第8話 偉業
(やっぱり、素手にして正解だった)
雷華は、現在自分が置かれている現状に、笑みを浮かべていた。
相手は素人ではなく、英才教育を受けている本物であり、更に殺意まで乗せられている。
そんな相手と戦っている状況に、無意識に笑みを浮かべるほどの高揚感を感じていた。
「だから、なに、笑ってる、のよッッッ!!!!!!」
その笑みに比例するほど、ルカナが迸らせる殺意が高まっていた。
そんな光景を見ていた騎士候補の子供たちは、両者が合意した試合とはいえ止めた方が良いのではないかと思い始めていた……しかし、大人たちは逆だった。
心の内で笑っていだけではなく、表情に零れている。
そこまでいくと高い実力、社交力がある騎士たち以外の者たちも気付く。
あの笑みは頭がおかしくなったから零れたものではなく、本気で殺意を宿す刃を向けられている現状を楽しんでいることに。
(今、ここ)
「―――――っっっ!!!!!!??????」
そして……その瞬間が訪れた。
一つ目の刃を躱し、もう一つの刃が振るわれるタイミングで双剣が触れられない場所に入り込んだ。
見事な体移動で距離を潰した瞬間……折りたたんだ脚から、大砲が放たれた。
「っ!? がっ!!?? うぐっっ!!!!」
(更に、先を)
「――――っっ!!!!! ひっっっ!!!!!!??????」
引っ張られていた。
前世でも、彼女はJKの時に命を落とした。
完璧な大人ではなく、この五年で特に精神年齢が成長しているわけでもない。
そんな彼女がルカナが発していた殺意に引っ張られたのは、ある意味当然のことだった。
だが……その拳が良くなかった。
正拳。
ただ突き放つ正拳ではなく、前世の師より教えられていた正拳……ただ当てるのではなく、相手の更に後ろまで届くような……突き刺す正拳。
それは試合が終わる一撃どころではなく、ルカナが終わりかねない一撃だった。
「スラン様、そこまでです」
「っっ……」
「先程の見事な蹴りで、もう勝負は付いているかと」
「……そっか」
審判である男性騎士はあっさりとスランの一撃を止め、待機していた治癒師たちが直ぐにルカナの治療を行っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……―――っ」
破壊された内臓が治った瞬間、スランと眼があったルカナ。
その表情に……眼には、もう自分のことが映っていなかった。
どこまで自分たちをバカにすれば気が済むのかと、身勝手な怒りを燃やすが……次の瞬間には否が応でもその理由を思い知らされた。
「…………これが、闘気で合ってますか?」
「……えぇ、その通りです、スラン様。それが、闘気という力です……そして一星への成長、おめでとうございます」
星……それは、武器を扱う者たちが持つ力の源と呼べるもの。
誰もが持っているものではなく、学ぶものに応じて闘気という力を扱うことが出来る星を手に入れるか……魔力という力を扱うことが出来るサークルというものを手に入れることが出来る。
階級は解りやすく、一から順に上がっていくほど強くなり……最終地点は十と言われている。
その階段に……強さを目指す者の階段に今、スランは足をかけることが出来た。
「「「「「「「「「「おめでとうございます!!!!!!!」」」」」」」」」」
「っ!!!!!!?????? あ、ありがとう、ございます?」
いきなり多くの騎士たちが跪きながら誉められ、さすがのスランも驚きの感情が表に出た。
(えっと………………なんで?)
話では、闘気という力は武器を持って戦う者たちが持つ当たり前の力であると聞いていた。
雷華からすればド〇ゴン〇ールに出てくるような気を纏うその姿を見るだけでも心が躍ったが、それでも戦士たちにとっては当然も当然の……当たり前過ぎる力。
そんな雷華の認識自体は間違っていなかった。
ただ……その闘気を会得し、星を得た年齢が問題だった。
多くの者たちは闘気を得て一星となるのは八歳ほど。
それは幼い頃から英才教育を受けてきた貴族や王族であっても……平民であっても変わらない。
勿論、それよりも早い時期に得る者もいるが、それでも情報通な騎士たちの中でも事実とされている情報では、早くても六歳。
伝説とされる話の中では生まれた時からという話もあるが、それは本当に伝説も伝説であり、証人すらいない。
だからこそ、五歳で一星に辿り着き、闘気を得たことは……それだけで偉業と言えた。
「えっと…………それじゃあ、これの使い方を教えてもらっても良いですか」
「かしこまりました」
先程までスランに指導を行っていた騎士が前に出た。
その表情は……至って平静そのものだが、解る者は解っていた。
あれは、喜びを必死に抑えているポーカーフェイスだと。
解らなくもない……と言うより、心の底から解るし、騎士たちは非常に悔しかった。
五歳で闘気を得た者に、最初に指導を行うことが出来る。
現在指導を行い始めた騎士本人も解っている……スランは教えたことを湯水のように吸収していくと。
決して、自分に特別な教育の才があるわけではないと。
それでも、最初に闘気に関して目の前の鬼才に教えらることそのものが、彼にとって一生の自慢話となる。




