第6話 そう見えていた
「「やい、スラン!!! ちょっと面貸せ!!!!!」」
「……はぁ~~~~、何?」
五歳となったスランは、一歳児の時と変わらず訓練場で鍛錬に取り組んでいた。
本来であれば、武家の名門であっても戦い以外に関することを多く学ばなければならない。
しかし、そこは転生者……嫌なことだからこそ、本気で学んで身に染み込ませ、短期間で座学や礼儀、ダンスなどを見に付け、今では殆どの時間を鍛錬に費やしていた。
五歳になったことで体も多少は大きくなり、扱える武器も増えた。
ただ……五歳という、ある程度一人で動けるようになったこともあり、逆に面倒な者たちに絡まれるようになってしまった。
それが今回絡んできた二人……双子の兄妹、パルガとルカナである。
二人はスランと父親こそ同じだが、母親は違う異母兄姉。
そのため、基本的には継承権の順位を争う競争相手である。
「父様に気に入られているからって、調子に乗るなよ!!」
「調子に乗らないことね!!!」
「……別に調子に乗ってないんだけど」
事実、雷華はランゾから気に入られているからといって、父に対して特別な要求をしたことは一度もない。
礼儀作法やダンスなどは面倒であったが、前世と同じく赤点を取らない為に必要な勉強だと思えば……苦ではあったが、なんとか早いうちに乗り越えられた。
そのため、残った時間の殆どを鍛錬に使っており、デリルガーナ家の人間であれば当たり前の行動をしているだけとも言えた。
ただ……雷華からはランゾに何かを強請ったり頼ったことはないが、スランの成長を
聞いた際に送ろうと思っていた褒美が四歳の頃に送られた。
それは……間違いなく、四歳の子供に送る品質のものではなかった。
まだまだ美術品や物の目利きは達者ではないものの、さすがに雷華も貰った武器が今の自分が扱うにはあまりにも質が高いことぐらいは解った。
とはいえ、いざという時の為に使いこなせない訳にはいかず、適度に使用していた。
「んじゃあ!!! なんでお前だけ父様からあんな良い武器貰ってんだよ!!!!!」
「そうよそうよ!!!!!」
(…………面倒でも、良い顔してるね~~~~)
二人にはランゾの面影と、彼女たちの母親であるフィリディス夫人の面影があり……どちらのイケメン美女因子を引き継いでいる。
雷華は特に面食いという訳ではないが、イケメンや美女を見て「おぉ~~~~」と感嘆するぐらいの感情の起伏はあった。
「お前、俺たちの話聞いてんのかよ!!!!」
「聞いてるのかしら!!!!」
「うん、聞いてる聞いてる。それで……二人は何がしたいの?」
雷華としてはさっさと二人とのつまらない会話を終わらせて鍛錬に戻りたい。
そんな……つまらないという感情が無表情なスランから本能的に読み取り、二人の怒りゲージは更に高まる。
「~~~~~~~~っっっ!!!!! 俺たちと戦え、スラン!!!!!」
「戦いなさい!!!!!」
「うん、解った」
「「………………」」
あっさりと……あまりにもあっさりと、ノータイムで雷華は二人からの申し出を受け入れた。
「? 私と戦うんでしょ……それって、試合をするってことでしょ」
「そ、そうだぞ!! ちゃんと解ってるのか!!!!!」
「解ってるよ。何回もしてるし」
訓練場にはデリルガーナ家に仕える騎士たちの息子や娘たち……騎士候補生と呼ばれる者たちもいるため、そういった者たちとスランはこれまで何度も試合を行ってきた。
ただ、一歳歳上の二人とはまだ試合をしていないだけ。
「えっと、刃引きしてない武器で戦る?」
「―――っ、は!!! 怖気づいてんのか!!! そのままの武器で戦るに決まってんだろ!!!!!」
「「「「―――――っっ……」」」」
パルガの言葉に、その場にいた大人たちの表情に緊張が走る。
デリルガーナ家の人間であれば、遅かれ早かれであり、刃引きされてない武器を使って試合を行うことぐらいは特に珍しいことではない。
だが……一応刃引きされてない武器をパルガとルカナも扱っているが、正直なところ……騎士たちから見てまだ二人が試合で普通の武器を使うのは早かった。
「そっか…………解った。それじゃあ、戦ろっか」
(っ、やはり了承してしまうか)
まだ二人の扱いが危なっかしい……それに加えて、騎士たちには別の不安点があった。
それは、おそらく多少なりとも二人に対してイラついているであろうスランがどれほど二人を追い詰めてしまうのかという心配。
「っっっ、言ったな! デリルガーナ家の人間に二言はねぇだろうな!!!」
「ないでしょうね!!!!」
「ないよ。それじゃあ、戦ろう」
「「~~~~~~~~っっっ!!!!!!!」」
一切怯まない、全く恐れない異母妹の姿に怒りゲージが限界を迎えた。
「後でひーひー泣いても知らねぇぞ!!!!」
「うん。だから早く始めようよ」
「こ、こんの生意気なぁ~~~~~!!!!!」
パルガは……本気で怒っている。
怒っているつもりではなく、本気で怒りボルテージがマックスに達していた。
だが、前世では男子のスパーリング相手をしていた雷華からすれば、当然ながら欠片も怖くない。
「いぎっ!!?? っ!! ――っ!!?? い゛っ!!!!????」
(……えぇ~~~~~~~)
試合が始まってから数分もしない内に、雷華は心の中で盛大にため息を零していた。




