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第37話 魔女の眼

私はきっと悪い夢を見ていた。

仲間たちとダンジョンに潜り、独りだけ遭難する夢。

ストーンクイーンアントの特殊個体に胸を突かれ、死ぬ夢。

本当に夢だろうか?

身体の痛みはない。

目を閉じているが四肢の欠損もなく、手も足も指も動く。

違和感があるのは口の中だ。

口の中が少し鉄の味がしている。

そうこれは夢ではなく現実で起こっていたことなのだ。

何故助かったのか?

今の状態はどうなっているのか?

あのクイーンアントの胃袋の中にいるのか?


恐る恐る目を開けると、全身は毛布に包まれている。

空間が狭くて背伸びができないが、安全であることがわかる。

膝の上にはパン、紙で包まれた何かと、水筒が置いてある。

紙に包まれていた物はタルト。確か系列店で最近発売した新作のベリータルト。

命の危機を感じた場合、生き物は本能に従う。

はしたない食べ方かもしれない。

ベリータルトとパンを夢中で口に運ぶ。

水筒には程よい温度の紅茶が入っており、その香りと温かさが全身に染み渡る。

脳に糖分が、身体にエネルギーを詰め込むと自分の状況をやっと冷静に確認できるようになってきた。

自分はいま大きな鎧の中にいる。

毛布で包まれていることからきっと保護されたようだ。

鎧の隙間から外を見ると、ストーンクイーンアントのBossエリアの端にいるようだ。

全身黒色の鎧を着た冒険者がエリアの中央付近で戦っているのだ。

きっとあれが噂のオブシディアン。

Aランク冒険者の筆頭。

暴風のごとく通った後にはストーンアントの亡骸しかない。

その亡骸も影の中にどんどん沈んでいく。

隣の精霊も強い。

あっという間に、Bossエリアに沸くようにいたストーンアントはいなくなった。

圧倒的な戦い……その姿に目を奪われてしまう。

小さいときに絵本で読んでもらった英雄像が目の前にいる。

私の胸を突き刺した特殊個体が追い詰められているのは間違いない。

そして特殊個体は複数の黒い槍が全身に突き刺さった。

これで終わったと精霊は安堵しているが、私の眼にはまだ特殊個体が死んでいない。

命の火が消えていないのだ。

危ない……そう思った時には特殊個体の口から黒緑の液体が吐かれた。

精霊に液体がかかりそうになる。

あの液体は腐食と毒の合わさったもの。

理由はわからないが私の眼にはそう見えている。


直接触れてはいけないもの。

あの液体に触れると間違いなく致命傷になり得るもの。

生命を汚し溶かすもの。


精霊の死を覚悟した時、オブシディアンが精霊を守るために抱きしめる。

その姿に女子であれば一度は夢を見たことがある、お姫様と騎士の話を思い出してしまう。

美しい光景だが、黒緑の液体は黒色の鎧を泡立て溶かしている。

全身黒色の鎧が勢いよく外された。

謎に包まれたAランク冒険者オブシディアン。

鎧の中の人物が現れたのだ。


鎧から出てきた人物は予想と違い大柄な人物ではなかった。

全身鎧を装備できるような体型ではなく、やや細身の青年。

どこかで見たことがある。

どこかで会ったことがある青年。

黒髪で細身の体型、冒険者っぽくない。

冒険者ギルドで見たことがあるオブシディアンの荷物運び(ポーター)だ。

嫉妬した冒険者たちが、よく酒場でオブシディアンの金魚の糞と言っていた人物だ。

オブシディアンと荷物運びの青年が同じ人物。

じっと見ていると自分の眼が勝手に詳細まで鑑定してしまう。

一度死んでしまったと思うのだが、生き返ってから私の眼が自分の眼ではない感じがする。

眼に映る世界が前よりも鮮明に詳細に見えてしまう。


彼の名前はスノウ・ノクティス。

ノクティスは特別な名前。雷龍王(女王)の名前だからだ。

つまり雷龍王の関係者ということになる。

とんでもない人物に助けられてしまった。

これは個人レベルのお礼では済まない可能性が出てくる。

おばばと母になんて説明すればいいのか……。


そう考えているうちに、特殊個体のクイーンの首が飛んだ。

一見すると、彼と精霊の戦いは終わったように見える。

地面に転がっている彼の安堵と、目を輝かせながら魔石を持っている精霊を見ると微笑ましく思うのだが、私の眼がずっと警告している。

戦闘はまだ終わっていない。

首を切られた特殊個体のお腹に生命反応が残っているからだ。

特殊個体よりもっと大きな力を持ったものが隠れている。

そのことに彼らはまだ気が付いていない。

そしてその存在が出現してしまう。


黄金色の卵から生まれた魔王。

私の眼にはアダマンタイトアント・ロード“魔王”の名前が見えている。

そして不完全体と。

生まれるには早すぎた魔王は、体の維持が出来ていない。

左腕が落ちて、アダマンタイトの黄金色の体表面が脆弱化している。

これならば、いまならまだ討伐できる。

そう思っていると彼と目があったような気がした。


37話です。

皆さんこんばんは。リアルで悲しいことが起きまして、心が折れてます。

人生は苦労ばかりじゃないかと思うくらい、今年は不幸なことが続いている気がします。

小説を書いている時は幸せです。土日は小説の書き溜め予定です。

いいね、ブックマークよろしくお願いしますね。

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