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第8話 見えない介入

「時間はかかる」


ドルガンが、先に口を開いた。


「鎧も、装備もだ」


「数日で済めばいい方だな」


間を置かず、リッカも続ける。


「急いで雑に作るつもりはないよ」


「中途半端なの渡して、死なれたら困るし」


ドルガンが鼻を鳴らす。


「出来たら、こっちから呼ぶ」


ぶっきらぼうに言い切る。


「様子見に来るくらいならいいけどね」


リッカが横から口を挟む。


「……わかった」


それで話は終わった。


宿に連絡を入れてもらうことにする。


外に出ると、さっきまでの熱気が嘘のようだ。


「親父も、リッカも凄かったね」


ソエルが率直に言う。


「さて……どうするか」


今は、鎧がない。


あれがなければ、“いつものやり方”は通らない。


「それなら久しぶりに荷物運びじゃない?」


ソエルがまともなことを言う。


「明日、ギルドで探すか」


そのまま、宿へ戻る。



翌日。


冒険者ギルドの朝は、毎回戦場になる。


掲示板の前では、依頼の貼り紙を巡って怒号が飛び交っている


(……相変わらずだな)


(私、あの中に入るのは嫌よ。臭いから)


ソエルの毒舌も絶好調だ。


(……否定はできないな)


少し離れて、落ち着くのを待つ。


パーティ募集の掲示板にも目を通すが、荷物運びの募集はない。


受付に向かう。


見慣れない受付嬢だった。


「荷物運びの募集ですか?」


わずかな間。


「最近、多いんですよね。そういうの選ぶ人」


「そうですか」


短く返す。


「おい、ちょうどいい」


声に振り返る。


パーティの男が、こちらに手を上げていた。


「お前、スノウだろ?オブシディアンお抱えの?」


頷く。


「頼んでた荷物運びが来れなくなってな。今から来れるか?」


「問題ないですよ。ちょうど探してたんで」


それだけ答える。


「へぇ……あんたが」


女のメンバーが、興味深そうに見る。


「噂の“オブシディアンの荷物運び”ってやつ?」


「……あれか」


「聞いたことあるな」


ざわ、と空気が揺れる。


「パーティは決まりだな。行くぞ」


「はい」


受付へ向き直る。


「手続き、お願いします」


受付嬢は何も言わない。


ただ、書類を持つ手に力が入っていた。



パーティで森に入ると、すぐに空気が変わる。

湿った土の匂いと、視界を遮る枝葉。


「ここから先だ。気を抜くな」


リーダーの声は低い。


「相手はフォレストウルフ。群れで来る」


「囲まれたら終わりね」


女メンバーも緊張している。


(群れか)


(ちょっと多いかもね)


(でもスノウなら問題なさそう)


背中のリュックを地面に降ろす。


戦う気配はない。


――その時。


気配が変わる。


(来る)


一匹じゃない、二匹、三匹。


まだ増える。


(……多いな。十はいる)


「……来るぞ!」


前方の茂みが弾けた。


灰色のフォレストウルフが飛び出す。


「正面、二」


剣が振り下ろされるが、わずかにズレる。


(遅い)


スノウは動かない。


ただ、この場の空間に細い“糸”を広げる。


前衛の剣士の踏み込みが、わずかにズレる。

剣が空を切る。


「横!」


左右の茂みが同時に揺れる。


「三匹来てる!」


タンクが一匹を受け止める。

牙を食い止め、そのまま押し返す。


もう一匹が女メンバーに跳ぶ。


「っ――!」


その瞬間。


牙の軌道が、ほんの少しだけ逸れる。


当たらない、かすりもしない。


「……えっ?」


女メンバーの動きが止まる。


何が起きたのか分からない。


(今の……何?)


スノウはリュックの横に立ったまま。

何もしていないように見える。


後方から気配が近づく。


(後ろ……三)


パーティメンバーは誰も気付いていない。


(仕方ない)


スノウは軽く指を動かす。


見えない糸が、後方へ走る。


一瞬。


気配が、三つまとめて消えた。


音もない。


そこにあったはずの“存在”だけが、消えている。


何事もなかったように、空間は静かなままだった。


だが、まだいる。


さらにもう一匹。


糸の流れを、わずかに“ずらす”。


前衛の足が狂い、踏み込みが崩れる。


剣が入る。


「当たった!」


「何?いまのは偶然か?」


違う。最初から全部が、少しずつズレている。


誰も気づかない。


フォレストウルフの連携が崩れていく。

一匹、また一匹と仕留めていく。

気づけば、戦闘は終わっていた。


荒い呼吸だけが森の中に響く。


「……終わったか?」


誰かが息を吐く。


負傷者は誰もいない。


「妙だな」


リーダーが眉をひそめる。


「囲まれていたはずだぞ?」


「それに、誰も負傷してない」


視線がスノウを向く。


「お前、何かしたか?」


「何もしてないですよ」


解体の準備を進める。


誰もそれ以上は追求しない。


ただ一人だけ。


女メンバーだけが、戦闘が始まった空間を見ていた。


(……今の、本当に偶然?)


答えは出ない。


戦闘が終わり、森の静けさが戻る。


女メンバーは、倒れたフォレストウルフの位置を見下ろしていた。


「……ねぇ」


ぽつりと声を出す。


「どうした?」


リーダーが振り返る。


「別に」


肩をすくめるようにして、視線を外す。


「気のせいかもしれないけどさ」


少し間を置いてから、続けた。


「ちょっとさ、気持ち悪いくらい綺麗に終わったなって思って」


リーダーがわずかに顔をしかめる。


「囲まれてたわりに、崩れるの早すぎない?」


「それは結果的にうまくいっただけだろ?」


「そうなんだけどさ」


視線が一瞬だけ、スノウを向く。


荷物を整理しているだけの背中。


戦っていた様子はない。


「なんかさ……全部、噛み合いすぎてるっていうか」


「深く考えすぎだろ」


「だといいけど」


軽く手を振って話を切る。


「別に文句じゃないよ。結果悪くないし」


(気のせいなら、それでいいんだけどね)


女メンバーは視線を外し、解体作業に戻った。


第8話です

北海道は花粉症のシーズンです。

鼻水ずるずる、目がかゆいです。

花粉症の被害が少ない地域に引っ越ししたいです。

またよろしくお願いします。

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