第33話 傀儡化
「これで退路は一応確保だな」
このまま35層のBossエリアを退却してもギルドに言い訳は立つだろう。
ただあの特殊個体をそのままにするわけにはいかない。
放置するといつか氾濫が起き、被害が大きくなる可能性がある。
それに特殊個体の腹部に違和感がある。
「1本しかないエリクサーを使うと思わなかったよ」
隣に来た相棒の精霊はやや不満そうな口調で話してくる。
「死の匂いが強かったから、今回は仕方なかった」
エリクサーは完全回復薬。
死んでいなければ四肢の欠損があろうが、体がちぎれようが完全に回復する。
頭が消えてしまうとさすがに難しいとされているが、試したことがないためわからない。
エリクサー自体の本数が少ないため研究されていないのだ。
過去にエリクサーを再現しようと魔女や錬金術師が躍起になっていたようだが、結果はおもわしくなかった。
ハイポーションの効果が少し高い程度の回復しか再現できなかったらしい。
「それよりチェンジした場所は最悪じゃない?あれはないでしょ?」
ソエルに苦情を言ってみる。
「緊急事態だったから仕方ないでしょ。そもそも死にかけってわかってたのはスノウでしょ?」
はい、その通りです。
索敵しながらBossエリア前でお茶会という休憩、おやつタイムをしていた自分が悪いです。
でもソエルちゃん……あなたもおやつ食べたよね?
「ところでこの後どうするの?今なら退くこともできるけど?」
元々の討伐クエストはクイーンアントとストーンアントの一斉駆除。
クイーンアントが3体いることは想定外。
「あの特殊個体をさすがに放置はできないな。それに魔女を助けている時点で遅かれギルドに報告にいくだろうし。やるしかない」
「ねえ、このクエストが終わったらお願いがあるんだけどいい?」
ソエルは自分からお願いをすることはあまりない。
精霊界で生命を救われただけで一生の恩があると言っていたからだ。
珍しいこともあるもんだと簡単に返答する。
「構わない。自分に叶えられる願いであれば」
「やった。じゃあ早く片付けないとね」
自分の返答が嬉しかったのか、ソエルのやる気は何故かMAXになっている。
本当にそのハイテンションは珍しい。
終わったら何をお願いするのか逆に不安になってくる。
魔力念糸で操作していた白い全身鎧の軍団を最低限にして防御モードに移行する。
6体くらい残せば大丈夫か。
お姫様抱っこしている魔女を抱えたまま戦えないわけではないが、クイーンアントが残り2体いるので現実的ではない。
性能が落ちるが、駆け出しの頃の黒い全身鎧を空間収納から呼び出す。
毛布で魔女を包んで鎧の中に入れる。
もし何かが起きても6体のレギオンと一緒にBossエリアを撤退させれば、魔女だけでも生き残れるだろう。
紅茶の入った水筒とおやつの残り、パンを膝の上に置いておく。
「ソエル、疲れるかもしれないけど頼むね」
魔力念糸でエリア内の反応を数える。
黒紫色の特殊個体のクイーン、灰色のクイーン、将軍クラスが5体、兵隊が70体ほどか。
「あの首のないクイーンアントの体を使わせて貰うかな」
悪い顔をしながら、ソエルが一撃で首を飛ばしたクイーンアントの亡骸を見る。
「スノウってネクロマンサー(死霊使い)って言われるんじゃない?」
またやるのかって呆れ顔の精霊の表情を見るのは楽しい。
クイーンアントの亡骸だけ空間収納してなかったのは、この後何をやるのかソエルが想像していたからだと思う。
「でははじめよう……ハッキング(傀儡化)」
首のない絶命したはずのクイーンアントの亡骸が、ビクンと動いた後にゆっくりと体を起こした。
33話です。
皆さんこんにちは。現在の北海道はどん曇りです。
体調は今ひとつ、家事を終わらせないと(笑)。
嫁も休みのため、台所の洗い物をこの後終わらせます。
小説の内容は楽しんでますか?自分は書いてて楽しいです。
この楽しさが伝播しますように。また明日投稿します。
よろしくお願いします。




