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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第六章 新年度は出会いがいっぱい

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第287話 たまに言わないと、私も忘れそうになるので

 ランディに新しい図面を手渡されたノアは、「面白いなー」と呟いて図面を床に広げた。


「ノア君、設計や計画は――」

「エマ氏、そんな事言ってる場合じゃないよ」


 ノアがエマに「見て見て」と手招きするのと同時、他の生徒達も図面を取り囲むようにその場に屈み込んだ。


「凄い……」

「何だこの回路」

「それもだけど、これって魔法陣だよね」


 口々に出るのは、どれもこれもリズとエリーが考えてくれた回路や魔法陣についてだ。実際ランディが出したのはアイデアで、それを形にしてくれたのはリズやエリーの頭脳なので仕方がない。


 だが唯一ノアだけは――


「面白いね。特にこの写光凹板っていうアイデアは非常に興味深いよ」


 ――ランディ肝煎りの仕組みに食いついた。これこそランディが構想した、コストを抑えつつコピーを可能にする為の最も重要な部分だ。


「こっちの試作品ってあったりするのかな?」


 目を輝かせるノアに、ランディはリズやエリーと顔を見合わせ首を振った。


「所謂レンズ部分の素材に当たりが無くてな」


 肩をすくめるランディが言うのは、このレンズは魔法を利用したレンズだという事だ。物理レンズだけでは起きてしまう滲みやボケを防止する為の、魔法を利用したレンズなのだが、それに見合う素材に思い当たりがない。


「俺達がここに来た目的の一つだな」


 ため息をついたランディに、「レンズか……」とノアが考え込み、エマや他の生徒達も「アレはどうだろう」と意見を交わし始めた。


 そうして始まったブレインストーミングは、ランディ達の知らぬ素材の名前が飛び交っては消え、最終的に一人の生徒が発した言葉に、注目が集まることになった。


「幻屈晶とかどうだろう?」

「幻屈晶?」

「幻視筒の? 子供向け玩具じゃないか」

「馬鹿。一応属性位相フィルターの要だったんだぞ」

「正確性に欠ける、フィルターだけどな」


 一旦は否定されそうな流れを見せたが、「いや、アリかも」と誰かが呟いたことでその流れは変わった。


「確かに焦点を合わせる事に技術はいるが……」

「魔力による可変性も面白いんじゃないか」

「レンズの形にして、可変性を利用すれば――」

「案外イケるかも」


 盛り上がる生徒達をよそに、ランディは近くにいたエマに「幻屈晶って?」と尋ねた。


「幻屈晶は、魔力で形を変える不思議な石だよ。昔は魔力診断とか属性診断に使われてたんだけど、最近では子供の玩具に利用されてるかな」


 そう切り出したエマが教えてくれるのは、幻屈晶という石の使い道や特性だ。エマの言う通り、魔力による可変性と屈折率の変化で、昔は魔力の質を判断するのに利用されていた。

 端的に言えば、自分の魔力と親和性の高い属性を見極める道具だ。


 だが幻屈晶による診断は、あまり正確ではないと事が有名で、ここ最近では別の判断方法が採用されている。そして使われなくなった幻屈晶は、今や子供の玩具に利用されているのだという。


「もちろん、魔導調光灯っていうちゃんとした魔道具にも利用されてるんだけど、一般的な道具じゃないからね」


 肩をすくめるエマが教えてくれるのは、灯りを絞ったり広げたり出来るランタンのことだ。鉱山などで利用される事を目的に作られており、広い場所では拡散し、狭い場所では光を絞って使える魔道具である。


「なるほど。魔力による可変性と屈折率の変化を利用した明かりか」


 一人納得するランディの横では、今も興奮気味に「ちなみに子供用の玩具だけど、これが結構綺麗で――」とエマが早口で説明を続けている。ボタンを押すと、ランダムに流れる魔力が、幻屈晶の形を変え、そしてランダムに屈折して属性ごとの色を輝かせる。いわば異世界版万華鏡のような玩具である。


 そうしてエマの説明と、生徒達のブレインストーミングがようやく終わるのと同時、生徒の一人が「取ってくるよ」と実験室を後にした。


「スゲーな。現物があるのか」

「まあね。ヴァルトナー辺りでは結構取れる石だから」


 銅山を掘る時に、出てくる事があるのだが、今や子供の玩具向けの石でしかない。つまり結構余っているのだ。


「へぇ。ならこれが上手く行けば、閣下のところは更に儲かるかもな」


 ブラウベルグだけでなく、ハートフィールド、ヴァルトナーも着々と発展している事に、ランディは自然と笑みが漏れる。


「まあモノは試しだ」


 ノアが楽しそうに呟いたちょうどその時、幻屈晶を取りに行っていた生徒が戻ってきた。水晶のような見た目の石がいくつかと、既にガラスのように薄く加工されている物が数枚。それだけ見れば美術品としての価値もありそうだが、ここはファンタジー世界だ。もっと美しい石がゴロゴロあるので、幻屈晶では太刀打ちが出来ない。


「少し魔力を照射しても?」


 前に出てきたエリーに「壊すなよ」とランディが声をかけた。


「阿呆。その程度の加減くらい出来るわい」


 顔をしかめ、幻屈晶を手に取ったエリーがゆっくりと魔力を込め始めた。ガラスのような幻屈晶が反るように曲がり、それを通過したエリーの魔力は、七色に分かれて進んでいく。


「凄い……」

「全属性だ!」

「初めて見た」


 まるで主人公のようなチートっぷりを見せるエリーだが、本人は気にした素振りもなく「なるほど」と呟いて魔力の照射をやめた。


「属性ごとに屈折率が違うんですね」


 珍しそうな顔で幻屈晶を眺めたリズに、エリーがリズも当ててみるといい、と進めた。


「では……」


 リズも幻屈晶に魔力を当てると……


「凄い!」

「エリザベス嬢も全属性だ!」


 七色の光がまた幻屈晶から放たれた。分かっていたことだが、エリーもリズも本気でチートな存在らしい。今の魔法理論であれば、誰しも属性を選ばず魔法を扱える。それでもやはり魔力の親和性というモノは無視できない。


 同じファイヤーボールでも、火の魔力に親和性のある人間と、ない人間であれば、使用する魔力の量が変わってくるのだ。それがゆくゆくは、効率や威力へ直結してくるのだから、全属性のエリーやリズはまさしく魔法の申し子と言える。


 そうなってくると、ランディも自分のポテンシャルが気になるわけで……


「ちっと俺にもやらせてくれよ」


 二人だけ格好いいのはズルい、とランディが意気揚々と幻屈晶に魔力を照射する――始めこそ明るく輝き、七色の光が出た……と歓声が上がったのだが、それは一瞬で、今は細く弱々しい白い光が真っ直ぐのびるだけだ。


 もちろん幻屈晶も殆ど変化が見られない。


「凄い……」

「無属性だけだ」

「こんなショボいの初めて見た」


 エリーやリズとは別の意味で感心されたランディが、がっくり肩を落としてトボトボと引き下がった。


「で、でも正確じゃないって話ですし」


 リズが一生懸命にランディを慰めるのだが、そのランディはというと……


「ありがとう。でも今優しくされると、泣きそうだから」


 ……大きな背中を丸めて顔を覆う始末である。何とも情けないランディの姿に、エリーが「ハァ」と盛大なため息をつく。


「阿呆は放っておいて、これを利用すれば、魔力で可変する面白いレンズが作れるのう」


 幻屈晶を明かりに透かすエリーが、「面白い」と笑顔を見せた。


「光じゃなく、光の魔力を照射したらどうかな?」

「い、いいですね。屈折率の計算が楽になりますし、なにより照射する魔力量で、倍率の調整も出来そうです」


 落ち込むランディを他所に、ブレインストーミングは続く。そうしてランディ抜きで進む魔法レンズの話が盛り上がり、方向性が決まった後は、目を輝かせたノアが、ランディを覗き込んだ。


「どうする? まずはこれだけでも形にしてみる?」


「そうだな……」


 ようやくショックから戻ってきたランディが、チラリと時計を見た。時間は既に下校前に差し掛かっており、今から試作をやり直すには時間が足りないのだ。


「僕的には写光凹板も気になるんだけど」


「写光凹板か……。確かにそっちも問題なんだが、まずは一個ずつ潰そうぜ」


 肩をすくめるランディに、「オッケー」とノアが頷いた。


「それじゃあ、続きは明日やる感じかな?」


 ノアが時計を振り返ったのと同時、下校を促す鐘が学院全体に響き渡った。ノアやエマと言った寮生含め、全ての生徒が帰路に着かねばならない。


 学院で活動する以上、絶対のルールに、全員が「あーあ」と残念そうに天井を仰ぎながら帰り支度を始める。これから面白くなりそうなのに、お預けなので彼らの嘆きも仕方がない。


 だがそれはもちろんランディ達もだ。想像以上に優秀な連中が集まっているので、このまま一気に試作を、と言いたいところなのだ。それでも方向性は見えたし、何よりランディ達は、寮ではなく借家なので、これから家に帰って試作の続きが出来る……故に――


「出来たらでいいんだが、その幻屈晶をいくつか売って貰えないか?」


 ランディの言葉に、ノア達が顔を見合わせ、そして笑顔を向けた。


「いいとも。在庫はまだあるし、市場価格で譲るよ」


 笑顔のノアが「これから試作かー。楽しそうだね」と羨ましそうな顔で幻屈晶の原石をいくつか手渡して、その場で請求書を素早く認めてくれた。


「サンキューな。上手く行けば、明日は実験に付き合って貰うよ」

「楽しみにしてるよ」


 差し出されたノアの手をランディが握り返した時、今度こそ下校を知らせる最終の鐘が響き渡った。


「さて諸君、帰ろうか」

「俺達も――」


 バタバタと研究室を後にした全員が、また明日と手を振りそれぞれの帰路へとついていく……。この場の誰が、この実験がランディの選挙戦に大きく影響を与えていく事になるなどと予想できただろうか。


 いや出来ないだろう。なんせ、この場の誰もがランディの生徒会長立候補という話題を、既に忘れかけていたのだから。

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