いつかの物語
”この子は…この時代には浮いてしまう天才の子なのかもしれない。”
水を飲み、生きたいと叫ぶ体を必死に動かそうとしている少女を女は抱き抱える。上等な服に泥がすり付いて匂いがすり付いて見るからに嫌悪するような状態であれど女は全く気にする素振りを見せず腐った木を踏み潰して破壊の音が響き渡る小屋の外へと出る。
『…ふふ、ぜんぶ、こわれてる』
小屋に差し込む光の先に少女の体を出せば少女は女の手の中で光の強さに瞳を細めてから村を見渡しては楽しげに、緩く微笑みを見せる。
嫌悪でも、憎悪でも、喝采でもなんでもなくただ心からの染みでる純粋な歓喜を浮かべた笑みを。
『ああ。全部壊してしまおう。』
少女の微笑みに女は静かに優しく微笑み返し,先程の淑女らしく大人しげな口調が荒々しい口調で少女にゆっくりと語りかける。
『なぁ。ミナト。』
『はい。』
破壊の限りが尽くされる中才能を扱う当の本人は小屋の前で外套を深く被ったまま小さな体で佇んでいた。静かに,その場に影しかないような存在感でただ女からかけられた言葉を受け取って返す。
『…どうしたい。お前の望むままに。』
数秒の破壊音だけになる沈黙の後外套だけが動いているような子供が僅かに少女の方へ傾く。ザラザラな声は感情がこもっていないようで酷いくらいの優しさを孕んで少女を包むように紡がれる。
『こわして。ぜんぶ、ぜんぶ。でも、わるくないこ、しってない、わかんないこ、』
拙い言葉でゆっくり、ゆっくり何を言いたいのか少女自身整理ができず順番がぐちゃぐちゃになっていようとも伝えようとしている。
『分かった。お前を故意に閉じ込めた奴らを共に壊してしまおう。』
覗く口元だけが女とよく似た微笑みを浮かべ飛び回っていた破片が停滞する。時が止まったような沈黙と共に,ほんの一時だけの平穏が訪れ
全て崩れ落ちる。
『消え去れ。』
外套の下で微笑んでいた子供は笑みを消し去り,
ザラザラな声で,ポツリとひとつ紡がれるもので平穏が破かれる。
停滞していた破片は全てが様々な方向に弾かれたように勢いよく飛び散る。破壊に破壊を重ねながら破片は確実に少女を故意に閉じ込めたものを分類し頭を撃ち抜く。
悲鳴が上がり、赤が飛び散り見るも無惨な姿になっていっている。
『す、ご。』
あはは。と乾いたようでいて楽しげな笑い声が女の手の中で奏られ言葉が呆気なく驚いたように零される。
『だろ。わたしの自慢の子だ。』
消え去れと呟いた子供を愛おしさとはまた違った歪んだ感情を抱きながら見つめていた女は少女の言葉に歪んだ感情を取り除いた言葉を紡ぐ。
『ミナト、どこに行こうか。この辺りの村はここだけだっただろう。ま、クソッタレだった訳だが。』
『どこにでも。姉さんとその子と一緒なら』
女は三歩ほど子供に近づきながら破壊の限りを尽くされている村にほくそ笑みつつ問い掛け、子供は無関心そうに一点を見つめたまま返す。
『っはは!やっぱりお前は重いな。』
『おもい…?』
『お前じゃないなぁ、』
子供の返答に豪快に笑った女は子供の抱く感情に対しての言葉を漏らすが少女がそれに。
破壊の限りがなければ軽い日常会話にもなろうものだが,そうとは言えない状況で彼女らは当たり前のように会話をするのだ。
『もういいよ。』
当たり前のように会話をした後女は子供に言い放つ。
子供がその言葉を拾っては破壊の限りを尽くしていた破片がピタリと動きを止め重力に従って落下する。見るも無惨なそこに村があったかどうかすらも分からなくなるほどにぐちゃぐちゃになった平野としか言えない場所に興味なんて一切ないように子供は虚空にとん。と指を置く。
『行く宛てが見つかったのか?』
女の質問の最中子供の指が置かれた虚空に浮かぶ水面のような揺らぎが発生する。
『ここらじゃ珍しい治安のいい小さめの村が。』
子供は頷きながら質問に答え,虚空の揺らぎから数歩小さく離れる。
『行ったら先ずは風呂だな。』
虚空の揺らぎに近づき,少女を左手で抱えたかと思えば直ぐに子供の手を右手で掴み子供の焦りを気にもせずそのまま虚空の揺らぎへ進む。
─── ───
虚空の揺らぎの中は何も無く,五感の何も反応せずただ足を動かすしかない。だがその感覚でさえ感じるのは出している張本人だけ。使っていて時たま思う。
こんなに気持ち悪い感覚を他の誰かが感じなくて良かった。と。
『よし。どう入れこもうか!』
木が自由に生い茂る中に虚空から突如現れた3人。目と鼻の先に子供が言った村がある。だがその中に入るのが大変。突如現れる身なりのいい女とボロボロの歩けぬ少女と外套を被った比較的まともかもしれない子供。その事実に女は明るく豪快に言い放つ。
『迷った…とか?』
木魚の音が鳴りそうな思考の時間を持って子供が無難そうでこじつけが難しい理由を出してみる。
『いいな。そうするか。服割いとくか?』
女と子供の少ないキャッチボールの中,少女は1人静かに女の腕の中で眠りにつく。するりと少女の腹の上に大人しく乗っていた少女の腕は少女が意識を飛ばすと同時に自由になったかのように腹の上から落ちる。
『おや。』
『寝ちゃいました…ね?』
その様子にぱちくりと驚いたように目を瞬かせていた彼女たちだったがふと同じタイミングで思いついたように目を見合わせる。
村の入口にて
子供と似たような外套を被った女が子供の手を引き眠ってしまった少女を抱えたまま
『御免下さいな。旅をしているものなのですが,道端で女の子が眠っていて,あのままでは猛獣に襲われてもおかしくない…』
つらつらと無理やりすぎるこじつけをさも本当のことのように女は並べ立てる。
その様子に手を引かれた子供は外套の下で少しばかり呆れたようにしている。
『なんと!どうぞどうぞ休んでいってください!』
それにのってしまう村の人も村の人だ。そう子供は目の前の人々のお人好しの位に溜息をつきそうになるが女の渾身の演技をだめにする訳にも行かないので引っ込み思案な子供を演じ、挙動をたじたじにする。
村の人に言われるがまま宿に行き、宿の人に言われるがまま少女を起こして風呂に入れて風呂に入りまた言われるがまま豪勢な食事をとった。
少女は暫く食事という食事を取っていなかったはずなのにがっついて女と子供が驚いていたのも過ぎたものになった。
宿の人に用意された3人には広い部屋で3人は豪勢な食事が胃の中で消化されるのを座って待っていた。
『これでもかってくらいに歓迎されたな……にしたってずいぶん羽振りがいいな。ここの周りは森くらいだったよな。畑があるにはあるが…不気味なくらいに実ってたな。』
子供が本を読んだり少女が久方ぶりに目にする星空に心を踊らせたりする中、女がポツリとボヤく。
女の言葉を拾えば少女は長い間小屋に押し込められていた弊害からか言葉が理解出来ないらしく首を傾げ,風呂の後から色の変わった外套を被った子供は本を読む手を止めて女の方へ顔を向ける。
『お前もそう思うか?』
『はい。都合が良すぎるくらいに受け入れてくれますし…分かりやすすぎる位に利用したいという雰囲気が滲み出ていました。治安がいいとは言いましたが恐らくは表面上のものかと。』
顔を向けてきた子供に女は問いかけ、子供は自分のふざけていた思考の裏にずっと隠れていた思考の結果を述べる。その言葉には村全体が此方を何らかの形で犠牲にしたいという思惑があるのだという事実に対しての憎悪がこもっている。
『だよなぁ…』
『ど、いう、こと?はぶり?かんげい?わかん、ない…』
子供の言葉に胡座をかいて膝に頬杖をつき,思考に浸る女と本を閉じる子供に少女は首を傾げて問いかける。単語が全て分からないという訳では無いが言葉の大半が文脈で単語を彩っている為、僅かに分からない単語と分からない文脈で綴られれば少女の理解は追いつかない。
『わたしたちが村の奴らに狙われてるかもしれないってわけだ。』
拙い言葉で紡がられる少女の問いかけを無視することなく女は淡々と答える。
要は羽振りを良くしこの村のいたいと思わせなにかの生贄にしているのではないか。それがあってもおかしくは無い時代だ。




