第三十五話
とある鍛冶屋の回想4
アンサラーが折られる?隕鉄の武器が折られる?最高傑作の1つと言えるくらいの自信作の武器が?あり得ない・・・。
折れたアンサラーの剣の刀身(隕鉄部分)はインゴットになるまで白翼族の監視下の元で行われた。鍛冶に対して今まで何も言わない白翼族の異常な行動だった。アンサラーの本体は刀身じゃなく持ち手の柄。監視していた白翼族は柄に興味がなくインゴットになった隕鉄を持ち帰っていった。手元に残ったのはアンサラーの本体の柄。
「お前は誰に折られたんだ?ご主人さまは誰に殺されたんだ?」
柄に話しかけても反応はない。そもそも契約者登録をしている武器。契約者以外に反応があるはずがない。
人族の村を守って戦死する可能性はあのお人好しの性格ならあるかもしれないが、ナンバーズⅤの数字を持つ白翼族が戦死するのか?神の使者・守護者と自称している白翼族が簡単に死ぬのか?何と戦ったら死ぬのか?疑問しかない。
隕鉄の刀身を折れる武器は限られており、同じ隕鉄以上の硬度がある武器でなければ難しいはず。神が作ったと言われるレガリア武器なら折れるかもしれないが、そもそも存在自体が怪しい。
なら同じ隕鉄の武器でアンサラーの刀身を折る可能性がある武器なら・・・1つだけ該当するものがある。ナンバーズⅠの切断+腐食に特化した武器なら一度傷つけてしまえば折れるかもしれない。
根本的な問題だが、同じ白翼族同士で争う意味がそもそもあるのか?
エアリアルが言っていた神に関係することなのか?
「アンサラーよ・・・何か知らないのか?」
刀身のない柄は何も答えない。それは主以外に応えることが出来ないように作られているからだ。
それから数年・・・あの白翼族が戦死してからここの環境は前と同じ奴隷の生活に戻っていった。
唯一の楽しみは隕鉄を打つこと、時々支給される安い酒を飲むこと。生かさず殺さずの奴隷生活。いまは白翼族の使い捨ての道具でしか存在していない。
「あのときは楽しかった・・・これより美味い酒が飲めた。何より笑っていた」
楽しい過去を思い出しても、過去に戻れるわけではない。
ふと鍛冶場の神棚に置いてある柄を見てしまう。持ち主がいなくなり使われなくなった武器の末路は何と悲しい姿なのか。
埃を被ってしまって、最高傑作の1つと呼べる姿はどこにいったのか。その姿を見るたびに今の自分を写す鏡に見えてしまって焦燥感しかない。
急に鍛冶場に強い風が吹く。天空の孤島は環境調整されているため強風が吹くことはまずない。
その時、耳元に懐かしい声が聞こえた気がした。
(アンサラー持っていくね)
神棚に置いてあった埃を被っていたあの柄が消えていた。
「ふぁはははは。今日は何て愉快な日だ。アンサラーを風で持っていったんだよな?」
十数年前に戦死したと言われていたが、もしかしたらどこかで生きてるかもしれない。
久しぶりに涙目で笑った。
またいつか会えるまで。次こそはアンサラーが折れない隕鉄の刀身を作ってビックリさせてやるか。
あの風は自分の中で消えかけていた火種を再度燃やしてくれたのかもしれない。
天空の鍛冶屋に再度炎が灯った瞬間だった。
こんにちは。9月に入って北海道はやっと涼しくなってきた感じがします。
令和の米騒動は早く収まって欲しいですね。
小説は次回からやっと本編に戻ります。脱線が過ぎました。反省です。
また2週間後に投稿予定ですのでよろしくお願いします。