の手柄を、ランディの強さと結びつける事は出来ない。


「だから、この推薦が本当だったのかを確認しようと思ってな」


 後ろの大男をチラリと振り返ったグスタフが、「いや」と慌ててルキウスに向き直った。


「もちろん、ランドルフ・ヴィクトール以外の候補者も、授業態度などを確認するがね」


 あくまでも、全員の推薦に瑕疵がないか、を強調するグスタフにルキウスは仕方がない、と首を振った。


「一応、元教え子の君に、『やめておけ』と警告だけはしておこう」

「それなりの人間では、太刀打ち出来ぬことくらい、把握しているさ。それでも来た、その理由を考えると良い」


 グスタフの見せる笑みに、「止めはしたぞ」とルキウスがもう一度ため息をつき、管理官による、推薦状況確認を認めるのであった。



 ☆☆☆



 現場責任者である、分校長の同意を得たグスタフが、学院内を散策し生徒達に噂が本当だと認識させ始めた頃……


「ランディ。お前、大丈夫なのか?」


 教室へと飛び込んできたウェインに、「は? 何の話だ?」とランディが呆けた顔で答えた。


 本来必須科目のクラスが違うウェインだが、今は授業合間の休憩時間である。通常は十分程度の授業の合間……だが、一度だけ挟まれる長い休憩時間に、ウェインが慌てて確認しに来たわけだが……。


 階段状に設置された長机、その一番後ろに陣取るランディは、机の上にサンドイッチを広げ、完全にリラックスモードなのだ。


「『何の話だ?』じゃねーよ」


 ウェインが周囲をキョロキョロとうかがいながら、ランディに近づいた。


「つーかエリザベス嬢達は、どこにいったんだ?」

「セシリア嬢とキャサリン嬢んとこ」

「いねえのか……。ならまだ聞いてないのかな」


 呟くウェインを他所に、ランディはサンドイッチの包み紙と己の口を同時に開いた。


「で、何の話だ?」

「そうだった。管理官が、推薦の是非を確認しにきて――って、一旦飯を置け」


 声を落としていたウェインだが、ランディの手の中にあるサンドイッチに思わず声が大きくなる。


「別にいいだろ。お前も食えよ――」


 ランディが差し出したサンドイッチに、ウェインが一瞬眉をよせるものの、「……じゃあ」と小さく頭を下げつつサンドイッチを手に取った。


「で? 管理官が何だって?」


「管理官が来てるんだとよ……」


 言いながらランディの隣に向かい合う形で座ったウェインが、サンドイッチの包み紙を開きながら、管理官が来ている事と、その理由を話し始めた。


「へぇ。暇なんだな」


 サンドイッチに齧り付くランディに、「『暇なんだな』、じゃなくて」と口を尖らせつつ、ウェインもサンドイッチにに齧り付いた。


「あ、美味っ――」

「だろ。この時間に食うサンドイッチは格別だ」


 悪い顔で笑ったランディが、「あ、そうだ。ついでに――」とマジックバッグから、数枚の写真を取り出した。それはレナセントのラグジュアリーライン、『レナセント・オーラム』の試作品を着た、リズやエリー、そしてメイドやクラリス達である。


「アイリーン様に、どれが似合うかな、って思ってよ」


 真剣な顔で写真を見つめるウェインが、「……これじゃないか?」と一枚の写真を取った。それは白のカットソーに、黒のハイウェストのショートパンツを併せた、ノームコアともいえるスタイル。だがその上に羽織られているのは、オーバーサイズのサマーニットカーディガンだ。


 ノームコア(シンプル)なコーデを、エフォートレス(抜け感)な雰囲気に仕立てるオーバーサイズのカーディガン。


 どことなく、プライベート感満載の格好を選んだウェインに、ランディが「フッ」と意味深な笑みを見せた。


「……何だよその顔は」

「いや。なんでもない」

「なんかあるんだろ」

「なんでもねーって」


 休み時間にグラビアを眺めるような雰囲気の二人の元に、「ランディ、聞きましたか?」とリズとエリーが、セシリア達を伴って戻って来るのは、もう少し先の話。


 それまでは、話を持ってきたウェインも、管理官の存在を忘れ、「あ、こっちもいいな」とアイリーンに着て欲しい服を、サンドイッチ片手に選ぶのであった。

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