第十二話
アナザーサイド:魔女のリーダー(2)
35層Bossエリア。岩窟エリアの中で最大の広さを誇っており、クイーンアントを頂点に将軍クラスのストーンアント(普通にストーンアントより個体が大きい)、兵隊のストーンアントと群れをなしている。
行きは本当にスムーズだった。繁殖期にも関わらず戦闘は回避できていた。仲間がいれば心強いが、いまは独り・・・ここさえ抜けることができれば生き残る可能性は格段に上がる。
隠蔽魔法を発動し、気配を消して進んで行く。魔物に触れない限り隠蔽魔法は基本解除されない。隠蔽魔法と同格レベル、それ以上の気配察知になると看破される可能性もあるが、クイーンアントの過去のデータには気配察知を持った個体は見つかっていない。
異常な静けさと薄暗い空間の中を歩くのは本当に神経を使うし、呼吸が苦しい。息が詰まる。
ただ何かがおかしい・・・35層は岩窟エリアの中でも最大空間のはずだが、薄暗さのせいもあるのかかなり狭く感じる。いや間違いではない、行きですり抜けた時よりも明らかに狭い。何よりエリアに入ってからずっと何かの視線を感じている。ただ視線の場所が特定できないのだ。
ここにいるのは不味い、本能的に感じている。エリアに入ってからずっと震えている、悪寒が止まらない・・・
「ギュキュイイイ」
甲高い警戒音がエリア全体に響く。
見つかったの??
警戒音の後にはあり得ないことが起きる。
岩窟エリアの壁が動いているのだ。Bossエリアの壁が動くなどあり得ない。
頭が混乱して冷静な判断がつかないが、この場から去りたい一心で壁に触れてしまった。
「ギュギュギイイイイイ」
先ほどの警官音とまた違う。一瞬のうちに囲まれてしまった。
触ったのは壁ではなかった。壁と思っていたのはストーンアントより大きな個体、将軍クラスの個体の一部を触ってしまった。隠蔽魔法が完全に解除されてしまった。
囲まれていても知能レベルの低いストーンアントの隙間を抜ければエリア脱出はできる。身体のスピードなら自分の方が明らかに上なのだから。
ストーンアントとの鬼ごっこを30分以上、隙間を抜けても抜けてもBossエリアを突破できない。抜けた先に兵隊のストーンアントが待っているからだ。
呼吸も足の筋肉も悲鳴を上げ、体力は限界になってきている。
足が止まったときに、それが現れた。
クイーンアント2体。
Bossエリアには基本1体のBossという話は嘘なのか?前後に挟まれた状態になってしまった。心臓の音が外に漏れているのではないかと思うくらい鼓動が激しい。
そしてとどめを刺すように異常なものが真上から下りてきたのだ。
岩窟エリアに入った時から感じていた違和感、ずっと見られている視線の正体。本来の灰色の個体ではなく、外観が黒紫色の明らかな特殊個体のクイーンアント。
いまの自分にとって絶望の塊がそこにいる。
そもそも特殊個体を含めた3体のBossがこの場にいること自体があり得ない。エリアBossを従える特殊個体であれば、それは上位Boss・・・皇帝クラスでしかない。
複数のBossを従え、ダンジョンから大氾濫を引き起こす厄災。その存在自体が生きているうちは大災害を引き起こす。
過去に皇帝クラスが大氾濫を起こし、鎮静されるまでに数年・・・たくさんの町が飲まれ、多くの犠牲者を出し、小さな国が2つ地図上から消えてしまった。
冒険者ギルドは大氾濫の教訓からBossの生態を管理し、定期的に討伐依頼を出して駆除している。
じゃあこの特殊個体はなに?何故こんな特殊個体が存在している。冒険者ギルドの管理はどうなっている?言いたいことが山ほどあるが、特殊個体を見るだけでわかってしまう。
これは勝てない・・・。生き残ることができないと悟ってしまう。せめて仲間がいれば、自分の装備が猫かぶり用のまがい物ではなく、フル装備であれば可能性はまだあるのに・・・。
後悔しかない。まだ20歳にもなっていない。たくさんやりたいことがあるのに。甘い物も食べたいし、異性とデートしたこともない。若いときの母のように何にも縛られず世界を旅したいのに・・・。
人は絶望を感じると知らないうちに泣きわめき、嗚咽がでているようだ・・・。きっと人様に見せられる顔じゃないだろう、ぐしゃぐしゃで不細工になっているんだろう・・・。
誰でもいい・・・、助けて欲しい・・・。
そう思った瞬間、体に鈍い感触と痛みが伝わる。
口の中に鉄の味がしたかと思ったら、全身の痛みと息ができず吐血する。
特殊個体の何かが体を突き刺したのだ・・・。左肺も何かが突き刺さっている・・・
出血のせいなのか目が徐々に霞む・・・母に会いたかったな。
「ギギギュウイ」
何を言っているかわからないが、きっと今日はご馳走だぞと・・・こんな感じか。
死ぬとはこんなにあっという間に来るのか、もっと楽しいことをたくさんしたかった・・・
意識が朦朧としている中、何かが耳元でささやいてくる。
「助けて欲しい?私のスノウの邪魔をしないなら助けてあげる」
幻聴?誰かが何かを言っている気がする・・・。スノウ?助けてあげる?呼吸もできず、声も出せない・・・。
「た・・・け・・・て」
声にならない声は伝わっただろうか?
「スノウ不味いことが起きてる、チェンジするよ」
何かが耳元でささやいたが、そこで目の前が暗くなり私の意識は途絶えた・・・
小説を投稿する前にテレビを見ていましたが、本日10/22旭川の平野部で雪が積もったようです。
どおりで朝が寒かった。全然話は違いますが、しらたまパフェという名前でスプラ3とういうゲームをやっています。見かけた人は一緒に遊んでくださいね。また2週間後に投稿します。