第13話 喧嘩する鎖
「それで」
間を切るように、リッカの声。
「そっちは分かったでしょ?」
軽く顎で、小手を指す。
「じゃあ、次ね」
違う作業台の上に、もう一つ。
細い、白銀の鎖。
さっきの魔力の鎖とは違う。
今度は、はっきりとした鎖の形をしている。
「こっちも少し癖があるよ」
リッカが、試すような笑みを浮かべる。
「これ、二本同時に使うと……たぶん喧嘩する」
わずかに肩をすくめる。
「でも……慣れるなら、“この子”かな」
見つめる目は、明らかに挑戦的だった。
「小手に着けてみて」
白銀の小手に、鎖は違和感なく装着できる。
冷たいはずなのに、わずかに熱を帯びている感じがする。
「いいね、ぴったり」
リッカの声。
「じゃあ、そのまま流してみて」
ゆっくりと、魔力を流す。
小手に着けた鎖は動く。
さっきの見えない鎖と違って、やや重い。
だが、自分の思い描いたように動いてくれる。
続けて、核にも魔力を流す。
物理の鎖と、見えない魔力の鎖。
同じ鎖なのに、動かそうとすると互いの軌道を乱してしまう。
二つの流れが、噛み合わない。
目標を定めても、見えない鎖が先に走り、物理の鎖を引きずっていく。
自分の制御も甘い。
この鎖たちの“性格”が、まだ掴めていない。
(この鎖って……性格は真逆じゃない?)
ソエルの言葉は、的確だった。
(見えない方の反応が速いのよね)
(見えてるのか?)
(微かにね……精霊だからかも)
少し間を置いて、ソエルが続ける。
(普通の人には、たぶん見えていないと思う)
「ほらね、喧嘩するでしょ?」
リッカは軽い口調で話す。
「まずは物理の鎖で慣れるこったな」
ドルガンが何かを放り投げてくる。
白銀を帯びた、冷たいダガー。
「暇で、作っておいた」
角の一本を使ったらしい。
「鎖だけじゃ詰めが甘い」
短く言う。
「親方が勝手に角使ったのさ」
リッカが、腕を組んでふくれっ面の顔をする。
「お前に任せたら、もう一本も鎖にするだろうが」
親方とリッカの言い合いが始まる。
確かに、いま鎖が三本あっても手に余る。
今回は親方のダガーは有り難い。
「……いくらだ?」
二人の言い争いの合間に、短く挟む。
「全部込みで……」
リッカが口を開きかける。
「適当でいい」
ドルガンが被せる。
「久しぶりに良い仕事だった。手間賃だけでいい」
ぶっきらぼうに言い切る。
「ちょっと親方、安すぎじゃ」
「黙ってろ」
即座に遮る。
「……金額、出せ」
観念したかのように、リッカがため息をつく。
提示された額は、安すぎた。
何も言わずに金貨を取り出し、少し多めに置く。
「多い」
ドルガンが眉を寄せる。
「構わない」
短く返す。
「ふん……好きにしろ」
それ以上は何も言わなかった。
「残りの角はどうしたい?」
リッカが不意に尋ねてくる。
「特に考えていないな」
「じゃあ、私が使ってもいい?」
口元が楽しそうに歪む。
「妙なものは作るなよ」
「保証はしない」
軽く笑う。
「後悔はさせないよ」
ドルガンが、横から低く言う。
「そいつは最後に回せ」
それ以上は何も言わない。
「……分かった。これは預かりだね」
リッカは角を奥に持っていく。
「じゃあ、もう行く」
「ちゃんと使いこなしてよ!」
リッカの声が背中に飛ぶ。
「それ壊したら、もっと面倒なもの作るから」
「……遠慮しておく」
軽く手を上げて、店を出る。
背後で親方とリッカの言い争いが再開していた。
第13話です
今回の話で1日1話の投稿を終わります。
次回からは3日に1回のペースへ。あとは不定期投稿になると思います。
噛めば噛むほど、読めば読むほど先が気になると思われる作品を目指します。
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