第12話 白銀の小手
翌日。
昨日のドルガンの言葉が、まだ耳に残っている。
それでも足は、迷わず鍛冶屋に向かっていた。
鍛冶屋の扉を押し開ける。
炉の熱が、空気を揺らしている。
火の色が、昨日よりも深い。
「……来たね」
振り向かずに、リッカが言う。
その声に、わずかな高揚が混じる。
「ちょうどいいところ」
手元の作業台に置かれているのは、見慣れない装備。
白銀の小手。
表面は滑らかだが、内側には細い溝のようなものが走っている。
“何か”を流すための道にも見える。
そして、中心。
埋め込まれた魔石が、微かに脈を打っているようだ。
「これが核」
リッカが指先で軽く触る。
「この魔石は、普通に使うには強すぎる」
口元が、楽しそうに歪む。
「だから抑えない。“流す”」
小手を持ち上げる。
「核に流して、あとは外に出すだけ」
軽く振る。
すると、小手の縁で空気が微かに揺れた気がした。
何かが伸びたように見えたが、すぐに消える。
「どう?見えた?」
「……今のが、一本目。核から“流して”引き出す鎖」
「私じゃ、安定させきれないけどね」
リッカが近づいてくる。
「鎖は二本。もう片方は、後で渡す」
視線が、スノウの手元へ落ちる。
「これ、使いこなせるかな?」
イタズラした子どものような笑みだった。
リッカが小手を差し出す。
「着けてみて」
短く頷き、手に取る。
見た目に反して、重さはほとんどない。
だが内側に、何かが“詰まってる”感じがする。
腕に通す。違和感はない。
むしろ、最初からそこにあったような感覚だ。
「ゆっくりでいいから、流してみて」
わずかに、魔力を流す。
速い。
抵抗がない。
引っかかりも、遅れもない。
小手の核が、わずかに脈打つ。
“流す”
その瞬間。
空気が、細く裂ける。
鎖だ。
見えない。
だが、そこに“ある”のが分かる。
空気を裂くように、まっすぐ伸びる。
思った通りに、動く。
速い。軽い。
正確すぎる。
もう一度、流す。
鎖が、しなやかに軌道を変える。
滑らかに、無駄がない。
ほんのわずか、出力を上げた。
次の瞬間。
――ズレた。
意識と、動きが噛み合わない。
合わせようとするが、追いつかない。
小手の内側で、何かが跳ねる。
鎖が、弾けるように軌道を変えた。
空気を裂く音が、鋭く響く。
(スノウ、止めて)
即座に、魔力の流れを切る。
鎖は、霧のようにほどけて消えた。
静寂。
わずかに遅れて、熱だけが残る。
小手の表面。
黒い筋が、脈を打つように浮かぶ。
まるで、生きているみたいに。
それは一瞬。
だが、すぐに消える。
「……出たね」
リッカの声。
「今のが、“外れかけ”」
軽く言う。
重い足音が近づく。
「だから言っただろ」
低い声。
「反応が良すぎるもんはな」
「制御を誤りゃ、勝手に暴れる」
炉の音が、わずかに遠のく。
「それでも使うなら――覚悟しろ」
重い足音が止まる。
「最初は絞れ」
「流す前に、まずは止め方を覚えろ」
厳しい一言。
「……ああ」
小さく返す。
白銀の小手に意識を落とす。
さっきの感覚は、まだ残っている。
速い。軽い。
――だからこそ、制御が要る。
わずかに魔力を流し、抑える。
細く、慎重に。
核が応じ、静かに揺れる。
“流す”
空気が揺れる。
見えない鎖が、静かに伸びる。
空中で静かに止まり、動きに遅れてついてくる。
重い。だが、今度は追える。
そのまま戻す。
鎖はほどけ、小手の中に静かに消えていく。
「今の感じ、忘れないで。欲張らなければ、ちゃんと応える」
ドルガンは何も言わない。
ただ、黙って様子を見ている。
小手に目を落とす。
一歩間違えれば、簡単に制御が外れる。
さっきの“ズレ”は偶然じゃない。
あれが本来の動き。
指先に、あの感触が残っている。
鎖は、確かにそこにある。
だが、まだ自分のものじゃない。
第12話です。
体調不良で布団で寝てると、より悪化しました。
寝具が原因みたいです。ハウスダストもあるのかな。
また明日も投稿します。




