第10話 苦手だけども
「………………」
「す、スラン様?」
「大丈夫ですよ、レドルドさん。ちゃんと聞いてます」
「そうですか……」
ある日の夕食後、スランはよく面倒を見てもらっているレドルドと一緒に紅茶を飲んでいた。
一緒に紅茶を飲みませんかと……先に誘ってきたのはレドルドであり、要件はそろそろ派閥というものをつくった方がよろしいですよという話。
一応……一応、スランは勉学の教師からチラっと話を聞いていたが、自分には関係ないだろうと思い、今まですっかり忘れていた。
そしてレドルドから話を聞いた現在……無茶苦茶めんどくさそうな顔をしていた。
中々に珍しい表情であり、真正面から見れたレドルドとしては貴重な瞬間を見れて嬉しいという思いと、本当に理解してくれているのかという不安な思いがあった。
「…………レドルドさん。それって、本当に私も巻き込まれるんですか? 私って確か継承権は……十番目とかですよね」
「えぇ、その通りです。しかし、可能性としては大いにあります」
「次期当主候補にならないのにですか?」
一応兄姉たちの年齢を知っており、自分が狙える歳にはおそらく兄姉の誰かが当主になっていると思っていた。
「そうです。現実的な問題を話しますと、確かにスランお嬢様が当主になれる可能性は低いでしょう。しかし、デリルガーナ家に生まれた以上、序列争いというものに巻き込まれます」
「………………それが、こう……一対一の勝負だけが全てじゃない、ってことですか」
「えぇ、その通りです」
理解しているようでなによりだと、ほっと一安心するレドルド。
ただ……ほっと一安心しただけで、完全には安心出来ていない。
何故なら、まだまだスランの顔にめんどくさいという文字が刻まれていたから。
(やはり……やはりこうなるか)
既にデリルガーナ家の者として生まれた者たちが、全員屑、という訳ではない。
しかし、それはそれとして継承権の上の方の者たちは牽制するほどの価値があり……継承権が下の方の者たちは、一番下のあいつに負けられるかと……当主に気に入られているあいつがウザい!!! と、子供らしい嫉妬や醜い邪心を向けてくる。
レドルドとしては、真っ当にぶつかるのであればまだしも、権力的な攻め方や政治的な攻め方でスランが潰され、殺されるのはあまりにも忍びないと考えていた。
(…………心配、してくれてるんだよね)
レドルドの表情から本気で自分のことを心配してくれているのだと、さすがの雷華も解る。
ただ……雷華としてはそういうのがどうも苦手だった。
前世では割と向こうから集まってくることが多く、本人が格闘技をやっていることもあり、本当の意味でバカな者が集まることはなかった。
道場やジムに関しても本気には本気で返すこともあってか、周りには本気の者……本物しか集まらなかった。
だが、この世界ではまだ同世代の友人と呼べる者がいない。
その主な要因は……スランの立場と雰囲気だった。
デリルガーナ家の令嬢であり、ミステリアスでやや近寄りがたい雰囲気を有している。
雷華としてもこの世界には漫画などその他の娯楽がなく、まだ五歳や六歳の者たちと話らしい話が出来るとは思っていない。
大きくなってから……という考えでは、派閥づくりにはあまりにも間に合わない。
(けど、当主っていうのには興味ないから…………………………でも、そうだよね……そういう事をしなきゃ、死ぬかもしれない家なんだよね)
貴族という特殊であり、基本的には何不自由することのない家に生まれることが出来た、多くのことを学べる……雷華の大好きな戦いに関することも学べる。
その対価だと思えば納得……は出来ないものの、とりあえず仕方ないことだと飲み込めはする。
「難しいけど……多分、私から声を掛けた方が良いんですよね」
「えぇ、勿論です。子供たちの話では、スランお嬢様はどこかミステリアスな空気があり、少々近寄りがたいらしいので」
(ミステリアス…………前世でも何度か言われたから、多分そうなんだろうな)
前世だけではなく、今世でも同じことを言われては、さすがに雷華としても認めるしかなかった。
「………………」
「……個人的な考えですが、スランお嬢様から何か助言を伝えられてはどうでしょうか」
「助言……レドルドさん。私、まだ人に何かを教えられるほど強くないですよ」
「それでも、距離を縮めるには一つの手かと」
「なるほど…………」
この時、雷華は特に気にしていなかったが、レドルドはこのやりとりである確信を得た。
(やはり、スランお嬢様は人に教えることが出来ないとは言わなかった……おそらく、武器を振るうことなどに関して、最初から自分なりの考えを持っていられたのであろう)
あり得ない……非常にあり得ない話だが、実の母であるアンナについでスランのことを近い場所から見てきたレドルドにとって、普通ではないなど今のスランにとって当たり前過ぎるため、絶対にあり得ないとは思えなかった。
「ん~~~~~~……………………明日、ちょっと頑張ってみます」
「サポート出来ることがあれば、精一杯サポートさせていただきます」
やはり無理だと最初から諦めるのではなく、とりあえずやってみようと一歩踏み出してくれた。
それだけでもレドルドとしては嬉しい進歩だった。
そして翌日……予定通り、訓練場ではスランの前に同世代の子供たちが集められた。




