本日休載のおしらせ+おまけ
時はしばし戻り、ランディが魔道具研究会へ顔を出す事になった日の朝。コリーとアナベルは学院前庭に設けられた、生徒会選挙告知の看板を眺めていた。
「本当だ……ランドルフ先輩、生徒会長に立候補してる」
「う、うん……」
ランディが立候補を決めた時も、一緒にいなかった二人は、キャサリンからその話を聞いて、こうして看板を確認しに来たのだ。
ランディの退学だ何だを知らない二人からしたら、ランディの立候補は驚きの行動なのだが……それ以上に驚いているのは、コリー達同様立て看板の前に集まっている生徒達だ。
「ランドルフってあの三年の?」
「なんでまた?」
至るところから聞こえる疑問の声に、アナベルもコリーも思わず頷いてしまう。そのくらいランディと生徒会長という立場がマッチする事はない。
だから今も何かの間違いでは、と二人してボンヤリとランディの名前を見つめ続けるのだが……
「落ちこぼれが立候補してもね――」
「お、落ちこぼれなんかじゃありません!」
……不意に聞こえてきた声に、アナベルが思わず声を上げてしまった。一斉に注がれる視線に、アナベルが「え、と」と視線を下げ、言葉を詰まらせる。
そんなアナベルを庇うように、コリーが「そんな人じゃありませんよ」と静かだが力強い声で野次馬に語りかけた。
「ランドルフ先輩は、皆さんが思ってるような人じゃありませんよ」
もう一度繰り返したコリーが話すのは、ランディという男の人となりだ。
学院での成績こそ振るわないが、それは単にやる気がないだけで、鋭い洞察力と冷静な判断力を持った頼れる男だという事。
美容液事業を始め、カメラや馬車、そして香油といったブラウベルグが独占している事業の多くに、ランディが関わっているという事実。
さらに噂通りSランク冒険者すら、赤子のように扱う実力を持っている事。
それだけの男であるのに、決してそれをひけらかさず、誠意には必ず誠意を返す義理堅い男だという事。
「とにかく、学院の様子だけで測れるような人じゃありません」
言い切ったコリーが、「だよね?」とアナベルに微笑みかけ、アナベルがそれに大きく頷いた。
「学院じゃ難しいかもしれませんけど、一度先輩が本気で何かをしてる姿を見ると、評価がガラッと変わると思います」
コリーが思い出すのは、七不思議から始まったカメラ作りと、あとはヴィクトールの収穫祭だ。絡みこそ他の仲間たちと比べると少ないが、それでもランディの凄さを体感するには十分過ぎる経験であった。
「全部は知らないけど、強いのはホントだよ!」
急に野次馬の中から手を上げたのは、コリー達が知らない女生徒だ。その生徒が語るのは、二年三学期にあったダンジョン研修でのランディの活躍だ。
「あの時、本当にランドルフ君がいなかったら危なかったからね」
その言葉に、何人かが賛同の声を上げた。どうやら彼女以外にも、ダンジョン研修に参加していた生徒がいたようだ。
コリーや研修参加組があまりにも自信たっぷりに言い切るものだから、集まっていた野次馬たちも「へ、へえ。そうなんだ」と先程までの自分達の態度を恥じるように、視線を逸らした。
「ただ、夢中になると周りが見えなくなる所もありますけど」
コリーの言葉に、アナベルも研修組もウンウンと頷いた。
「だから僕は、先輩が会長になったら学院はもっと楽しくなる気が――」
『ぶえーーーっくしょい!!』
学舎の向こうから響いた特大のクシャミに、その場の全員が音のした方を振り返った。
「……先輩、かな?」
「た、たぶん」
顔を見合わせ微笑む二人と同じように、その場にいた全員も「何の音?」と思わず笑みをもらす。
先程までと違う空気になった前庭を、柔らかな朝の光が包みこんでいた。
☆☆☆
「急にデカいクシャミを出すなと言っておるじゃろう!」
「もう、ビックリするじゃないですか!」
両サイドから服を引っ張られるランディが、「誰かが噂してんだよ」と鼻をすする。
「馬鹿で阿呆じゃ、とな!」
「今回はエリーに同意です! とっても同意です!」
「なんでだよ!」
ワイワイと賑やかな三人が、学舎の中へと消えていく――その後姿を、遠巻きに生徒達が見ていた。
「チッ、イチャつきやがって」
「くそ。毎日イチャイチャと」
「……でも、羨ましいよな」
コリー達の布教活動とは別ベクトルで、ランディは意図せず今日もその存在感を、良くも悪くも示していた。





