地下の街
ジェニファーとロックに見守られ、少し眠ったシトラス。疲れがまだ万全に取れた訳じゃないが、普通に動くには問題ないだろう。ま、若いんだし。
今まで気がつかなかったが、同じ医務室に、彼らが二回戦で倒してしまったオレンジチームがいた。シトラス達は謝る。が、オレンジチームの人達は笑って、
「謝る必要はないよ。実力が無かったのは俺達の方だし」
「そうそう。それにあたし達も、あの勇者と戦えて勉強になったから」
「だからキミ達は、先に進みなさい。自信を持って」
と、逆にシトラス達を励ましてくれた。
シトラス達は礼を言うと、医務室を出て行った。
チャンピオンズバトルが終わっても、観客は残っていた。盛り上がり、誰かを待っているようだ。そっとシトラス達は、控え室のレイニーの部屋に向かう。すると、ドアもドアノブも金色じゃない。普通の、他の選手の部屋と変わらない色になっていた。どうやら、ペンキで塗られていた訳ではなさそうだ。シールか何かだったのか。
ガチャン。
ドアを開けると、整理整頓された部屋の中に、タンクトップ姿のレイニーさんがいた。荷物もまとめてある。
「おう! 来たな、オメエら」
「レイニーさん、この部屋は……」
「ああ。俺様はチャンピオンじゃなくなったからな、出て行く前に綺麗にしたんだよ。ドアの事か? あれは俺様がずっとトップにいたから、闘技場の奴らが記念して金色にしただけだ。でももういい。今は、オメエらがチャンピオンだ」
「レイニーさん……」
「さて、そろそろ行くか。オメエらも準備はいいな?」
「はい! リカの街の場所を教えてくれるんですよね」
「その前にもう一度な、舞台に行くんだ。みんなが待ってる」
「えっ!?」
「いいから来い」
レイニーに連れられ、シトラス達は舞台に姿を現した。観客席から歓声が起きる。闘技場のスタッフが叫んだ。
「皆さん、新たなチャンピオンをお出迎え下さい! 勇者シトラス・ハント。弓使いロック・アーネスト。魔法使いジェニファー・マーチン。彼らの挑戦は、伝説となるでしょう!」
「お〜〜〜〜〜っ!」
「もう一度、チャンピオンに大きな拍手を!」
拍手と歓声がこだまする中、レイニーとシトラスは握手を交わした。
前チャンピオンから、現チャンピオンへ。
思いが受け継がれる瞬間だ。
この感動を、シトラス達はずっと忘れないだろう。
観客に向かって手を振った。
舞台を降りる。
レイニーが笑った。
「じゃ、行くか。オメエらの目的地へ」
「はい!」
観客も、ポツポツ帰って行った。
そうか、俺達を待っていたんだ。
チャンピオンになるという事は、こういう事か。
偉大な壁だったんだな。レイニーさんって。
「何だ、シトラス。俺様の顔を見て?」
「あ……。いえ別に」
闘技場の入り口まで歩いて来て、止められた。
レイニーは察する。
「あっ。俺様は世代交代だなんて思ってねえ。オメエらがいない間、すぐにチャンピオンの座を取り戻す」
「ファンの為に、ですか?」
「そうだ。まあ、闘技場の事は任せとけ。盛り上げててやるよ」
「はい!」
「じゃあ行くぞ。リカの街へ」
外は晴れていた。
闘技場から出て、ちょっと歩いた所にある林。
その林近くの砂場に、シトラス達の船が停めてあった。
「もしかして、船に乗ります? あれ、あたし達の船です」
「いやジェニファー。船には乗らねえよ。ま、見てな」
何故か幹にロープが巻かれている木があった。
その根元、土が盛り上がっている。
パカッ。
土に似せた蓋が開いた。
地下に縄ばしごが降りてる。
「気をつけて降りな。滑らないように」
賑やかな話し声。
料理と酒の匂い。
土と岩を利用した建物。
地下だと思えないような明るさ。
「ここが……」
「そう。ここがオメエらの来たがっていたリカの街だ」
島のほぼ全域の大きさ。
闘技場の地下に隠された、地図に載らない街。
住民はというと、怖そうでいかつい人達。
そう言えば、レイニーさんが、ここはごろつきの街だと言っていたっけ。
テラスで酒を飲んでいた人達が話しかける。
「おおっ、レイニーじゃねぇか。どうした? お帰りかチャンピオン」
「それに子供なんぞ連れて。おい娘。ちょいと俺らと一杯やらねぇか? 楽しい事教えてやるぜ」
ジェニファーは明らかに不快な顔をしている。
シトラス、ロックはサッと彼女を隠した。
レイニーが庇う。
「おお、帰って来たぜ。それにな、こいつらはただの子供じゃねぇ。たった今、闘技場で俺様を倒した、新たなチャンピオンなんだよ」
「そうなのか? そうは見えねぇがな。ま、オメエがそう言うなら……」
「そうだ。俺様はこいつらが気に入った。何かしようってんなら……」
「そう睨むなよ。何もしねえ。悪かったな、お嬢さん」
レイニーの迫力にビビった人達は、席でまた静かに酒をチビり始めた。
レイニーは豪快に笑う。
「まあ、気にすんなジェニファー。この街の奴らは見た目はあれだが、話せば分かる連中だ。そう怯える事はねぇよ」
「そうなんですか。でも、あたし……」
「ちょいっと大人の世界を覗き見ただけだ。何かあったら、俺様が守ってやるよ。この街は、俺様が育った街だからな」
「えっ、レイニーさん、ここが出身なんですか?」
「ああそうだ。昔は闘技場にもここの奴らがいっぱい出てた。今は、世界中に噂が広まって、色々な選手が来る。俺様達は、隅っこだ」
「そんな……。関係無いじゃないですか」
「まあ、荒くれ者だしな。けど、気遣ってくれてありがとよ」
レイニーは明るく笑っているが、どこか哀しみがにじみ出ている。シトラス達は、言葉が見つからなかった。
「おう、ここだ」
街の中で比較的大きな建物。
ダンスホールの看板がある。
「ここに、オメエらが探しているティナっていう踊り子がいるよ。その前に、一曲聞いて行きな。その後で、俺様が話をつけてやるぜ」
ホールの赤い椅子に座る。
クッションが柔らかく、座り心地がいい。
目の前の広いステージ。
スポットライトの光に照らされ、踊り子達が登場した。




