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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第293話 脳筋でマッドエンジニアという特殊個体です

 昼休憩も終わり、午後の選択科目が始まった時点で、ランディはエリーやリズを伴って、また魔道具研究会を訪れていた。連日通い詰めているので、リズもあの不気味な雰囲気に慣れたようで、怖がる様子もない。


 ただ今回は三人だけでの訪問だ。皆は午後からも選択科目があり、昨日の今日で休むわけにはいかなったのだ。そしてそれは、ランディの友人達ばかりでなく、魔道具研究会副会長のエマもそうだ。


 皆何だかんだで、忙しいのだが、それでも昨日のインパクトのお陰か、魔道具研究会には、かなりの生徒がいた。


「多分授業が終わったら、もっと来るんじゃないかな」


 笑顔のノアが言うには、今日の午前中だけでも、会員からかなりの問い合わせがあったそうだ。


「選挙活動……ではないけど、注目を集めてるのは事実だね」


「注目ねぇ……」


 眉を寄せるランディは、別にそんなつもりなど微塵もなかったのだが、ノアの言う通りランディ達へ向けられていた視線の種類は明らかに変わっていた。


「ついに俺がイケメンだということがバレて――」

「そんなわけないじゃろう」

「ですね」


 辛辣な二人に、「なんでだよ!」とランディが口を尖らせた。


「ハハハ。ランドルフ氏、愛されてるね!」


 ウインクを見せたノアに「まあな」とランディが笑みを返した。エリーはもちろんだが、最近はリズもランディを気安く扱ってくれるので、縮まった距離が嬉しいのだ。


「ま、冗談は置いといて」

「そうだね……」


 ノアの笑顔の種類が変わる。魔道具研究会の会長の笑顔に。


「写光凹板――」

「も、だが。折角優秀な会員達がいるからな。気になる事の検証を任せてもいいか?」


 ランディの提案にノアがロビーを振り返れば、そこにつめていた生徒達が笑顔でサムズアップを見せる。


「サンキューな」


 それに笑顔を返したランディが、「気になる事なんだが……」と懸念事項を話し始めた。


 ランディが気になっているのは、幻屈晶がかつて魔力測定に用いられていながら、正確でないとされている事だ。


「ただ光って形を変えるだけなのに、どうして正確じゃないって判断出来たのか」

「ああ、それなら――」

「前の術者の魔力が残留する。……そうだろ?」


 ニヤリと笑ったランディに、ノアが「よく分かったね」と驚いた顔を見せ、幻屈晶が使われていた頃に、その事実が発見され今は使われなくなった事を教えてくれた。


「俺が魔力を照射した時、七色の光が出たからな。アレでピンと来たんだ」


 ランディの前に使用していたリズの魔力が、幻屈晶内部に残っていたわけだ。


「んで、昨日の晩試してみたんだが――」


 ランディがノアに見せたのは、一枚の写真だ。普通のサイズではなく、コピー機で拡大したものだが、ソファに座るリズとエリーの画像の上に、薄っすらとふんぞり返るランディの姿が見える。


「なるほど。光を魔力に変えて照射した結果、君の像が残っていたと」

「そーゆーこと。んで、コレの解決方法を研究会に丸投げしようかな、と」


 そうは言うが、ランディは懐から折りたたまれたメモ紙を取り出し、ノアへ手渡した。


「一応、超有能魔法使いに、いくつかの案を出してもらってるから、参考までに――」


 受け取ったメモ紙を開いたノアが「これは……」と目を輝かせて、会員達を振り返った。


「諸君、単純だが面白いぞ」


 紙をヒラヒラとするノアに、会員達がワラワラと群がり、「なにこの回路……」「へぇ」「すご……」と絶句しつつも目を輝かせて、エリーの書いた走り書きに夢中になっている。


 メモ紙に書かれているのは、主に幻屈晶にリセット用の魔力を当てる方法だ。そうする事で、転写が終わった後も素の魔力だけを注入し、レンズに残った魔力をクリアにする。


 単純だが一番効果が見込めそうな方法である。もちろんそれを構成する回路や仕組みは、魔道具研究会の興味をひくくらいには、複雑だが。


「昨日使った幻屈晶は、ここに置いておきますね」


 リズが虚空から巨大幻屈晶のレンズを取り出し、ロビーへ置いたのとほぼ同時、ノアの手からメモ紙は別の生徒の手に渡り、皆が一塊になって、幻屈晶を抱えて実験室へと消えていった。


「いいなー。僕もあっちに加わりたいな」


 目を輝かせるノアに、ランディが「何言ってんだよ」とその肩を叩いた。


「お前には、こっちの意見を聞きたいんだ……」


 呟いたランディが、マジックバッグの中から、一つの板を取り出した。厚みは然程ない真っ白な板は、見た目には用途が全く分からない。


「これが?」

「ああ」


 頷いたランディが、「そうだな……」と呟いて、リズを振り返った。


「リズ、コピー機の試作出せる?」

「了解です」


 リズが虚空から出してくれた試作機に、ランディが写光凹板を取り付けた。大きな感光紙が入る場所を取り外し、ピッタリ収まる形は元々の設計通りである。


 そうして、試作機に昨日の写真を取り付け、ランディがボタンの押し込んだ。少しだけ長いボタンの押し込みに、ノアだけでなくエリーやリズも試作機をじっと見守っている。


「こんなもんかな」


 ランディが写光凹板を取り出すのだが、そこにあるのは、厚みのある板に写った写真だ。厚みがある以外は、昨日の転写と何ら変わらない。


「ふむ?」


 首を傾げるノアだが、「拝見しても?」とランディに手を差し出した。


「いいぞ。見てくれ」


 頷いて写光凹板を手渡すランディに、ノアが「凄い……これが」とぶつぶつ呟きながら、写光凹板をツンツンと突付いている。


「なんというか。少し弾力があるね」


 ノアがその不思議な感触に、驚きと興味に満ちた声を上げ、それが終わればランディに「説明しろ」と言わんばかりの視線を向けた。


「ヴァリオンって知ってんだろ?」

「ああ。写真のキモとも言われる素材の提供者だね」


 頷くノアの言う通り、既に写真の感光紙にヴァリオンの体液が使われているのは周知の事実だ。どれだけ隠そうと、それが露見することは織り込み済みで、最も重要な固定液を始めとした配合方法は秘伝のままだ。


 そうでなくとも、ルシアンが国際的に特許を取得しているので、誰も真似しようがないのだが。


 とにかく存在と効能を知っているなら話は速い、とランディが口を開いた。


「写光凹板は、ヴァリオンの体液を特殊加工した物が取り付けてある」


 単純にいえば、引き伸ばすのではなく、凝縮している。強い光に反応する濃度の液を、他の材料と混ぜ合わせ、ゼラチンのようにしたものが付いているのだ。


「効果自体は変わらないし、固定液を入れてないから――」


 ランディがエリーに頷けば、「目を閉じておけ」とエリーが注意喚起の後に光を放つ。ロビーが強い光に包まれ、それが収まった時には、写光凹板はまたただの白い板へと戻っていた。


「とまあ、こんな風に再利用が可能なわけだ」


 そう言いながら、またランディがノアから写光凹板を受け取り、試作機で別のを写真を写し取り――若干ランディの姿が透けてる――写光凹板をノアへと手渡した。


 再び写光凹板を受け取ったノアが、様々な角度からそれを観察し「なるほど」と呟いて、ランディに満面の笑みを見せた。


「写光凹板か。なんとなく君がやりたい事が分かったよ!」


 嬉しそうなノアに、ランディも「スゲーな」と思わず笑みを返した。たったこれだけの情報で、ランディのやりたい事を理解した人間は、セドリックを始め数人くらいしかしらない。


 だがそれこそ、このノア・アークレインという男の真骨頂なのだろう。こと魔道具とそれに付随するアイデアに関しては、間違いなく稀有な才能の持ち主だ。


「これを活版印刷みたいに使いたいんだろう?」


 ノアの笑顔にランディも「正解だ」と頷いた。この世界でも未だ主流の活版印刷は、文字を彫った活版を組み合わせて印刷する技術だ。その活版を一瞬で彫り、更には再利用可能にしたいというのが、ランディの目論見だ。


「とっても面白いんだけど、これだと写光凹板の名前とは違って、凹んでないよね?」

「そりゃまあな。凹板は便宜上の名前にすぎねーからな。活版ぽさを出すだけの」


 肩をすくめたランディに「ふむ」とノアが考え込んだ。


「てっきり、光の魔力の波長で凹凸を作ると思ったんだけど」


 どうやらノアにはその方法に思い当たりがあるようで、「相談に乗るけど?」と首を傾げている。


「そりゃ有り難い申し出だが、それだと単一、よくて数色刷りしか出来ねーだろ?」


 ランディが目指すのは、この写真の完全再現だという。


「完全カラーでって事? 最近そういった技術が研究されてるって聞いたけど……」


 ノアが語るのは、カラー印刷を目標にした活版のことだ。かつて現代社会が通過してきた方法と同じ、色ごとに版をわけて、数回に分けてそれを重ねて印刷する技術である。


 職人の努力の結晶だが、版も工程も増える、かなり煩雑な作業ゆえ……。


「ンな面倒な事はしねーよ」


 ランディからしたら除外なのだ。


「折角不思議パワーの魔力に不思議生物の魔獣がいるんだ」


 ニヤリと笑うランディに、リズとエリーは嫌な予感がしている。ランディからは、「これを活版みたいに使いたい」としか聞いてなかったのが、何やら不穏な気配を放っているのだ。


「あのランディ、別にヴァリオン製感光紙でもいいのでは――」


 リズがランディの手を引こうとするその時、ノアが「待って」とランディの構想に興味が抑えられないという顔を見せた。


「どうやって、全部の色をバラけてつけるのかな……それに心当たりがあるんだよね?」

「まあな」


 その悪い笑顔は、マッドなランディの顔だ。この顔をする時は、大抵がとんでもない事を考えている時だ。それに気がついたエリーが「お主、もしや……」と苦笑いを見せた。


「妾にわざわざ『理論だけでいい』などと言ったのは、人払いが目的か」


「人払いってわけじゃねーけど、まあ……まだあまり人に聞かせたくねーからな」


 ニヤリと笑ったランディに、「呆れた奴じゃ」とエリーが溜息をついた。自分達だけでも出来たはずの幻屈晶の改良を、わざわざ魔道具研究会へ丸投げした。その理由は、これから話す内容を聞かせたくなかったからだ、というのだ。


 つまりランディは、昨晩からこの状況を想定していた、といえる。


「人払いまでして、一体何を考えてるのかな?」


 興味が抑えられない、そんなノアに、ランディがニヤリと笑って口を開く。


「この世界にはいるだろ。特定の色を好む、はた迷惑な連中がよ」


 悪い顔のランディに、リズがマズいと思うがもう遅い。


 ――俺の中じゃ、見つけ次第ぶっ潰せって決まりなんだよ。


 リズとエリーの頭に響くのは、いつかランディが聞かせたあの言葉。


「もしかして、エレメント……かい?」


「当たりだ。ゴーストも素材に出来たんだ。連中にも使い道を見つけてやるのが優しさだろ?」


 ランディが笑い声をもらした時、実験室の扉が開き「ちょっと意見が聞きたいんだけどー」と場違いに平和な声が、ロビーへ降り注いだ。


※ゴースト程大ごとにはなりません。

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