第5話 可能性は、大いにあり
「…………………………」
「…………………………」
無言だった。
ランゾはレドルドからの手紙に大いに関心を持ち、珍しく土産などを用意していた。
だが、改めて娘と対面して思い出した。
娘が……まだ一歳であることに。
(……ひとまず、確認したいことを確認するか)
プレゼントなどは追々にするとして、まずは屋敷に戻ってきた目的を果たす。
「スランよ……剣を振るう姿を見せてくれるか」
「はい、わかりました」
言われた通り……ではなく、普段よりも緊張した面持ちで中段に構える。
(この感じ…………結構久しぶり……ふふ。だからこそ、だよね)
緊張感があるということは、壁を乗り越えるチャンスでもある。
そんな前世のメンタルを芯に構え、スランは言われた通りに剣を振るい始めた。
「ーーッッ!!! ふッッ!! やっ!!!!」
「………………」
一振り、とは言われてないので何度も何度も振るい続ける。
やること自体は、普段と変わらない。
ただ剣の稽古をするだけである。
(……ふっ、ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!!! なるほどな……これほどのものがあったからこそ、あのレドルドがあそこまでの言葉を使って表したか…………よもやよもやの展開だな……さりとて、これはこれで楽しみというものか)
数回振るうだけで止めない。
レドルドが手紙に記していた通り……寧ろそれすら上回る姿勢と剣を見せてくれた。
そして、今はもう自分の前で稽古と変わらない雰囲気で動き続けている。
何故ほぼ初対面のくせに解るのか?
そこは戦いに関わっているから、としか説明のしようがなかった。
「スラン、もう止めて構わない」
「っ、はい」
「……良いものを見せてもらった」
「―――っ、ありがとうございます!!!」
(……頭を下げる姿勢なども一歳とは思えないな……物覚えが早い故に、前倒しになっているのか?)
子供たちの教育に関しては、基本的に執事やメイド、騎士たちに任せている。
だが、一応どういった教育プランが基本となっているかは頭に入っている。
ランゾの記憶が正しければ、現段階では文字の読み聞かせがせいぜいなところ。
因みに、雷華はまだ子供らしいところがあり、単純に強い人物から褒められるのが嬉しかっただけ。
「…………………………スランよ。剣は好きか」
「はい!! あと、ぶきもすきです!!!」
「むっ……なるほど、そうか」
剣は好きだが、それ以前に武器全般が好き。
となると、焦り過ぎるのは良くないと判断。
(武器が好き、か…………そのような言葉を口にする者たちはいたが、あまりにも早いな…………今回に関しての褒美は、本当にまた後日にした方が良さそうだな)
スランだからというわけではなく、ランゾは子供たちが成果を出す、戦果を上げれば必ず褒美を与えている。
時には自身のコレクションの武器から渡すこともある。
今回、ランゾはスランがもう少し大きくなってから扱える刃引きしてない剣を用意していたが、どうやら剣と決めつけない方が良いことが解った。
(……続きは、今後に残しておいた方が良さそうだな)
その後、少しだけ言葉を交わした後、スランはランゾの私室から退室し……彼の従者が戻ってきた。
「感じていたか」
「えぇ、勿論です」
「……今から、食い込むと思うか」
「可能性は大いにあるかと」
「ふふ……そうか」
可能性とは、スランが継承者争いに食い込む可能性のこと。
一番歳が離れている者とは十歳以上歳が離れており、普通に考えれば五女という立場に生まれたスランが今更デリルガーナ家の後継者争いに食い込むことはない。
スランは今のところ幼児とは思えない姿を見せているが、それでもデリルガーナ家の子として生まれた者たちは皆……その他大勢の令息や令嬢たちと比べて大きな才を持っている。
彼らも日々成長しており、全員が剣士や戦士としての道に進んでいる。
十歳以上もの年齢差は、基本的にはどのようにしても覆しようがない。
だが、長年デリルガーナ家に仕え、多くの剣士や継承者たちを見てきた執事が、スランにはこれから継承者争いに食い込む可能性が大いにあると口にした。
「ですが、一つ懸念点もございます」
「女だから、などといったくだらない理由ではないだろうな」
「えぇ、勿論でございます」
女性だから当主になれない……そういった古臭い考えは、デリルガーナ家の歴史だけではなく、各家の歴史が既に証明している。
「スランお嬢様には、英雄の相を感じました」
「………………なるほどな」
その短い内容だけで、ランゾは執事が何を懸念点としているのか直ぐに察した。
「…………とはいえ、だ。しばらくの間は巻き込まれることは必至だろう」
「えぇ……ですが、その後はお嬢様の意志次第になるかと」
「…………………………ふっ、ふふ、はっはっはっはっは!!!!!!!!」
「当主様?」
「つまり、俺は今子育てについて悩んでいる……くるかもしれない、反抗期というものについて悩んでいるということだな」
「……そうですね。そういう事になるかと」
「そうか…………ふっふっふ。一日の間にこうも笑ったのは久方ぶりだな」
その後、ランゾは去る前にもう一度スランの動きを見て、第三夫人であるアンナの手作りを食べてから元居た場所へと……戦地へと戻るのだった。
「「やい、スラン!!! ちょっと面貸せ!!!!!」」
「……はぁ~~~~、何?」
数年後……雷華は訓練場である二人に絡まれていた。




