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第5話 甘い時間

扉の向こうから、軽やかな足音が近づく。


コンコン、と控えめなノック。


「失礼いたします」


ワゴンを押した店員が入ってきた。


その上には――


色とりどりのケーキが並んでいる。


苺の赤、クリームの白、チョコの黒い艶。

甘い香りで部屋が包まれる。


「……すごいな」


思わず声が漏れる。


「お待たせいたしました。ご注文の品でございます」


一つ、また一つとテーブルに並べられていく。


皿が置かれるたびに、テーブルのスペースが埋まっていく。


……多い。


どう見ても、多い。


店員が最後の皿を置き終え、軽く一礼する。


「ごゆっくりお楽しみください」


口元が、わずかに緩んでいる。


ゆっくりと扉が閉まった瞬間。


「きたぁ!!」


ソエルが姿を現した。


目を輝かせ、テーブルに身を乗り出す。


「見てこれ!限定ケーキ!苺が美味しそう」


「落ち着け」


「落ち着いてるわよ」


どこがだ。


すでにフォークを手に取っている。


「いただきます!」


一口。


「……っ!?」


ぴたりと動きが止まる。


「どう?」


「最高じゃない!美味しい」


ソエルは目を細め、うっとりとした表情になる。


「クリームの甘さ加減も最高、さっぱりした苺も合う……」


一口、また一口、止まらない。


「それ、味わってる?」


「味わってるわよ」


皿が一つ空になった。


「早くない?」


「普通よ」


次にチョコのケーキに手を伸ばす。


「このほろ苦さがいい……」


幸せそうな顔だ。


「スノウも食べなさいよ」


無言で頷き、フォークで一口。


……これは確かに美味しい。


「美味しいでしょ?」


なぜか誇らしげだ。


「次はこれよ」


次々と皿を押しつけてくる。


「食わせる気、満々だね」


「当たり前でしょ?スノウ一人で食べたことになるんだから」


「……だろうね」


軽くため息をつく。


その横で、ソエルはすでに次の皿に手を伸ばしている。


一切の迷いがない。


お皿がどんどん減っていく。


「幸せ……」


満面の笑み。

……つられて、少しだけ頬が緩む。


「満足したら、そろそろ行くぞ」


「もうちょっと!」


「まだ食べるの?」


その小さな体のどこに入っているんだろう。


こういう時間も、たまには悪くない。


店を出ると、外の空気が少しひんやりしていた。


甘い香りに包まれていたせいか、やけにすっきりする。


「満足した?」


「とっても満足!」


機嫌は最高潮らしい。


「しばらくは頑張れそうよ」


「何を?」


「全部よ」


意味がわからない……まあいい。


「じゃあ、次だな」


「鍛冶屋?」


「その前にギルドだ」


ソエルの表情が少しだけ変わる。


「……素材の回収ね」


「ああ」


あの素材を、そのままにしておくわけにもいかない。


少し歩いた所で、空間収納からリュックを出して背負う。


見慣れた通り。


その先に冒険者ギルドの建物が見えてきた。


ギルドの重たい扉を押し開ける。


途端に、ざわめきが耳に入ってくる。


昼間なのに酒の匂い、鉄の匂い。

いつもと変わらない空気だ。


(……混んでるわね)


(いつも通りだ)


受付に向かって歩き出す。


視線が、いくつかこちらに向く。


「今日のご用件は?」


受付嬢は、事務的な声で問いかけてくる。


「素材の引き取りに来ました」


「一応、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「スノウ」


受付嬢は、こちらを見て一瞬だけ目を細めた。


オブシディアンの横に立っていれば、嫌でも覚えられる。


「……少々、お待ちください。査定担当を呼びます」


一礼して、奥に下がっていく。


(相変わらずの反応ね)


内側から、姿を消したソエルの声がする。


(オブシディアンの荷物運びだからな)


さっきよりも、明らかに視線の数が増えている。

ひそひそ話もいつものことだ。


(……嫉妬かしら)


(放っておけばいい)


(はいはい)


ほどなく、受付嬢と査定担当の職員が現われる。


「お持たせしました」


「こちらが、お預かりしていた素材になります」


「確認のため、パーティ登録証を拝見してもよろしいでしょうか?」


無言で、懐から冒険者カードを取り出す。

荷物運びのカード、そしてAランク冒険者オブシディアンのカードだ。


一瞬だけ提示する。


職員が目を細め、頷いた。


「確認いたしました。パーティメンバーによる代理引き取りですね」


「問題ないですよね?」


「はい、規定上問題ございません」


テーブルの上に、布で覆われたそれが置かれる。


布がめくられた瞬間、空気が変わる。


白銀ミノタウロスの頭部、そして四本の角。


テーブルの上が、わずかに冷える。


「素材の状態が非常に良いので、査定額についても――」


「そのままでいい」


言葉を遮る。


「えっ……?」


「査定はいい。素材は返してくれればいい」


「は、はい……承知しました」


素材を買い取れると思っていた職員は、明らかに戸惑っている。


本来なら、数人がかりで運ぶ量だ。


スノウはそれを軽く持ち上げ、布ごとリュックへと収めた。


「では、失礼します」


そのまま踵を返す。


背中に、視線が突き刺さる。


(鍛冶屋はいつものとこでしょ?)


(ああ……じゃないと面倒だ)


扉を押し開ける。


ギルドのざわめきを背に、外に出た。


第5話です。

今回もソエルのキャラを楽しむ話となっています。

また明日も投稿予定です。

是非楽しんで頂けたら幸いです。

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