第289話 良く考えたら、仲間の半分以上が成績優秀なんですよね。
「付き合えって、何をするかによるぞ」
眉を寄せるルークに、リズやエリー以外の全員が賛同するように頷いた。特にセシリアとルークからしたら、警戒するなという方が無理である。とんでもない事をやらかした場面に、同席した経験があるからだ。
擬似ドラゴンブレス事件。
あの時も良くわからないまま巻き込まれ、ランディとリズが笑顔で「やるぞ」と言って、空を吹き飛ばした。あの光景を思い出したルークが、「いいから早く内容を言え」ともう一度眉を寄せた。
「大したことじゃねーよ。昨日の設計図の試作が出来たからな。それの試運転……の前のデータ採取要員だ」
試作の試運転と聞いて、ルークとセシリアの顔が一瞬青くなる。データ採取と言うが、あの時も「限界値を」と言って、とんでもない事をやらかしたからだ。
「ち、ちなみに聞くが、昨日の設計図が、火を吹いたりすることはねえよな?」
恐る恐ると言ったルークに「ンなわけあるか」と眉を寄せたランディが説明するのは、所謂コピー機を作っているという事だ。
「あ。やっぱりコピー機だったのね。カラーコピーで、活版印刷に革命でも起こすの?」
首を傾げるキャサリンに、今のところはまだコピーとは程遠く、写真の焼き増しに近いとランディが首を振った。
「写真なんて焼き増ししてどうすんのよ?」
眉を寄せるキャサリンに、ランディがリズとエリーを振り返った。
「折角だし、あっちの意見も聞いてみるか」
「ですね」
「うむ」
二人が頷いた事で、ランディはマジックバッグから一冊のスケッチブックを取り出し、キャサリンに手渡した。
「なにコレ? 『プティット・レナセント サマーコレクション』?」
首を傾げたキャサリンが、スケッチブックを開くと、そこにはハリスンとリタをモデルにした、様々なカットの写真が載っていた。リズやエリーをモデルにした物とは違い、リーズナブルラインの商品達だ。
それでもクラリスとマダムのデザインなのだから、作りも見た目も一級品である。
「へぇ。可愛いじゃない。アンタの妹ちゃん、流石ね」
流石に前世で見慣れただけあって、キャサリンの反応は今までの人間と比べると落ち着いたものだ。それでも「いいわね」と頬を綻ばせるキャサリンを見るに、ルックブックとしての完成度は低くないらしい。
微笑みながらパラパラと頁を捲るキャサリンが、「ほら」とセシリアに中身が見えるようにスケッチブックを傾けた。
「素敵ですわ」
「うぉ! すげえな!」
キャサリンとは違い、感嘆の声を上げたセシリアとルークの様子に、ユリウスやレオン、ウェインですら気になったようで、キャサリンの後ろからスケッチブックを覗き込んでいる。
「ルックブックって事かしら? てことは、写真を拡大コピーして部数を刷るのね。」
流石元JKであるキャサリンは、このスケッチブックとコピー機で、それぞれの使い道に直ぐ思い当たったようだ。
「そーゆーこと」
満足気に頷いたランディが、「んで、これを作るための……」と口を開いた時、とある気配に気が付き顔を上げた。不意に顔を上げたランディに釣られるように、皆が振り返る。そこには中庭に差し掛かったコリーとアナベルの姿があった。
二人がランディ達に気がついたのとほぼ同時、ランディが笑顔で大きく手を振った。
顔を見合わせ小走りで駆けてきた二人が、ランディに笑顔を向ける。
「先輩、会長選に出るんですね!」
「し、指針も見ました! 先輩らしくて良いと思います! 応援してます!」
キラキラと輝く瞳が何とも眩しい二人に、ランディが目を細める。二人から真っ直ぐ向けられる期待や好意は、非常に心地よいのだ。
(流石俺達の良心)
そう思えば、開口一番からかってきた馬鹿もいたな、とランディはルークを振り返った。
「馬鹿ルーク。そこを退け。コリーとアナベル嬢を座らせるから、お前は立ってろ」
「ぶん殴るぞ。テメェが立て」
再び始まりそうな不毛な争いを、リズ達が諌め、ランディが笑顔でコリー達を振り返った。
「二人共、今日の午後から空いてるか?」
ランディの質問に二人が顔を見合わせ、「はい」とゆっくり頷いた。
「よしよし。モノは相談なんだが……お前らも、一緒に魔道具研究会に行かねーか?」
ランディの提案に、コリーとアナベルが即座に頷いた。元々あのオバ◯ュームのメンテナンスのため、近い内に魔道具研究会へ行く予定だったらしく、二人からしたらついでという形である。
「よっし。流石コリー&アナベル。お礼と言っちゃなんだが、お前らにはモデル業も斡旋してやろう」
「もでる?」
首を傾げるコリーに、ランディが「見てくれ」と指差すのは、キャサリンが持つスケッチブックだ。怪訝な表情で近づくコリーとアナベルへ、キャサリンが「こーゆーの」とスケッチブックを手渡した。
始めこそ写真の中のハリスンとリタに、「素敵ですね」と微笑んでいた二人だが、モデルとは、こうして写真に取られる人の事だと聞いた途端、跳ねるように顔を上げた。
「ぼ、僕達が?」
「は、恥ずかしい気がします……」
顔を赤らめる二人に、「強制じゃねーよ」とランディが首を振る。
「ただ興味があるなら、言ってくれ。最悪写真と着た服だけ家に持って帰ってもいいしな」
何とも太っ腹な提案に、女性陣が思わず顔を上げた。既製品とはいえ、あのマダム・ヴァルモアのデザインした服と、それを着た写真……しかも、シーンによっては――
女性陣が同時に視線をスケッチブックへ向けた。そこにあるのは、笑顔で見つめ合う、シミラールックのハリスンとリタの写真だ。彼女達がそこに何を想像したのかは、想像に難くない。
そんな想像からいの一番に帰ってきたのは、キャサリンである。勢い良く顔を上げ、ランディに向けて意味深な笑みを見せ口を開いた。
「時にデカ男。聖女でモデルって、めちゃくちゃ良いと思わない?」
ドヤ顔を見せるキャサリンに、「まあインパクトはあるわな」とランディが頷く。実際信者相手には、恐ろし程の広告効果が見込めるはずだ。それとキャサリン自身、見目もいい。
帝国や公国など、キャサリンの残念さが伝わっていない地域には、聖女という肩書と、この見た目で絶大な効果が見込めるだろう。
「コピー機の試作だったかしら? アテークシの頭脳に期待なさい」
オーホッホッホと高らかに笑うキャサリンだが、「聖女様、午後の授業どうすんのさ」とレオンに突っ込まれている。
「そ、そこは一日くらい――」
始まるレオンとキャサリンとの押し問答を他所に、リヴィアが「リヴィアもやる」と大きく手を挙げた。
「お、いいね。【二代目剣聖】のオフショットは、需要があるぞ!」
嬉しそうに頷くランディが、「お前はどうする?」とユリウスに視線を向けた。
「ユリウスもやろーよ!」
ユリウスの腕を引っ張っるリヴィアに、「うーむ……」とユリウスが小さくため息をついて、スケッチブックに視線を移した。
「俺には似合わないと思うんだが……」
「いーじゃん。二人で写真撮ろーよ」
腕を引っ張るリヴィアが、「こーゆーの」とハリスンとリタのツーショットを指差した。
スケッチブックを前に、今も「ねーねー」と擦り寄るリヴィアと、「まあ、いい経験か」とリヴィアを撫でるユリウスに、ランディがウェインに小さく囁く。
「いつも思うけど、この二人って付き合ってんの?」
「俺が知るか」
ランディの質問に顔を顰めるウェインが、「俺はパスだな」と肩をすくめた。無理もない。今のところコリーとアナベル、そして――まだ授業の事ですったもんだしているが――キャサリンとレオン、更にリヴィアとユリウス、といったカップルでの参加が決まりそうなのだ。
もう一組のセシリア・ルーク組もルックブックを見ながら、「これが素敵ですわ」「お似合いになるかと」とピンクな雰囲気を醸し出している。
「一人モンの俺には、全然関係な――」
「残念だなー。アイリーン様にも、モデルをお願いしようと思ってたのになー」
白々しい顔でチラチラとウェインを見るランディが、「実に残念だ」と大げさに首を振って見せた。
「仕方ない。アイリーン様は、山田とツーショットで――」
「心の友よ……」
ランディの肩に手を置くウェインが、「雑用でも何でも言ってくれ」とサムズアップとともに白い歯を見せた。
何とも単純な男であるが、そこがウェインの良いところでもある。そんな友人にランディも「なら、頼むぞ」と声を掛けて、残っているルーク達を振り返った。
「あとはお前らだけど、どうすんだ?」
眉を寄せるランディに、ルークがジト目を向けた。
「……お前、何か企んでるだろ」
「企むか。本気で手伝ってもらいたいだけだ」
眉を寄せるランディに「本当か?」とルークが首を傾げた。
「本当だって」
ため息混じりのランディが言うのは、ルックブックに関しては、このメンバー以上のモデルを見つけようがない、という事だ。聖女に始まり、剣聖に元皇子。ルーク達も元公子に伯爵令嬢である。
全員見た目は文句無し、さらにネームバリューもついてくるとなれば、先制パンチとしてはこれ以上ない人選なのだ。
「そのモデルに関しては納得するけどよ……試作の方は――」
「試作の方も、コイツらの力が欲しいんだよ。ちっと計算がややこしくてな。単純に言えば、頭脳明晰な労働力が欲しかったんだよ」
ランディがまだモデルの話で盛り上がる皆を見た。ウェインとランディ、そしてルーク以外は、コリーやアナベル含めて全員が学院でも上位に入る頭脳の持ち主ばかりだ。
こんな豪華な助っ人はない、とランディが頷きまた口を開く。
「そもそもコピー機の試作だぞ? 写真を複製するのに、危険もクソもねーだろ」
笑顔を見せたランディに、ルークが「確かにそうだが……」と眉を寄せる。
「今回は、大丈夫だよ。今回は、な」
ランディが結論づけた時、全員の方針が決まったようで、キャサリンがランディを呼んだ。
「全員参加するわ」
「おっし。労働力ゲットだぜ……ってことで皆で魔道具研究会に行くか」
ランディの号令で、皆が笑顔で立ち上がった。ランディだけでも注目を集めているというのに、学院でも有数の有名人達が、楽しそうにしているのだ。彼らは自分達が思っている以上に、この中庭で目立っていた。
だから……
「指針通りに見えるが――結局はユリウス元皇子頼みだろう」
コソコソと囁きあう二人の男子生徒が、ランディと連れ立ったユリウスに注目している。キャサリンやセシリアも学院では有名だが、どちらも派閥を持っているわけでは無い。しかもキャサリンに至っては、まだ負のイメージが抜けきっていない不良債権だ。
「ひとまずダリオ様に報告だ。ユリウス元皇子の動きを押さえねば」
コソコソとその場を後にする二人の生徒……。そんな生徒達から離れた場所には、これまた別の生徒が二人。
「やはりユリウス元皇子をどう押さえるかだな。ダリオ陣営も動いているみたいだし、やはり今日あたり集会を開くべきだな」
「よし、殿下に報告だ」
頷きあった二人の生徒が、中庭に背を向け学舎へと消えていく。
こうしてランディの知らぬところで、他の陣営は着々と選挙に向けて準備を進めていた。そしてその準備が、ランディが夢中なコピー機の試作で吹き飛ぶ、いや意図せず吹き飛ばされてしまう事を、今はまだ誰も知らない。





