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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第294話 禁忌? 話が大きくなってるだけだって

 エレメント。それは不思議な隣人。昔から姿を確認されつつも、誰もその正体を知らない。精霊と呼ばれることもあるが、唯一分かっているのは、触れたら駄目だという事だけだ。


 たとえば遥か昔、ある村には、こんな言い伝えがあったという。


『――空の上を、火でも氷でもない、ふわふわとした光が通ることがある。

 村では昔から、それを『風たま』と呼んできた。

 風たまは話さない。けれど、近くにいると心がざわつく。

 寂しいとき、悲しいとき、祈ったとき──ふと現れて、子どもの手を引いていくことがあるという。

「連れていかれた子は、戻ってこない」と、村で一番年寄のおばあは言った。

 けれど、誰も「悪いもの」とは言わない。

 風たまに石を投げた者は、激しい風に襲われ、風たまに手を伸ばした者は、熱にうかされたという。

 だから、風たまに会ったら、目を伏せ、手を合わせ、心を静かにするのがよい。


 かのものは、祈りに似て、祟りに似て、ただ我々のそばにあるだけなのだから』


 そう伝わるように、エレメントとは、この世界において最も近く、最も遠い不思議なのかもしれない。


  出典:『エレメントと民間伝承』より


 ☆☆☆


「エレメントを素材に……か。面白いね」


 瞳を輝かせるノアは、間違いなくランディサイドの人間だ。


「やつら同じ色……つーか、同属性ですぐ固まるだろ? あれを利用できねーかな、と思ってな」


 こちらも笑顔のランディだが、呆れ顔のエリーはそれを止める素振りはない。ただリズだけは――


「大丈夫でしょうか?」


 と心配げにランディを見ている。


「エレメントと言えば、人によっては女神様の遣いと――」

「それなんだけどよ」


 ランディが、教会は正式にエレメントを女神の遣いだなどと発表したことはないと説明する。


 前教皇が、エレメントとそれを払う神聖魔法との関係性を、教会の権威として利用していたが、教会として正式に「エレメントは女神の眷属」などという発表はされていない。


「どっかで話がごっちゃになって、そんな事になってるだけなんだよ」


 ランディとて、エレメントを狩りまくって来ただけの事はある。一応教会などに目をつけられぬよう、幼い頃にその辺りの繋がりは徹底的に調べている。当時は――今もだが――小国の小さな領にすぎないヴィクトールが、大陸に根ざす巨大組織と対立するわけにはいかなかったからだ。


 もちろん今も……今の教会と対立するつもりはないが。


 とにかくランディは、調べた結果、エレメントと教会とは何の関係もないことを知っている。


 実際ランディの言う通りで、教会はエレメントを神聖視などしていない。民間伝承かつ謎の存在なだけに、下手なことは言わず黙っているだけなのだ。


 ただ沈黙するせいで、疑うことを知らぬ無垢な子達は、エレメントを神聖視しているのだが……。


 そしてそれがリズのような、素直な良い子に語り継がれている、というわけだ。


 幼い頃から素直に「駄目だよ」と言われたことをキッチリ守ってきた良い子に限って、間違った情報のまま認識されていたりするのが、エレメントである。


「確かに……教会の実施してくれた初等教育でも、エレメントに触れたことはありませんでしたね」

「だろ? 本当に眷属だとか言ってるなら、その辺りはちゃんとやるだろ」


 二人の言う通り、情操教育に用いられる聖典には、【告死の獣(モルティクス)】を始めとした、様々な眷属が出てくるが、エレメントの話は一切出てこない。


「ちなみに――」


 ――古代ではどうだったんです? そんな言葉が聞こえてきそうなリズの視線に、エリーが「そうじゃな」とため息混じりに口を開いた。


「言えば、どこぞの阿呆が『使えるぞ!』と言いそうで黙っておったんじゃが……」


 ジト目のエリーが、ランディを見てまたため息をついた。ゴーストの正体も知っているエリーなだけに、エレメントの正体も知っているようだ。


「お主らがエレメントと呼び、不思議がる存在じゃが……。妾が知る名で呼べば『浮遊型魔素集合体』、『属性反応核』あるいは『第七相生命群』じゃな」


 ため息混じりのエリーが、どれも名前こそ違うが、研究者によって呼び方が違うだけで、本質は同じだと教えてくれた。


「『浮遊型魔素集合体』……ビンゴじゃねーか」


 悪い顔のランディが、やはりエレメントは、女神とは何の関係もないのだ、と嬉しそうにしている。


「つまり……俺達がエレメントを狩りまくっても、何の問題もねーわけだ」


 自信満々に頷くランディだが、それでも今の時代では人払いをしなければ、口に出来ぬほどにはセンシティブな内容である。


 それが分かっているからだろう、エリーが大きな溜息とともに口を開いた。


「なるほど。それでもこやつだけに話したのは、エレメントを捕まえるための道具を、用立ててもらうためじゃな?」


 エリーの言葉に、リズが「あー」と天井を仰いで苦笑いを浮かべた。ランディがやろうとしている事に、思い当たったのだろう。


「つまり、ゴーストの時の再現というわけですね」


「ま、簡単に言うと、な」


 笑うランディが語るのは、エレメント捕獲計画だ。教会が神聖視していない、謎の存在エレメント。その実態を探るという研究目的でエレメントを捉え、生態を探っているうちに……あら不思議、素材が出来てしまいました……。という流れをやるつもりなのである。


「エレオノーラ嬢が、なぜエレメントを『浮遊型魔素集合体』と呼ぶのか気になるんだけど……」


 苦笑いのノアに、ランディとリズがエリーは、古代魔法や文明の知識に長けているのだ、とはぐらかした。


「その理由は、今度時間がある時にたっぷり聞かせてやるよ」

「オーケー。気にはなるけど、今はそれ以上に興味深い話題があるからね」


 エリーの正体より、エレメントの正体と活用方法。それが気になると笑うノアは、正しく魔道具オタクである。


「エレメントが本当に魔素の集合体なら、ゴースト捕獲器が応用出来……いや、エレメントは、ある意味で実体だったね」


 炎や風を実体と言って良いか不明だが、確かに水のエレメントなどは、手で触れる事が出来るし、風も肌で感じられるし、火は肌を焼く。


 魔力を纏わねば触れられぬゴーストと違い、そういう面では実体と呼んで差し支えないだろう。


「実体があるなら、捕まえる道具は直ぐに準備できるかな。ただ――」


 語尾をすぼめたノアが、「反撃はどうする?」とランディを見た。ノアのいう反撃とは、エレメントに手を出した時に、エレメントが属性魔法で攻撃してくる敵対行動の事だ。


「ああそれか。それなら問題ねーよ」


 笑顔のランディが「慣れっこだ」と胸を叩いた。


「連中、攻撃してくるけど息切れも速いから、反撃出来なくなった時に、ゆっくり捕まえればいい」


「息切れ?」

「新兵訓練にピッタリ、と言ってましたものね」


 キョトンとするノアと、呆れ顔のリズ。そして「ランディくらいのものじゃ」とこちらも呆れ顔のエリーの表情は、エレメントの存在が解明されていた古代でも、ランディのような馬鹿はいなかったと言いたげである。


「なんでも良いんだよ。とりあえず捕まえられそうなら」


 笑顔のランディが、「じゃあ、早速日程なんだが……」とノアとエレメント捕獲の日程を調整し始めた。


「日曜は、撮影会があるから無理だとして……」

「撮影会?」

「あ、ノアも来るか?」


 ノアにエマも誘って来たら良いと、撮影会へ勧誘するランディに、「時間が合えば」とノアも前向きな返事をしている。


「てことは、明日の午後か――」

「もしくは土曜の午後かな」


 ノアの言う通り、今週は土曜が午前登校の週なので、午後からの休みを利用して捕獲に出かける日程である。


「個人的には見つかるか分からんから、両方日程を押さえておきたいんだが……」


 腕を組むランディに、リズが申し訳なさそうに「あの……」と口を開いた。


「エレメントもいいですけど、選挙活動もしないといけませんよ?」

「選挙活動?」


 首を傾げるランディに、リズが学園時代からの選挙期間中の決まりを教えてくれる。それは基本的に一回以上は、自分という存在を生徒に知らしめる活動を、実施せねばならないという事。


「今のところ、それらしい活動をしていないので、明日か明後日に一回は実施しないと『やる気なし』という事で、立候補が取り下げられます」


「マジかよ……」


「マジ、です」


 苦笑いのリズに、「選挙活動って?」とランディがこれまた苦笑いで尋ねた。


「パーティを開いて、生徒との交流を図るのが一般的ですね」

「パーティぃい?」


 素っ頓狂な声を上げたランディに、エリーとリズが同時に考えるように視線を彷徨わせ、そしてこれまた同時に吹き出した。


「なんで笑ってるのかなー?」


「いえ……」

「似合わんな、と思うてな」


 笑いをこらえる二人に、「うっせ」とランディが顔をしかめて、腕を組み直した。


「パーティ……」


 呟くランディは、正直パーティなど御免被りたい。ただし退学のこともあるし、何より――気にするなとは言われたが――推薦してくれた教官がいる手前、戦わずして破れるという醜態だけは晒すわけにはいかない。


(どうしたもんかな。まあエレメントは最悪来週でも良いっちゃぁいいんだが……)


「うーん」と唸るランディが、腕を組んだまま天井を見上げた。


「一つ提案があるんですが」


 小さく手を挙げたリズに、皆の視線が集まった。


「エレメントの捕獲を、交流会にしませんか?」


 あれだけ「エレメントは……」と言っていた娘が、とんでもない爆弾を放り投げた瞬間であった。



 ☆☆☆



 リズが〝エレメント捕獲交流会〟というとんでも爆弾を放り込んでいた頃、アレクサンドリア自治区行政府――旧王城――では、グスタフ・ロートハイム総督が、執務室で一人の少年と向き合っていた。


「雲行きが怪しい、と?」

「面目次第もございません」


 頭を下げるのは、宰相令息であるダリオ・ロウだ。


「君ほどの男が苦戦するとは思えないんだが」


 椅子の上で足を組み替えたグスタフ総督が、「相手は田舎貴族に、凋落した元王子だ」と指を折ってみせた。


「殿下…いえ、エドガーと票田が重なり、加えてその動揺から、第三の候補へ小さい流れが出来ていまして」


 俯いたままのダリオには到底理解できない。なぜ風向きがランディへと変わっているのか。それでも今朝から感じていた風向きの変化に、何とか幹部を動員して調査した結果、エドガーにもダリオにも入れるのを躊躇っている、という曖昧な答えを得たわけだ。


「偏に私の求心力不足ですが……。それ以外にもエドガーへの義理立て、あとは帝国への不信感が拭いきれていない状況も小さくないかと」


 実際ダリオの言う通りなのだが、やはり一番大きな要因はこれもダリオの言った通り〝求心力の無さ〟である。ダリオとエドガー、二人の候補に未来が見えないのが大きいのだが、今までの普通を貫くダリオとエドガーには、ランディへ吹いている風の根源が見えていない。


「なるほど。腐っても王族というわけか」

「……はい」


 グスタフ総督とて、学院から上がってくる話はチェックしているが、生徒会選挙に関わる根幹の部分を、どの生徒も正直に話すはずがない。それこそ要らぬ因縁をつけられかねない理由だからだ。


 二人について行くより、ランディの方が未来が見えそう。何より楽しそう。


 まだ流れ自体は小さく緩いそれを、大きな声で言うことが出来る生徒はいないのだ。


「まさかエドガーの出現で、大穴が避難場所になるとはな」


 ため息混じりのグスタフ総督が「分かった」と大きく頷いた。


「ヴィクトールを推薦したのは、ガルド、バルク両教官だったな」


 黙って頷くダリオに、「昨日のことも耳に届いている」とグスタフがもう一度ため息をついた。


「推薦が適切であったか……。明日直接確認しに行ってやろう。適切でない場合は――」


 ニヤリと笑うグスタフに、ダリオが若干心配そうな顔を見せた。戦闘教官の推薦の意味と、ランディの実力を知っているダリオからしたら、推薦に何の問題もないからだ。


 そんなダリオの表情に気づいたグスタフだが、「問題ない」とまた笑みをみせた。


「Sランクを手玉に取る強さらしいが、所詮は今のSランクだろう」


 グスタフが「しかも公国の」と小馬鹿にしたように笑った。


「腕っぷしがあるのに、名の知れ渡っていない人間はヴィクトールだけではないんだよ」


 低く笑うグスタフの自信に、ダリオも「お任せします」と頭を下げるのであった。






 手を出せば属性魔法で反撃してくるエレメント。

 一方こちらも、手を出せば拳で反撃をしてくるランディ……もといヴィクトール。


 くしくも彼らは同じタイミングで、一部の人から〝禁忌〟と呼ばれる存在に手を出そうと決めていた。


 そしてその結果がどうなるかは……。それこそ女神のみぞ知る、ことであろう。

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