踊り子ティナ
それはシトラス達が今まで見た事がない踊りだった。
踊り子達はみんなへそ出しで、ビキニみたいな上下。そのパンツの所に紐が巻かれ、そこから飾りのついた細い糸が何本もぶら下がっていた。それが踊る度にゆらゆら揺れる。
膝下までリボンが伸びたサンダル。
手首には、シルバーのブレスレットをしていた。
誘うように、腰をくねくねと振る。
優雅で、色っぽくて、情熱的で、それでいて気品があって、シトラス達はすっかり虜になった。
レイニーに、どの人がティナさんかと尋ねるのを忘れていたほど。
最後のラインダンスも見事だった。
ぴったりと息が揃って。
よくあんな同じ高さに脚が上げられるな、と感心した。
公演後も余韻が醒めない。
はうっ、とジェニファーがため息混じりの声を出した。
「ジェニファーよ。どうした?」
「レイニーさん。あたしまだ胸が興奮してドキドキしてます。同じ女性なのに、キラキラしてて。どう言ったらいいんだろう。衝撃的でした」
「そうだろう。シトラスとロック、途中で目を逸らしてたな。まともに見れなかったか?」
「え、ええ……」
レイニーに話を振られ、男の子達はしどろもどろになる。
「腰のくねくねした動きとか、指の振りとか、その……、なんて言うか、セクシーで……」
「オレも、その……、ウズウズして……」
「ほ〜う」
レイニーがニタニタした顔になった。
「オメエらもやっぱ男だな。どうだ? 裸でも想像したか?」
「ブッ!!」
鼻血が勢いよく噴き出す。
ジェニファーが慌ててティッシュを取り出した。
「ちょっと、シトラス、ロック!」
「心配するなジェニファー。これが大人になるって事だ」
「もう、レイニーさん、何を言っているんですか?」
「はっはっは。経験積めよ」
「もう!」
二人は鼻にティッシュを詰め込まれた。
止まるまで待つしかない。
レイニーさんは笑っているし、ジェニファーは困り顔。
(参ったな、もう)
大人の世界って、怖い……。
しばらくして鼻血は落ちついた。
踊り子達が着替え終わって控え室にいる頃だと言うので、レイニーについてそこに向かった。
女性の部屋って、入りづらいな。けど、レイニーはお構い無く、ガチャッとドアを開けた。
女性達が振り向く。
「あら、レイニーさんじゃない」
「お久〜。アタシに会いに来たの?」
「あらあ、あたしよ〜」
たちまち囲まれた。
レイニーさんって、踊り子達の間でも人気があるんだ。
「おう、相変わらず粒揃いで。でもまあ生憎だが、今日はオメエらじゃねぇ。ティナに用があるんだ」
「え〜、ティナなら外だけど。寂しいな〜。レイニーさん、遊んでってよ〜」
「遊んでやりてえのは山々だが、そうもいかねえな。それによ、ティナに用なのはこいつらだ」
レイニーは自分の後ろに隠れていたシトラス達を紹介した。
「わぁ可愛い坊や達。ねぇ、さっきアタシ達の踊りを見てたでしょ? どうだった?」
「ええ、まあ……。とっても綺麗でした」
「フフッ。嬉しいな。で、この可愛い子達がティナに何の用よ」
「実はな。こいつら、勇者なんだよ。世界中を旅して、ティナを訪ねて来たんだそうだ」
「え〜〜! じゃあ、強いのかな?」
「おう強いぞ。俺様を闘技場で負かしたからな」
「え〜、凄〜い」
「という訳だ。俺様はこいつらをティナに会わせるって約束した。オメエらとは後だ。またな!」
「うん! またね」
控え室にいた踊り子達に教えられた通り、外に出た。
このダンスホールには裏口がある。
その裏口は、庭に繋がっていた。
踊り子達がリラックスする為に、造られた庭だ。その庭に置かれた石の上に、人が座っていた。
長くてウェーブがかかったブロンドの髪。
Tシャツの上からでも分かる、形の良い大きな胸。
キュッとくびれのある腰。ズボンの下の長い美脚。
気が強そうだが、美人だ。
「おい、ティナ」
レイニーに呼ばれ、その人物が立って振り向いた。
「あ、レイニーさん」
「一人か? ちょうどいい。オメエに会わせたい奴らがいるんだ」
「誰? アタシに? まさか……」
ティナは自分に会いに来る人がいるなど、信じられないという顔をした。
レイニーが続ける。
「確かにな。こんな人に知られていない街に来る奴なんて珍しい。が、来たんだよ。間違いなくオメエに。勇者がよ」
「えっ!?」
ティナの顔つきが変わる。
驚愕したという目だ。
シトラス、ロック、ジェニファーがひょこんと出て来る。
「初めまして。俺、シトラス・ハントと言います。姉さんに言われて、あなたに会いに、ここに来ました」
「ロック・アーネストです。いや〜、こんな美人さんに会えて、オレ、目がハートです!」
「ジェニファー・マーチンです。よろしくお願いします」
「シトラスにロックにジェニファー。サララの手紙に書いてあった名前ね。で、サララはどこ? 元気なの?」
「それが、姉さんは……」
シトラスはティナにサララの身に起きた事を話す。ティナは、ショックを受けた。
「そんな……、サララが、死んだ……」
「姉さんは俺達に、あなたに会いに行くように言い遺して、旅立って行きました。俺達は、あなたと姉さんの関係を知りません。けど、姉さんが言うのなら、きっと、あなたを仲間にしろと言う事じゃないかと……」
「それで、アタシに会いに来たと? 甘えんじゃないよ! アタシは……、サララの代わりじゃないよ!」
ティナは涙を浮かべた瞳で、シトラス達を睨んだ。
「おいティナ、そんな言い方って……!」
「レイニーさんは黙ってて。確かに、アタシは勇者を待ってた。けど、こんなんじゃ、仲間になれない」
ティナはシトラス達の側を通りすぎ、ホールの中に戻る。呆然とするシトラス達。その時、ティナとすれ違いに、ある踊り子が庭に走って来る。
彼女はある事実を、シトラス達に話して聞かせた。
ティナはもともと、この街の出身じゃない。船でさ迷っていた所を、この島にたどり着いたのだ。踊り子の彼女とは、こうして知り会った。ティナは、魔王に滅ぼされた村から逃げて来たという。そう、シトラスの、勇者の生まれ故郷の人間なのだ。
「ティナはいつも言っていた。いつか、アルズベルト村に引き取られた勇者が、親友サララと一緒に来るんだって。その時こそ、一緒に戦うんだって。ずっと、ずっと待っていたんだよ」
シトラスは絶句した。
まさか、そんな過去があったなんて。
自分の生まれた村の事を、知っている人物に会えるなんて。
「ティナはね、踊り子の修行と同時に、召喚術の修行もしていたんだ。いつか勇者が来た時に、仲間として、迷惑かけたくないからって。嬉しそうに、あたしに話してくれたよ。だからお願い! ティナを連れて行って。ティナはこんな所にいるべきじゃない。ティナはきっと、あんた達と旅がしたいんだ!」
ジェニファーがシトラスを見る。
シトラスは答えが出ていた。
「分かりました。もう一度、ティナさんと話をしてみます」
シトラスはホールの中へ。
ジェニファー、ロックもついて行く。
レイニーも一応様子を見に。
残された踊り子は、
(お願い! ティナを連れて行って。この街は、本当は怖い街だから……)
と、両手を胸に当てて祈った。
怖い街って、一体?




