第3話 変異個体
「スノウ様……無事で、よかった」
静かな部屋に、ローレライの安堵の声が落ちた。
「心配をかけたなら、すまない」
「そういうことを言っているのではありません」
一歩、距離を詰めてくる。
「怪我はしてないから、大丈夫だよ」
「嘘ではありませんね?」
近い。
傾国の美女と呼ばれるローレライから見つめられると、ドキドキしてしまう。
「はいはい、それ以上近付くのは禁止ね」
横から割り込む声。
「スノウ、このエロいエルフに騙されたらダメよ」
「誰がエロいですか!」
「あんたの存在そのものがエロいのよ」
ソエルとローレライが睨み合う。
……毎回バチバチするのはどうにかならないかな。
「スノウの横には、いつも私がいるから大丈夫なの」
「怪我がないか、確認したいだけです」
「確認ねえ……触りたいだけなんでしょ?」
ソエルの煽りが、止まらない。
「スノウ、こういうタイプが危ないのよ。天然たらしよ」
「たらしって!?」
無言になったローレライの顔が真っ赤になる。
ローレライが小さく息を吐く。
「……取り乱しました。本題に入ります」
空気が静かに張り詰める。
ローレライはまっすぐにスノウを見る。
「まず結論から言います」
先ほどまでのソエルとの掛け合いが嘘のようだ。
「――あの個体は、あり得ない“変異個体”です」
「やっぱり」
予想はしていた。
「素材の硬度、魔力の流れ、異常な個体です」
「中身は、氷みたいだったよね」
「ええ。自然に発生するなんてあり得ません」
ローレライは、ゆっくりと頷く。
「通常のミノタウロスは“土”寄りの魔物です。氷の性質は、本来持ち得ない」
「つまり?」
ソエルが腕を組んで口を挟む。
ローレライは少し考え、言葉を選ぶように口を開く。
「外部から“何か”された可能性を考えています」
空気が、わずかに冷える。
「人為的に作られた個体ってことか?」
「断定はできません。ですが、明らかに不自然すぎます」
嫌な予感しかない。面倒な話になってきた。
「いくつか、類似の報告が上がっています」
「へえ、この牛だけじゃなかったんだ」
「数は少ないのですが、詳細不明のまま終わっていますね」
「都合良く消された感じか」
ローレライは、何も答えない。
「スノウ様」
呼び方が、少しだけ柔らかい。
「あまり良い予感がしません」
まっすぐな視線には、強い意志を感じる。
「心配しすぎじゃない?」
ソエルは軽口で返す。
「これは“厄介な匂いがする案件”ってことでいいのか?」
「……ええ」
ローレライは静かに頷く。
「なるほどね」
軽く息を吐く。
「深入りしないように気をつけるよ」
「この件は分からないことが多すぎます……だから、無理に関わらないでください」
命令ではない。心配されている。
「……わかったよ」
曖昧に答えるしかない。
「しばらくは単独行動を控えてください」
「それは面倒なんだけど」
「本当にやめてください!」
即答だった。
「やっぱりね、面倒くさい話になったじゃない」
ソエルが肩をすくめる。
――本当に、これで終わるのか?
見えないところで、“何か”が動いている――そんな気がした。
第3話です。
リライトには、かなり時間をかけてます。
本日の投稿は最後です。
明日よりGW期間は、毎日投稿予定です。
是非楽しんで頂けたら嬉しいです。




