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襲撃、そして

 あれからシトラス達は、おじさんの家で一晩を過ごし、疲れた体をリラックスさせてもらった。ロックもすっかり体調は良くなり、氷の中に閉じ込められていたとは思えないような元気ぶりを発揮していた。

 シトラスとロックが元気だと、ジェニファーとサララも嬉しくなる。まだ10代の少年少女。おじさんも目を細めて彼らを見つめていた。

 うるさかったかな、とシトラスがおじさんに尋ねる。


「いやいや、そんな事ないよ。この家にはわたし一人だし、君達には世話になったから、好きなだけはしゃいでいいよ。それに、外の活気が聞こえるかい? この村がこんなに賑やかなのは、久しぶりだよ」


 シトラス達は窓を開けて外を眺めた。

 日差しが当たった雪が、キラキラ輝いている。

 その上で、子供達がキャッキャ、キャッキャと雪合戦。

 犬も駆け回る。

 大人達も外に出て、子供らを見守っていた。

 みんな笑顔だ。


「ありがとう。全て君達のおかげだよ。あの花を持って来てもらえたから、村の病気が治ったんだ」

「そう言えば、リトルフラワーはどうなったんですか?」

「うん。あの花の虹色の光が、病気を治すと言われてる。その光を放つ花びらに触れたおかげで、みんな元気になったよ。ただ、その後で花は枯れてしまったけどね。まるで、みんなの病気を代わりに受けてくれたみたいに」

「みんなの病気を、代わりに受けて……。何だか、切なくなります」

「そうだね。けれど、リトルフラワーはまたあの場所で命を咲かせるよ。あの山にしか咲かなくて、ほとんど誰も見た事が無いから、幻の花なんだ。わたし達も、初めて目にしたよ」

「ホント、綺麗でしたよね」

「その美しさも含めて、幻なんだろうね」


 おじさんは、感慨深げだった。

 良かった。

 人の役に立って、喜んでもらえる事が嬉しい。

 おじさんは不意に聞いた。


「ところで、君達はこれからどうするんだい?」


 サララが答える。


「そうですね。わたし達はビグアック大陸から来たんです。この国の港から、他の国へは行けますか?」

「グリンズム王国への航路ならあるよ」

「でしたら、その王国へ向かいます」

「それにしても大したものだ。その歳で世界中を旅しているなんて」

「そうですか? 面白いですよ。知らない世界を知る事ができるのは」

「やっぱり凄いよ、君達は」


 サララ達はおじさんと楽しい会話をした後、外に出た。おじさんも、子供が四人もできたみたいだと喜んでくれた。別れるのは名残惜しいけど、そろそろ行かなくちゃ。

 最後におじさんは、ジェニファーにある本を渡した。

 表紙に魔法陣が描かれている。


「これは、魔法書!」

「そう。魔法使いの君なら、使いこなせるだろう。せめてものお礼にね」

「ありがとうございます! これで、新たな魔法を覚えられます」

「喜んでもらえて何よりだよ。それじゃあ、これからの旅、気をつけてね」

「はい!」


 ジェニファーはとびきり嬉しそうな笑顔で、大事にその魔法書を荷物の中に入れた。

 そして、おじさんとお別れ。

 ノースエガリアの港に向かう。


「フフフフフーン」


 ジェニファーが鼻歌を口ずさむ。

 シトラスが言った。


「ご機嫌だな、ジェニファー」

「うん! だって、魔法書をもらうなんて思っていなかったから。村を出てきちゃったし、新しい魔法を覚える方法無かったから」


 シトラスは黙る。

 その顔を見たジェニファーはしまったと思った。


「あ、シトラス違うの。村を出た事は後悔してないから。ただね……」


 シトラスはそっと、ジェニファーの手を握った。

 ビクッとして驚くジェニファー。


「分かってるよ。ありがとなジェニファー。これからも一緒に来てくれないか?」

「うん!」


 その二人の様子を後ろで見ていたサララとロックは、クスクス笑った。


「何か、いいムードじゃない? あの子達」

「そうですね。このまま行ってくれれば、いいんですけどね」


 その時、どことなくヤバい気配を感じた。

 何かが近づいて来る足音。

 ゾクッと、悪寒が走る。

 バァン。

 衝撃とともに、見えない力に飛ばされた。

 雪の大地に埋もれる。


「うう……」


 顔を上げると、その敵は、そこに立っていた。

 鎧を着こんだ、がっしりとした、龍の魔物。

 左手に、斧を持っている。


「誰だ!?」


 シトラスは立ち上がり、魔物を睨む。

 ジェニファー、サララ、ロックもそれぞれの武器を持った。


「ほう。流石は勇者。我が波動に耐えたか。(われ)の名はドラモス。魔王ダイロス様の命により、貴様らに魔族の力を教えに来た」

「魔族の力だと!?」

「そうだ。勇者シトラスよ。貴様の力ではまだ我ら魔族には勝てまい。我がそれを示してやろう」


 ドラモスが斧を一振りする。

 雪が舞う。

 当たってもいないのに、よろけてしりもちをつく。


「くっ……!」


 ストーンモンスターとは違う。

 (まと)っている気からも、桁外れの実力を感じる。

 これが魔族の力なのか。

 蛇に睨まれた蛙のように動けないシトラス達に、ドラモスは言い放った。


「分かったか。これが魔族の力だ。貴様らは、大人しく退くがいい。そして二度と、魔王様に楯突くな」

「ふざけるな!!」


 シトラスは剣を構える。

 体は恐怖で震えている。が、退くわけにはいかない。


「ほう、やる気か」

「俺は勇者だ。この世界の為に、魔王を封じる使命を持つ。その俺が、逃げるわけに行くか!」

「ならば、死ね」

「待ってシトラスちゃん! 待つのよ!」


 そこに飛び込んで来たのはジョセフィーヌだった。

 シトラスとドラモスの間に立つ。

 急いで来たのか、肩でハアハア息をしていた。


「ジョセフィーヌ、どうしてここに?」

「強い闇の力を感じて、飛んで来たのよ。シトラスちゃん、この方とは戦っちゃ駄目。今のあなた達では勝てないわ。悔しいけど、逃げるのよ!」


 そのジョセフィーヌの様子に、シトラスは一瞬躊躇したが、剣をしまわない。

 ジェニファーは怯えている。

 ジョセフィーヌは、シトラスの肩をガッと掴んだ。


「言う事を聞きなさい! シトラスちゃん。今は逃げても、また強くなったら……」

「そこまでだ。裏切り者」


 ドラモスの斧が、ジョセフィーヌを狙う。

 ジョセフィーヌはシトラスを押した。


 ズバッ!


「ジョセフィーヌっ!」


 彼女は前のめりに倒れた。

 背中が大きく裂けている。


「よくも!」


 シトラス達が前に出て来た。

 が、そんな状態でも、ジョセフィーヌは叫ぶ。


「駄目よ。逃げて、逃げるのよ! アタシは大丈夫だから。お願い、シトラスちゃん、みんな!」

「動かないで、ジョセフィーヌ」


 ジェニファーがキュアリーをかけた。しかし、傷がひどすぎて、完全には治せない。


「ゴメンね……。あたしにもっと魔力があれば……」

「平気よジェニファー。それより、みんなと逃げて」

「遅いぞ」


 ドラモスが斧で地面を割る。

 その波動が、サララに直撃した。


「姉さん!」


 雪の上に横たわる。

 シャツが破け、右肩が丸見えになっていた。

 さらにヘソまで。


「そうか、この女がサララか。勇者を育てた娘」


 目を閉じたままのサララの真上で、斧を振り上げる。


「何する気なのっ!」


 ジェニファーの叫びも虚しく、斧は振り下ろされた。









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