第十一話
アナザーサイド:魔女のリーダー(1)
36層で仲間の帰還のために脱出スクロールを使用した後、ふらつきはしたものの何とか意識は保つことができた。戦闘中もそうだが魔力切れは意識を消失することもあるため、貧血程度のふらつきで本当に良かった。
今回の討伐クエストはおばば(魔女の現代表)と言い争いをしたことが発端で、むしゃくしゃしてクエストを受注。私のわがままで仲間を巻き込んでしまった。討伐はできたが自分の代わりに仲間が呪いを受けるという凡ミスまで犯してしまった。帰ったらきっとまたネチネチとしつこく怒られるだろうが、いまはそんなことよりもこの状況が非常にまずい。
食料もなく、ポーション、マナポーション、状態回復薬もない。あるのは自分の身と装備品のみで正直詰んでいる。ダンジョン内をたった独りで遭難しているからだ。浅層のダンジョンなら帰還もしやすいが、ここは36層・・・25層のセーフティゾーンまで必ず戦闘が起こる。単独での突破ができるほどダンジョンは甘くはない。
岩窟エリアのストーンアントは戦闘が始まると虫特有の警戒の鳴き声で、仲間をすぐに呼び寄せてしまう。35層のクイーンアントも繁殖期が重なっているため、まともに戦うのはリスクが高い。だからこそ行きはパーティ全体に隠蔽魔法をかけてすり抜けて突破していた。充分な用意をしてからダンジョン攻略すれば仲間たちと問題なく帰還することができたはず。後悔しても仕方ない。
いま現状でとれる策は3つ。1つめはこの場で救助を待つ。時間はかかるだろうが生きていれば仲間が救助に来てくれる可能性はある。2つめは他のパーティが通りがかるのを待って一緒に帰還をお願いする(脱出するまでの警護依頼をする)。3つめは単独で35層を突破する。
現実的には1つめがベストなんだけど・・・食料が全くない。2つめはパーティがいつ通るかの保証がなく、ずっとこの場所に居たとしても食料がなくいつか魔物に感づかれる。
残る選択肢は3つめになる。隠蔽魔法が使用できるくらいに魔力回復できれば、行きと同じくすり抜けることができるかもしれない。
最初からフル装備で来れば良かったと後悔しても遅いのだが、今回のクエストは私本来の装備品ではない。猫かぶり用の魔法使い装備で来てしまっている。魔女は魔法使い、後衛職のイメージが強いと思う。間違いではない。大半の魔女は魔法使いなのだから。薬草を作り、呪術や攻撃魔法、治癒魔法を使用し、一部の魔女は錬金術が使える。
ただ私は違う。皆が想像する一般的な魔女のカテゴリーからかけ離れている。本来の私は魔女スキルも使える魔槍士なのだ。
漆黒の森の初代代表は魔法使いの魔女ではなく魔剣士の女性であった。夫が錬金術・治癒士のスキルを持っており、戦いに明け暮れた生活から離れて静かに暮らしたいと願い移り住んだことが漆黒の森の魔女の始まりと直系の一族には伝えられている。
直系の一族の中でも初代に一番近いのが母親。その娘の私は直系一族の全てを受け継いでいる。次期代表候補の筆頭と言われても、自分の道は自分で決めたい。そのせいでおばばと毎回言い争いになる。
ダンジョンから無事に出られたら、甘い物をたくさん食べよう。体重なんて関係ない。動けばいいのだから。母親はよく言っていた・・・女は度胸だ。単独で35層をすり抜けよう。意を決して35層のエリアに入っていく。
暦上は10月で秋ですが、北海度は非常に寒くなりました。
朝方は10℃切ってます。布団から出たくないと思っても仕事に行かないといけません。
体調管理には気をつけてください。