いつかの物語
空が白け始める頃。
彼女たち3人が止まる部屋の扉の前は少しばかり騒がしかった。コソコソとした声が重なり耳に触るくらいの声にはなっていたのだ。
それらの声の主が彼女たちの部屋の扉を勢いよく開ける。
声の主の彼らが目にしたのは当たり前にもぬけの殻の部屋。食事に紛れていた毒は彼女たちになんの効果を発揮することも無く,気づかれることも無く。
事実に驚いていた彼らを襲うのは彼女たちではなく、
”狐”
彼女たちでさえ驚いた。子供の才能で奇襲をとでも用意をしていた最中の出来事である。
少女が意気揚々と綺麗になった服を所々汚しながら木に登り果実を貪っているので女と子供の2人であったものの
間近で赤に勢い良く塗られる窓を目にする。
だがそれに怯える様子も動揺する様子も全くなく
『狐…神聖なにかが付与されてるな…使いか?』
分析を始める。神聖なにかというのは神または神獣などが授ける加護という曖昧すぎる物である。
だがこの世界には多くは無いがあまり少ないとも言い難い程に存在が確認され容認されている。
神の加護を与えられたものは神に愛されたものとして一目置かれ才能とはまた別に特殊な能力…が着くわけではあまりなく加護を与える神もまた才能を持つ一種の人間として分類される為契約のようなものに近い程度で留まる。
あるとすれば
”契約した片割れが残っていれば片割れがどれだけ木っ端微塵でも何でも生きて帰って来れる”
”契約したもの達は一定以上離れれば不調をきたすまた長すぎれば死の危険”
というチートじみて狂気じみた共依存だろうか。
『狐にねぇ…っはは。趣味わり。…!』
加護に関する情報を脳内に呼び起こしては苦虫を噛んだような顔の歪みようで女は笑う。
刹那。彼女が動揺を見せる。確実に狐が此方を見た。
金色の赤の隙間で輝く瞳が赤で彩られた美しい毛並みの中で静かに此方を覗いていた。
『バレた。”レイ”。降りてきて。』
少女に向けて子供が言い放つ。レイ。単純な話だがまだ名前をこれといって決められないから何も無い0としてレイと呼ぶ。突発的に決めた名前にしては中々呼びやすく馴染む名だと思う。
『おいひい。』
果実を数個両手に抱えながら木から飛び降りて持っていた果実をもぐもぐと口いっぱいに頬張りながら子供の方へ歩きながら向かう。
『こんなところに。』
男の声がする。レイと呼ばれた少女のすぐ後ろ、警戒をしていた子供にも女にも悟られず、狐の金色の目よりも色素の薄い金髪を携えて長身の男が佇む。
静かに。置物のように。
『レイ!』
子供の体が突き飛ばされたようにレイの方向へ動く。見て分かるくらいの衝動的行動。守れと守らねばと。
おかしい。ついこの間知り合ったばかりだぞ。
言われるがまま助けただけだぞ。おかしい。おかしい。でも、
嗚呼。そうか。これが情か。慈愛か。
子供の思考が目まぐるしくも早く回転していく。自分が抱いた感情を理解すれば,子供は小さく微笑む。この状況で微笑むなんて。
そう思うだろうが、そうしか出来ない。
気付かなかった哀れな自分。気づかせてくれた小さな貴女。そのふたつに微笑むしかないのだ。
『レイから…離れろ!!!』
全く敵意がない相手にすることでは無いことくらい理解している。理解していても危険だとそう勘がいうのだ。不確定すぎるのもわかっている。
子供のザラザラな声に力が篭もり,ガラガラ声の大人が怒鳴っているように聞こえてくる。
その声と同時にキリキリとなにかの歯車が回る音がして,木に触れて攻撃をしようとしていた子供も,女もレイの後ろにいた男だってピタリと止まる。
色も何もかもがそのままだがただ1人、少女だけは動いている。
『…あれ、』
ピタリと気味の悪い静寂を見渡して、少女はポツリと呟く。意図せずに発動した何か。
世界の中で孤独では無いのに孤独を感じる自分。また1人だと無意識に追い詰められてしまう自分。
そいつらのせいで少女の全てが潰されそうになる。
嫌だ。その感情がただ彼女を支配して、
『儂と少し話そうか。』
男の声に消え去る。
孤独を掻き消す声は,レイの後ろに唐突に現れ佇み子供に攻撃をされそうになっていた人物だ。
男にしては少し長く頬の上部あたりで切り揃えられた金髪を揺らし,男はレイの近くの虚空に座る風にしては足を組む。
『どうして…』
嬉しいのだと叫ぶ心を押さえ込み少女は男に問いかける。
『ん?っふふ。大変だったさ。儂とて権力があるとはいえすぐに入れない才能は初めてだったさ。お主は随分と位の高いものを持っているらしいな。』
少女の表情から隠しきれず滲み出る嬉しさに金髪の男は微笑み,穏やかに少女を何事も見透かすように見つめる。パッと見た限りだと空気椅子というのトレーニングを自分に課している馬鹿のように思えてくる。
『少し話そう。嗚呼。机と椅子くらいは出そうか。』
その男の様子に少女が立ち尽くして居れば男はひゅるりと冷たい風をひと吹き氷の机と椅子を出す。
ピタリと止まったままで焦った表情の女と怒りを顕にした子供にちらりと目をやりながら椅子の上に腰を下ろす。
冷たいのだろうと覚悟していたがどう言った原理か体に伝わってくる感覚というのは温度ないようで空間そのもののようで冷たくもなんともなかった。
『…お兄さん…だれ。』
腰掛けた少女は椅子で優雅にくつろぐ男に対して真剣な眼差しで問いかける。ほんの一日だけで覚えた言語でどうにか拙いものの伝えようとしている。
『それは儂が何者でどうして”時間が止まったこの世界”に干渉出来るのか、か?それとも単に儂と”あの狐”のことか?』
男は少女の問いかけに対して2つの答えの選択肢を設ける。片方は少女の才能にすら言及する答えで片方はまた別の疑問を解決してくれるという。
どちらも聞けるなら願っても見ない話だが本当にどちらも聴けるのだろうか、と
普通なら考えるが少女は生憎普通ではなかった。




