第113話 前菜とメイン
メイド長マーサは、貴族街から一般区画へと歩いていた。
そこに一人のメイドが現われる。
「マーサ様、こちらを」
メイドは一枚のメモを差し出す。
それを受け取ったマーサは、すぐに指示を出した。
「前菜は三人で片付けるように。メインは私が担当します。あと持ち帰りがあるかもしれません。準備を忘れずに」
指示を受けたメイドは会釈をしてその場を去る。
傍から聞けば、料理の仕込みや段取りの話に聞こえるかもしれない。
実際は違う。
前菜とは、スラム街の住宅にいる暗殺者ギルドのメンバーのことだ。彼らの始末は三人のメイドに任せ、首領はマーサ自身が片付ける。
持ち帰りとは、貴重品や金目の物を回収することだ。
「少し倉庫街まで距離がありますね」
マーサは倉庫街へ向かって歩き出した。
「思ったより人がいませんね。マーサ様の方が多かったのかしら?」
メイドリーダーは、二人のメイドを率いて、暗殺者ギルドのメンバーがたむろするスラム街の住宅を襲撃していた。
メイド長から受けた指令は、この住宅にいる害虫を全て駆除し、後片付けまで綺麗に済ませることだった。
暗殺者ギルドの質が落ちているのか、それとも、この拠点の連中が弱すぎるのか。
この程度なら、メイド一人でも十分だったかもしれない。
屋根裏や地下、隠し部屋がないか、くまなく確認する。
地下の食料庫、食器棚の裏に隠し部屋が存在していた。
盗品も含まれているのだろうが、貴金属や装飾品、魔石などが思った以上にため込まれていた。
「マーサ様に良い報告が出来そうですね」
メイドたちは与えられた仕事を忠実に実行していった。
その頃、マーサは一般区画から離れた倉庫街に来ていた。
メモに記された住所は、倉庫街にある首領の拠点だった。
「間違いなくここですね」
倉庫の出入り口には見張りが立っている。
他に出入り口があるか、倉庫の周りを確認する。
逃走用の出入り口が数カ所あると思っていたが、この倉庫には正面以外に出入り口はなかった。
「では参りましょう」
出入り口に立つ見張りは、正面から歩いてくるマーサに気づいていなかった。
マーサが出入り口にたどり着いたとき、見張りの首はすでに胴体から離れていた。
倉庫に入ってから、わずか数分。
首領を含む暗殺者ギルドのメンバーは、誰一人として生き残っていなかった。
「暗殺者ギルドも、ずいぶん腕が落ちたようですね……人間の命は儚いものです」
倉庫の中で息をしているのは、マーサだけだった。
「マーサ様、お迎えに上がりました」
メイドの一人が倉庫の中に入ってくる。
「では後片付けを頼みます。スノウ様がそろそろ戻られるかもしれないので、先に帰ります」
倉庫の後片付けを指示し、マーサは貴族街に戻っていく。
この日、暗殺者ギルドの一つが雷龍国から消え去った。
113話です。
怖いメイドたちのお話です。今後も楽しい話がどんどん出てきます。
今後もよろしくお願いします。




