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第31話 魔女の絶望

35層のBossエリア。

岩窟エリアの中で最大の広さを誇っており、Bossであるストーンクイーンアントを頂点に将軍クラス、兵隊クラスのストーンアントと群れをなしている。

行きは本当にスムーズだった。

繁殖期にも関わらず戦闘は回避できていた。

仲間パーティがいれば心強いが、いまは独り。

このエリアさえ抜けることができれば生き残る可能性は格段に上がる。


隠蔽魔法を発動し、気配を消してBossエリアを進んで行く。

魔物に触れない限り隠蔽魔法は基本解除されない。

隠蔽魔法と同格のスキル、それ以上の気配察知になると看破される可能性もあるが、クイーンアントの過去のデータには気配察知を持った個体は見つかっていない。

Bossエリアの異常な静けさ、薄暗い空間を歩くのは本当に神経を使う。

緊張しているのか、浅い呼吸になっており胸が苦しい。

息が詰まる。

何かがおかしい……35層の岩窟エリアは広い空間のはずだが、薄暗さのせいもあるのか狭く感じる。

いや間違いではない。行きですり抜けた時よりも明らかに狭い。

ここに入ってからずっと何かの視線を感じている。視線の場所が特定できない。

ここにいるのは不味い、本能時に感じている。

震えが止まらない……。


「ギュキュイイイ」

甲高い警戒音がエリア全体に響く。


(見つかった!?)


警戒音の後にはあり得ないことが起きる。

岩窟エリアの壁が動いているのだ。

Bossエリアの壁が動くなどあり得ない。

頭が混乱して冷静な判断がつかない。この場から逃げ出したい一心で壁に触れてしまった。


「ギュギュギイイイイイ」

先ほどの警戒音とは違う。

一瞬のうちに囲まれてしまった。

触ったのは壁ではなかった。

壁と思っていたのはストーンアントより大きな個体、将軍クラスの個体の一部を触ってしまった。

隠蔽魔法が完全に解除されてしまった。

囲まれていても知能の低いストーンアントの隙間を抜ければエリア脱出はできる。

身体のスピードなら自分の方が明らかに上なのだから。


ストーンアントとの鬼ごっこを20分以上、隙間をすり抜けてもエリアの中から抜け出せない。

すり抜けた先に兵隊のストーンアントが待っているからだ。

呼吸も足の筋肉も悲鳴を上げ、体力は限界になってきている。

足が止まったときに、入口と出口にそれが現れた。

クイーンアント2体。


Bossエリアは基本1体のBossという話は嘘なのか?

前後に挟まれた状態になってしまった。

心臓の音が外に漏れているのではないかと思うくらい鼓動が激しい。

そしてとどめを刺すように異常なものが真上から下りてきた。

岩窟エリアに入った時から感じていた違和感、ずっと見られている視線の正体。

灰色の個体ではなく、外皮が黒紫色の明らかな特殊個体のクイーンアント。

絶望の塊がそこにいる。


特殊個体を含めた3体のBossがこの場にいること自体があり得ない。

Bossを従える特殊個体であれば、それは上位のBoss……皇帝クラスでしかない。

最悪の存在だ。

複数のBossを従え、ダンジョンから氾濫を引き起こす厄災。

その存在自体が生きているうちは、ダンジョン内外に災害を引き起こす。

過去に皇帝クラスがダンジョンで氾濫を起こし、鎮静されるまでに数ヶ月。

たくさんの町が氾濫に飲まれ多くの犠牲者を出した。

小さな国が2つ地図上から消えてしまった。


冒険者ギルドは氾濫の教訓からBossの生態を管理し、定期的に討伐依頼を出して駆除している。

この特殊個体は何だ?

何故こんな特殊個体が存在している?

冒険者ギルドの管理はどうなっている?

言いたいことが山ほどあるが、黒紫色の個体を見るだけで悟ってしまう。

これは逃げられない……。生き残ることができない……。

パーティメンバーや自分の装備が、準備が万全であれば可能性はあるかもしれないのに。


後悔しかない。

まだ二十歳歳にもなっていない。たくさんやりたいことがあるのに。

甘い物も食べたいし、異性とデートしたこともない。

何にも縛られず、母の若いときのような世界を旅したいのに……。

人は絶望を感じると知らないうちに泣き喚き、嗚咽がでているようだ。

きっと人様に見せられる顔じゃないだろう。

ぐしゃぐしゃで不細工になっているだろう。


(誰でもいい、助けて)


そう思った瞬間、体に鈍い感触と痛みが伝わる。

口の中に鉄の味がしたかと思ったら、全身の痛みと息ができず吐血する。

特殊個体の何かが体を突き刺し、持ち上げられた。

左肺に何かが突き刺さっている。

呼吸が出来ず、出血のせいなのか目が徐々に霞む。


「ギギギュウイ」


何を言っているかわからない。

全身の感覚が無くなっていく。手足が寒い。

死ぬことは、こんなに呆気ないものなのか。

もっと楽しいことをたくさんしたかった……。

意識が朦朧としていく中で、耳元で何かがささやいてくる。


「助けて欲しい?私のスノウの邪魔をしないなら助けてあげる」


幻聴?誰かが何かを言っている気がする。

スノウ?助けてあげる?

呼吸ができず、声も出せない。


「た……けて」


口の中が血で溢れ、声にならない。


「スノウ不味いことが起きてる、チェンジするよ」


何かが耳元でささやいたが、目の前が暗くなり意識は途絶えた。


31話です。

皆さんこんばんは。北海道は蒸し暑いです。

20年前の北海道の夏は寒かったのに……最近は本州と変わらない感じがしますね。

金曜日に不定期投稿するかもしれません。今後面白くなってきます。

よろしくお願いします。

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