第9話 家にいる限りは
「凄いわ!!! 本当に凄いわ!!!! スラン!!!!!!」
「ありがとう、お母さん」
闘気を会得した……一星となったという報告を聞いたアンナは娘を高々と掲げて満面の笑みを浮かべながらぐるぐると回り続ける。
(……そうなんじゃないかって思ってたけど、お母さんも強い…………というか、だいぶ強い、よね?)
一星という、戦う者としてのスタートラインに到達したからこそ、見えてくるというものがある。
まだ正確に把握するには至らないが、それでも一星となったスランから視て……比喩ではなく、本当の意味で世界が変わった。
「これはあの人にも報告しなくちゃね!!!!」
「……お父さんに?」
「そうよ!! 私も用意するけど、あの人も凄い褒美を用意してくれるはずよ!!!!!」
「…………た、楽しみ、だね」
「でしょ!!!!!」
ぎこちない笑みに対し、変わらず満面の笑みで返すアンナ。
今の雷華は五歳で一星になり、闘気を会得することがどれほど凄いことなのかという知識はあった。
褒美のプレゼントをもらう、ということ自体は普通に嬉しい。
ただ……以前貰ったプレゼントの質を考えると、今回も今の自分には実力不相応な品を渡してくるのではないか、という不安がある。
(限界はあるだろうけど…………それでも、少しでも強くなっておこう)
因みに、今回の件でアンナが用意したのは数着のドレスとマジックアイテムと呼ばれる特殊な効果が付与されたアクセサリーであった。
アンナとしては、もっとたくさんの洋服を娘に着せたい。
しかし、以前熱が入り過ぎて着せ替え人形にしてしまった結果……普段からスランはあまり表情が豊かではないが、完全な無表情になってしまった。
その時の反省を踏まえ、これから戦闘で使えるであろうマジックアイテムをプレゼントに選んだ。
「アクセサリーに、特殊な効果が付与されてる………………面白い」
その変化を実際に体感し、小さくだが顔に笑みが浮かぶ。
(確か……こういうのを造る技術って、錬金術って言うんだっけ……面白そう)
戦闘以外に関する興味が生まれたスラン。
だが……今はそれよりも先にすることがあった。
「理想は、常に纏う量を一定に……そして、メインで使いたいタイミングでその箇所に纏う量を増やすことです」
「っ、はい」
体を動かすというイメージに関しては、動けない赤ん坊の頃から鍛錬に励む騎士や騎士候補たちをみていた。
加えて、前世では自分の体をこれでもかと動かしていたこともあり、武器を振るう動作に関しては既に仕上がっていた。
しかし……闘気というエネルギーに関しては前世になく、初めて扱う力であるため、斬撃のように最初から上手く扱うことは出来なかった。
(面白い……面白い! 本当に、面白い!!!!!)
だが、それは雷華にとって新しいおもちゃでしかなかった。
自分自身の体内に宿る力であり、使い方次第で強力な拳に、強力な剣にもなりうる。
どうして? 何故? という疑問など要らない……ただ、ただただ新しい力というものが楽しく、それをコントロールすることにどっぷりとハマっていた。
(ただ闇雲に使うのではなく、コントロールする訓練を子供たちは嫌うものだが、スラン様は違う……解ってはいたが、反復訓練を一切嫌うことなく淡々と続けられる…………しかも、あのような笑みを浮かべながら…………末恐ろしいな)
レドルドは知っていた。
長年の経験から、どういったタイプの人間が恐ろしい力を手に入れるのか知っていた。
種類はあれど、その中の一つに……笑みを浮かべながら膨大な鍛錬に挑む者、という人種がいる。
無理に乗り越えるために張り付けている笑みではなく、本気で……心の底から笑みを浮かべている人間は、際限というものを知らない。
「…………剣の時とは違うな」
「そうだな……とはいえ、だろ。闘気を扱う練度が日に日に上がっている」
「それもそうだな。剣の時の衝撃があまりにも大き過ぎてて感覚が狂ってたぜ……にしても、スラン様はあれだけ持ち上げられてるのに、その日その日の指導員の指導を素直に受けてくれるよなぁ」
「あぁ…………それが、あの方の成長速度がおかしい要因の一つかもな」
「そういうもんか……まっ、言うことを聞いてくれないよりは、って感じだな」
「まさにそれだ。まだ子供とはいえ、血筋の人間であれだけ褒められていて一切調子に乗らない……お前に出来るか?」
「…………無理だな」
「そうだろ……私も、大なり小なり調子に乗ってしまうだろう」
おだてられ、天才や鬼才、傑物に女傑と周囲から呼ばれたとしても、スランは一切鍛錬を怠らない。
騎士たちから多くのことを吸収し、ただ教えられるだけではなく自分から質問して自ら吸収しにいくことも珍しくない。
それは社交界という権力者たちが集まる世界を越えて大人となった騎士たちにとっては、あまりにも珍しく……衝撃度合いで言えばこちらの方が剣やパルガ、ルカナとの試合結果より上だった者も少なくない。
「……とはいえ、これからが心配だがな」
「あぁ~~~~、あれか」
「そうだ」
「まぁデリルガーナ家だからな…………確かに、そういうのが得意なタイプには見えないからな……ついでに言うと、興味なさそうだよな」
「……否定出来ないな。しかし、必要なことではあるだろう…………例外があるかもしれないがな」
騎士たちが話す「あれ」というのは、派閥づくりのことである。
スランにそのつもりがなかったとしても、デリルガーナ家にいるまでの間はどうしても継承権を持つ者同士の争いに巻き込まれる。
そこで重要になってくるのが派閥争い。
どれだけ本人が強くなくとも、そこ次第で潰される……なんなら死ぬことも珍しくない。
(とはいえ、スラン様なら……成長速度次第では、お一人でも……)
(けどなぁ~~~、スラン様ならこの前の試合みたいにバシッと一人でなんとかしちゃいそうな気がすんだよな~~~~)
そんな騎士たちの想像を知って知らずか、スランは徐々に闘気の扱いを理解していき……一か月もしない内に成長曲線は極端になり始めた。




