いつかの物語
わたしはイミゴだった。ナマエはなくて、みんなみんなわたしをイミゴとよぶの。
…ううん。ナマエはあったけど、なくなったの。
────── ──────
とある東洋の古代の村に,忌み子と呼ばれる少女が居た。黒髪の,黒目の普通のどこにだって居る小柄な少女である。
『おじちゃん!おこめとってきたよ!』
そんな少女の忌み子になる迄の、なってから出会う彼らの物語である。
未だ才能がそういう人体に備わっている普通の身体的能力と同じようなものだと認識され,身体強化程度の才能しかなかった時代。
一面の黄金が刈り取られる季節の中,一人の少女が今にしてみれば小柄な大人達を手伝い,黄金の房を運んで元気のある張った声で弾ける笑顔を添えて言う。
『おー。ありがとうな。』
朗らかそうな少しふっくらとした男はにこやかな笑顔で少女の頭を撫でる。
少し力強くて,体の重心ごと振るわれるような感覚は直ぐに
”急激に衰えた”
『ぁ…あ…ぁ…あ゛あ゛あ゛ぁああああ!!!!』
急激な衰えに体の変化に朗らかだった顔の皺が増えていく男は叫び声を上げる。気持ち悪さもあるだろう。
体の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されるような,それでいて変化に伴う想像しがたいほどの激痛だってある。
『…え…おじちゃ…』
悲痛な叫び声を散らし,急激に衰えた男は腐乱臭を振り乱し骨となり,塵となって消える。
叫び声に集まった人々は塵になる様を見て,祟りだと,その直前に触れた少女を祟り神だと罵った。
その少女は,目の前の事実に気が動転し,自分が手に掛けてしまったと人々の声のままに信じ込んでしまい始めている。
『いや…。いやぁっ…いやぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』
塵となった男の後に少女の布を割くような悲痛な悲鳴が村に響き渡る。
────── ──────
『ご機嫌麗しゅう?お邪魔するわ〜!』
その日から暫く経ち,一人白い上等な服を身に纏ったの女が村を訪ねてくる。少しだけ発展した村は塀が出来,家屋が木造だがしっかりとしている。
『はいはい。ロウオウからのお客人ですかな?』
村の長のような老人が女の前に面倒臭そうに現れるも上等な身なりを見れば物腰柔らかく問い掛ける。
『ええ。その通りよ。』
そう明らかに”媚び”をしている老人には目もくれず言葉だけで肯定しながら上等な身なりの女は村を見渡す。
『██さま。あのいえ。近づいちゃダメって。助けてって言ってる。』
上等な身なりの女の後ろから深く外套を被った小さな子供が現れては声を変換する魔法で荒くなっている声でとあるボロボロの小屋を指していう。
『…失礼、彼処にはだれが?』
荒い声の子供の言葉を聞いては女はすぅっとゆっくり瞳を細め,ボロボロの小屋を見つめ老人に,少々怒りの籠った様子で問い掛ける。
『さぁ。わたくしどもも、近付くなと代々伝えられているだけでして…』
しらを切っている訳でも無く本当に知らない風な様子で老人は怪訝そうに答える。客陣が唐突に無機物が助けてと言っているのだ、疑いたくもなるだろう。
本当に知らないのなら,生きていられただろうに。
『嘘つき。』
深く被られた外套の奥から老人に鋭い眼光を添えた金色の瞳が視線を定める。
何もかもを見透かすようなその瞳は,老人にとってとある感情を意図せず自分の器の中に注ぐことになる。
”嫌悪”と”動揺”。語ることはしないがこれ以上の感情もきっと含まれていたのだろう。
『はて。此方のお子様はお連れ様ですかな?随分と虚言的な ──』
分かりやすすぎるほどに話を逸らそうとするが、それもやむなし。
『御黙りなさい。私は貴方の言葉や態度よりこの子の言葉たった一つの方が信憑性があるのよ。語るだけ時間の無駄よ。』
バッサリと無慈悲に切り落とされる。
女は言葉を言い切る前に微かに服をひるがえし,子供が指を指した小屋の方へ歩を大きめに進める。老人に視線を定めていた外套を被ったまま不気味な程に落ち着いている子供もそのあとを歩幅が足りない分回転数を上げてちょこちょこと鶏の親子のように錯覚するようについて行く。
『まっ───』
老人の必死の抵抗。否。抵抗にならない抵抗に見向きもせず女と子供はボロ小屋の扉を木の悲鳴のような軋む音と共に乱雑に蹴り開ける。
『…!』
女の動揺。その理由は鼻を酷く劈く腐るような匂いと牢のようなボロボロの木の格子の奥で生きる気力を失った年端もいかぬ見た目の少女がごろりと寝転がっている。ぶんぶんと煩い羽虫がその少女に集っている。
『酷い衛生状態。人がいるとは思えない。』
外套の奥から嫌悪にまみれた言葉が落ちる。
”なんねん たったの だろうか。もう なんにちたったか わからない。”
もう分からない匂い,混濁ずる視界,何が触れているのか触れていないのか。口の中に何があるか。
何も分からない。感覚という感覚が木が廃れ落ちる程に長い時間の中で欠落して行った。
唯一かろうじて周りの楽しげな声に気を紛らわせたいと残っていた聴覚にいつも通りでは無い音、いや。声が紛れてくる。女と,ザラザラな声の、誰であろうか。
でも、
”だれか。たすけて。”
そう、光が指してきた場所に向けて口を動かす。水分をしばらく取らず声は出ないけれど,お願い。伝わって。
口元が見えた。
母音はあえあ、あうええ。
『…ミナト。』
『はい。』
女の脳内で言葉が母音からまともなものへ変換される。静かに憎悪に塗れた女の声は子供の名を呼ぶ。
同じように静かに答えるザラザラな声の子供は外套を翻し,村の隅から隅を見ては地面から小屋から土木を破片を小さな塊にし,四方八方に飛び散らせる。
飛び散らせるなんて安い表現では足りない。全てを貫くほどの勢いで村を破壊の限りを尽くしているのだ。人を傷つける訳ではなくただ、村の建造物地形を破壊している。
『…水をあげよう。さぁ。口を開けて、』
激しい土木の剥がれる音と爆発のような破壊の音が響く中女は腐った匂いが充満する小屋の中に足を踏み入れる。一歩踏み込む度地面がめり込むほどに腐っている。
顔を顰めながらも口を動かしていた少女を抱え,水を魔法で作りだし口の中にゆっくりと注ぐ。
『…っぅ…っけほ…』
少女は水を一口飲んで、苦しそうに噎せる。
『ゆっくり飲んで。』
少女を観察すれば虫がたかるのは身に纏っているものだけで身なりは不思議と綺麗である。生体的機能は確かに栄養不足水分不足で衰えていてはいるものの,人が生きているとは思えない環境だ。
”この子は…”




