休載ばかりで申し訳ないです
ランディ達が丁度魔道具研究会へお邪魔していた頃、旧王都は今日も穏やかな昼下がりを迎えていた。帝国の統治のおかげで大きな混乱もない旧王都は、以前と比べても穏やかかもしれない。
そんな穏やかな旧王都の一画にある高級住宅街。そこにあるランディ達の借家でも、穏やかな午後を迎えている。
少し前の激動が嘘のように、ノンビリと流れる時間。それを堪能するようにハリスンはソファの上でウトウトと船を漕ぎ、午前中に掃除や洗濯も終わらせたリタは、ハリスンに隠れるようにコソコソと、自分の部屋で昨日撮影した時に着たカットソーとスカートに身を包んでいた。
「……わぁ――」
姿見に写る自分の姿に、リタが思わず声をもらした。いつも着ているメイド服とは違い、自分が輝いて見えるのだ。そうして今度は淡いブルーのワンピースに袖を通し、姿見の前でポーズを決めてみる。
「……いい、かも」
恍惚とした表情のリタだが「でも」と引き出しから写真を一枚取り出した。それは昨夜ランディが撮ってくれた写真の一つで、ハリスンとツーショットで映っている物だ。
ハリスンが着ている淡いブルーのセットアップと、それとリンクするような同色のワンピース。写真の中のハリスンは、いつもの笑顔だが、リタは思い切り緊張した顔を見せている。
「私じゃ隣は似合わないのかなー」
小さく呟き、ベッドに身を預けたリタが写真を天井に透かすように掲げた。ランディやリズ、それにエリーは口を揃えて「似合ってる」と言ってくれたが、それは服についてだろう、と分かっているつもりだ。
だというのに、写真の中の自分は意識しすぎてこの顔である。
思わずため息をついたリタだが、扉をノックする音に飛び起きた。
『リタ、そろそろ夕飯の買い出しに行く時間じゃないっすか?』
掛けられた声に、「そうでした」とドタバタとリタがワンピースを脱ぎ、そしていつものメイド服へと袖を通した。
メイドたるもの早着替えはお手の物、と広げた服を布団の下に隠し、大慌てで「お待たせしました」と開いた扉の先にいたのは……
「いつにも増して賑やかだったっすね」
……ヘラりと笑うハリスンなのだが、その服装がいつもと違っていた。昨晩着ていた、いやあの写真に映っていたあの淡いブルーのセットアップなのだ。
「ハリスン様、それって――」
「これっすか?」
自身を見たハリスンが「変すかね?」と照れたような笑顔を見せた。
「全然! 格好いいんですけど、どうして――」
「どうしてって、気に入ったから……っすかね」
首を傾げるハリスンが、折角ならリタも着たらどうかと提案する。撮影協力のお礼に、とランディがそのまま試作を二人にプレゼントしたからだ。
「いいんでしょうか?」
メイドなのに、仕事中にそんな格好を……と言いたげなリタを、ハリスンが笑い飛ばした。
「若はそんな細かいことは気にしませんぜ。それに、エリザベス《《様》》もそうでしょう? リタもヴィクトールなんすから、もう少し気楽にいたらいいんすよ」
「確かに……」
エリザベス嬢からエリザベス様への変化。それが示すのは、ハリスン達もリズがヴィクトールに嫁ぐという確信を持っている証左だ。同時にリタをもヴィクトールだと言ってくれるハリスンに、リタは心が弾むのを抑えられない。
「な、なら着替えてきてもいいでしょうか?」
「ご自由に、お嬢さん」
戯けて笑うハリスンが、ゆっくりと扉を閉めてくれた。
リタが大急ぎで着替えるのは、もちろん先程脱いだばかりの淡いブルーのワンピースだ。袖を通し、髪を整え、姿見の前に立つ。
「……よし」
頷いたリタが、意を決して扉を開いた。
「お、良いっすね。やっぱ似合ってるっすよ」
笑顔で迎え入れてくれたハリスンに、「ハリスン様も」とリタが微笑み返した。
そうして笑顔でその場を後にする二人の、
「よく考えたらお揃いっすね」
「……駄目でしょうか?」
「いいんじゃないすか。二人して、〝お似合いってことで〟」
楽しそうな会話が、開け放たれたままの扉の先から小さく響いていた。
その日、旧王都の通りを、見たことがないデザインのリンクコーデで歩くカップルの姿を多くの人が目撃した。仲睦まじく笑いながら買い物をする二人の様子に、「新婚さんかしら」「いいわねー」と多くのマダム達が温かい眼差しを向けていたのは、言うまでもない。





