サララ
「飛天狩射!」
サララを狙って斧を振り下ろしたドラモスの後ろから、ロックが矢を放った。それはドラモスの背中に刺さり、ドラモスが手を止め振り向く。
まさに、斧がサララに当たる直前だった。
「貴様……!」
背中の矢を引き抜いたドラモスの眼光が、ロックを貫く。が、ロックは怯む事なく、弓矢を構えたまま。近くには、シトラスもいる。
「邪魔してくれるな、小僧ども!」
ドラモスが斧を回転させてシトラスとロックを襲う。小型の、旋風が起こった。
「うわあああっ!」
咄嗟にガードしたものの、風に巻き込まれる。
少し服が切れた。
血もにじんでいる。
倒れた姿勢のまま、動けない。
「どうした貴様ら。我はまだ半分の力も出していないぞ」
「うう……」
半分以下の力でこれか。
本気を出したら、どうなるんだろう。
震えが、強くなって来た。
「震えているか。相手の実力を感じるという事は、貴様らもそれなりに強いという事。だが、まだ我には勝てん。ましてや、魔王様には」
斧をシトラス達に向ける。
逃げなきゃ、と心で思ったが、体が動かない。
「魔王様は、力を見せつけてやれとおっしゃったが、今ここで潰しておくか」
「待って!」
ドラモスの背中で声がする。
サララだ。
彼女は強い決意を秘めた目で立っていた。
「シトラスに剣を教え育てたのは、あなたの言う通りわたしよ。殺るなら、わたしを殺りなさい!」
「姉さん、無茶だ!」
「そうですよサララさん。止めて下さい!」
シトラスとロックの悲痛な叫びに、サララは笑って答える。ただ、その笑顔はどこか寂しげでもあった。
「シトラス、ロック、ジェニファー。あなた達と旅ができて本当に楽しかった。そしてジョセフィーヌ。あなたもありがとね」
「サララ……」
ジョセフィーヌはこの時、サララの思いを感じ取った。
悲しい、決意を。
ジェニファーが、魔法を唱え始める。
だが、ドラモスの方が早かった。
「遅いぞ娘! この女は、貴様らの為に死のうとしているのだ!」
「キャッ!」
波動をぶつけられる。
杖を落とし、倒れた。
「ジェニファー!」
シトラスが、体を引きずってでも動こうとする。
ロックも、サララを救おうと、力を入れた。
ドラモスが狙う。
「動くな小僧ども!」
その瞬間、サララが仕掛けた。
流れるような、キレのある剣技。
シトラスに、ジェニファーに、ロックに背中を見せるように、渾身の力を込めて放つ。
「桜花演舞!」
「ムッ」
ドラモスも斧を振る。
桜が、散った。
サララは、空中に飛ばされ、地上に落ちた。
赤い鮮血が、白い雪を染める。
「姉さんっ!」
「サララさん!」
「いやああああっ!」
体が、ようやく動いた。
シトラスとロックが走る。
ジェニファー、ジョセフィーヌもヨロヨロだが、何とか歩いて来た。
「我ら魔族の力、分かったか。貴様らには大事な者を守る強さが、備わって無かったのだ」
「ドラモス!」
「何だ、やるのか?」
「くっ……」
「フッ。これに懲りたら、逆らうのは止める事だ」
ドラモスはそのまま去った。
ロックの腕の中、サララが目を開く。
「サララさん!」
「ロック、あのね、わたし……」
「何も言わないで下さい! 今……」
「ううん、聞いて」
ロックがジェニファーに回復を頼もうとしたところ、サララは強くロックの服を掴んで止めた。
「シトラス、前を向いて。あなたはあなたのままで行きなさい。ジェニファー、シトラスをよろしくね。そしてロック。ゴメンね、もっと早く言えば良かった」
「サララさん……」
「わたし、あなたが、好きだった」
「オレもです。ずっと、あなたを思っていました」
「ありがと……」
サララはグッと顔を起こし、ロックの唇にキスをした。しかし、そこで手が滑り落ちる。
「駄目です! サララさん、逝かないで下さい!」
「姉さん!」
「シトラス……。泣いちゃ駄目。わたしが死んだら、ティナという女性を……、訪ねなさい。リカの街と言う場所で、踊り子を……しているはずだから……」
「姉さん……。姉さんっ……!?」
サララが反応をしなくなる。
口は半開きだが、瞳は閉じられたまま。
ジョセフィーヌがそっと、彼女の口を閉めてあげた。
「サララ……。あなた、立派だったわよ」
ジェニファーが、号泣する。
シトラス、ロックも泣き叫んだ。
「姉さん、姉さんっ。ああああああっ!」
「サララさあああああん!」
ジョセフィーヌは、何も言わずただ三人を見守っていた。
心が、落ち着くまで。
それからしばらくたった頃。
クリスタルでシトラス達は、神父さまと話していた。
話さずにはいられなかった。
神父さまは、一瞬沈黙した。
だがようやく話した言葉に、シトラス達の方が驚いた。
サララは、病を抱えていた。
命も、長くなかった。
しかし、シトラスを成長させる為、あえて言わなかった。
ロックとジェニファーにも、黙っていた。
心配させたくなかったから。
強くて、優しくて、でも儚い人生だった。
「シトラス、ロック、ジェニファー。お主達も辛いじゃろう。しかしの、サララは、生き方を示したのじゃ。背中を見せる事で、真っ直ぐ進んで行くようにと。シトラス、お主は勇者じゃ。わしの言う事が分かるの?」
「……はい」
「いい子じゃ。じゃが、ショックだったな。また連絡をおくれ。今は、ゆっくりお休み」
通信は切れた。
神父さまも、ショックだったのだろう。
声に元気がなかった。
ロックは、サララが遺した剣を握る。
ギュッと力を入れて。
彼女の遺体は、火で燃やした為、骨だけになっていた。
魔物に殺られた者は、預り所に頼めば、その遺骨と思い出の品とともに、所定の場所に送ってもらう事ができる。サララの魂は、アルズベルトの神父さまによって、手厚く供養されるだろう。こんな形で故郷に帰る事になるとは、皮肉だが。
「シトラス……」
ロックが、親友に港に行こうと促す。
彼はサララの遺志を継ぎ、シトラスを守り、魔王を倒すと決めたのだ。それが、愛した人の望みだと知っているから。
「ロック、俺、行けないよ。こんな気持ちで。姉さんを失って。勇者じゃなければ良かったのに……」
「シトラスっ!」
ロックがシトラスの首根っこを掴み、立たせた。
拳で顔面を殴る。
「ふざけた事言うな! そんな事、サララさんが望むと思っているのか? 辛くて悲しくてぐちゃぐちゃなのは、お前だけじゃないんだよ! だけどな、オレもジェニファーも、前に進もうとしてるんだ。進まなきゃ、守れないから。サララさんとの約束も、お前も!」
「ロック……!」
「シトラス。立てよ。そして行こうぜ。サララさんの代わりに、この世界を見るんだ! お前は一人じゃない。オレもジェニファーも、側にいるから」
シトラスは、服の中からある物を取り出す。
ユノ村の少女、アミーちゃんからもらった花の形のブローチだ。
幼い彼女の笑顔が、頭の中に浮かぶ。
そうだ。俺は、止まってはいられない。
勇者として、守るべき物があるから。
「ロック、ジェニファー、分かったよ。先に進もう! そして、魔王を倒すんだ!」
「ああ!」
ロックとジェニファーは、頷いた。
(姉さん。俺達行くよ。だから、見守っていて)
シトラス、ロック、ジェニファーは、新たな地へと歩き出した。




