第7話 ナイス判断、私
「試合、開始!!!!!!!」
「うぉらッッッ!!!!!!!!」
審判を務める騎士の開始の声と共に、パルガが勢い良く駆け出してロングソードを振り下ろす。
「……………………」
「しッッ!!!! ぅおりゃッッ!!!! はッッ!!!!!」
まだ六歳の子供ということもあって、振りはやや大味。
それでも超名門の武家に生まれ、習い始めた時から英才教育を受けていることもあり、剣技の基礎らしい部分は身に付いていた。
(……………………六歳、だからか……そこまであまり変わらない、ね)
実際のところ……パルガは他の同世代の子供たちと比べれば身体能力はやや高く、肉体の頑丈さも上。
それが代々強くなるために生き続ける名門の家に生まれた者のアドバンテージ。
しかし……雷華からすれば、その差はあまり感じなかった。
それは彼女が同じく超名門、デリルガーナ家の人間であることと……一歳の差があるにもかかわらず、模擬戦や試合を行っている回数は雷華……スランの方が多いから。
(何か、奥の手があるかもしれないけど……それはそれとして、試合、だからね)
プロ候補とのスパーリングを行った際、奥手を出されて手痛い経験をしたことがあるも、だからといって自分から攻めなければ勝利を手にすることは出来ないと知っており……一歩、リズムを読んで懐に入りこむ。
因みに、そのスパーリングでは結局機転を利かせた雷華が勝利していた。
「……ふッ!」
「っ!? ――っ!! ん、のッッ!!!」
「っ、ッ!! ふッ!!」
「っっっ!!?? なっ!? ――っ!!!??? がっ!!!???」
身体能力では、パルガの方がやや上。
この歳頃での一歳差は中々にバカに出来ないが……それでもロングソードと短剣のリーチ差を乗り越え、あっさりと懐に入り、パルガの体を切り裂く。
一つ、二つ、三つ……あっという間に気づけばパルガの体には十を越える切傷が刻まれ、床に地面が雨漏りのように垂れていく。
(……えぇ~~~~~~~)
その状況に、雷華は心の中で盛大にため息を吐いていた。
素人が……相手の見た目だけで判断し、大口を叩くということはある。
もしくは、過去に大きな功績を得ているからこそのビッグマウス……それは、雷華も理解出来る。
よくその口が開いたり閉じたり出来ないようにしていた雷華だが、そういった要素があるからこそのイキり行動というのは理解出来る。
しかし……まだ六歳とはいえ、それでもデリルガーナ家で武器や戦いの教育を受けており、完全な素人ではない。
そしてまだ六歳ということもあり、大した実績を収めていない……だからこそ、雷華としては本当に強いのだろうと思っていた。
彼と同世代では一応差がある。
だが、雷華からすればあまりにも些細な差であり、剣技に関しても基礎が出来ているところで特に長所はなく切傷は二十……三十を越え、そこでパルガ疲労で転んでしまった。
「うっ!! ひっ!!??」
「えっと……終わりで良いよね」
「えぇ、そこまででです。勝者はスラン様です」
「ま、待て「待ちませんよ、パルガ様。あなたは転んで無防備な状態になり、スラン様から剣先を突きつけられた……つまり、殺せるなら殺せる状況に追い込まれたのです」――――っっっ…………」
審判を務めていた騎士の言葉に、パルガは歯ぎしりしながらも、その表情には確かな恐怖が映っていた。
「ですので、この試合はスラン様の勝利です」
「~~~~~~~っっっ、チッッ!!!!!!」
デカい舌打ちはするものの、それでもパルガは自身の負けを受け入れ、後方に下がった。
「運良くパルガお兄様に勝ったからって調子に乗るんじゃないわよ!!!」
「……次はルカナと戦るんだよね。早く始めようか」
「なっ!!! ~~~~~っ、泣いても許さないわよ!!!!」
(………………パルガとの試合、あまり得られるものがなかったな……やっぱり、武器を使ったのが良くなかったのかな)
双剣を構えるルカナを前に、スランは一度離席して近くにいた過去に試合をしたことがある騎士候補の子に短剣を渡した。
「持っててもらっても良い?」
「も、勿論です!!!」
「ありがとう」
そう言うとスランは別の武器を手に取る……ことはなく、そのまま開始位置へと戻った。
「よし。お待たせ」
「……あなた、もしかして、素手で……素手で戦うつもりですの」
「うん、そうだよ」
「………………そうですの……そうですのね。解ったわ」
(おぉ~~~~、ナイス判断、私)
ナイス判断、私……ではない。
審判を務める騎士の顔に汗が流れる。
(…………いざという時は、私たちが止めれば良い話だが……それに、笑っておられる)
騎士は、デリルガーナ家の血族というわけではない。
ただスランが零歳の頃から訓練場に訪れており……彼が貴族出身の騎士ということもあり、無表情であることが多いスランの顔から……本心ではどう思っているかが理解出来るようになっていた。
六歳時とはいえ、本気の殺意を向けられたとしても、一切怯むことなく……寧ろ心の内では笑っている。
それを感じ取った騎士たちは……ある確信を得た。
「それでは……始め!!!」
「――――ッッッ!!!!!」
開始の声と同時に、兄と同じく速攻で駆け出したルカナは殺意の籠った刃を振り回す。
(うん、良いね……ほど良い、緊張感)
ロングソードと比べて双剣は文字通り手数が二倍。
そして基本的な手数が二つな素手と比べて、武器である分リーチが長い。
加えて……何故かは解らないが、ルカナが本気で自分を殺そうとしている。
(やっぱり……やっぱり、素手にして正解だった)
何かを得られる……成長出来る。
騎士たちと違う確信を得た雷華は、無意識に笑みを浮かべていた。
「っ、なに、笑ってるのよ!!!!!!!!!」
特に相手をどうこうさせる他意はない。
しかし、英才教育を受けているとはいえ、まだ六歳の子供がそれを理解出来るはずもなく……更に濃く、本気の殺意が込められた刃が振りかざされた。




