第25話 使わないと使えないは別
「これは……これも、霊薬?」
「あぁ、その通りだ。とはいっても、少し服用した人物の闘気を増やし、体を癒す効果が含まれているだけで、父が用意したほどのものではない」
「…………ありがとう、ございます。でも、どうしてこれを?」
父親であるランゾからだけではなく、姉の一人であるリゼスからも霊薬を貰ったスラン。
彼女としては、嬉しいことには嬉しい。
ただ、父が先日行った試験の褒美としてという理由は解るが、今日が初対面であるリゼスから霊薬を貰う理由が全く解らない。
「……デリルガーナ家の人間として生まれたのであれば、生まれながらにして耐性がある。父が用意した霊薬のみを服用したとも耐えられるだろうが、万が一という可能性があるからな」
「そうなんですね……ありがとうございます、リゼス姉様」
「ふふっ、気にするな……こうして対面して、改めてお前の為に用意して良かったと思ったからな…………そうだな。折角だ……少し共に鍛錬をしようか」
「っ、はい!!」
当然、断る理由がない。
二人は移動して普段使っている訓練場……ではなく、リゼス専用の訓練場へと移動。
「では、体を動かそうか」
「はい!」
徒手格闘、ロングソード、短剣、槍、斧。
全ての武器を使いながらシャドーを行いながら体を温めていくスラン。
それを横目で見ながら、更に彼女がどれほど異質な存在なのかを感じ取っていくリゼス。
(既に芯があるか……どうやら、あの話も大袈裟というわけではなさそうだな)
五女として生まれた息女が、継承者争いに加わるかもしれない。
数ある名家、名門の歴史を振り返ればそういった例は……無きにしも非ずではある。
だが、そうそう起こり得ることではない。
それが先に生まれた者たちの絶対的なアドバンテージであり、どれほどの才があったとしても容易に覆すことは出来ない。
現在、デリルガーナ家の子供たちの中で……リゼスはズバ抜けた実力を持ってはいるが、彼女自身はそこまでデリルガーナ家の当主という椅子に興味がない。
歴史上、女性がデリルガーナ家の当主となった例もあり、彼女が次代の当主となってもおかしくないのだが……それでも、リゼスは大してその椅子に惹かれない。
ただ、父や多く在籍している騎士たちに敬意を持っているため、いずれは離れようというつもりもない。
(……バルザスよ。どうやらあまりうかうかしていると、下から突き上げられるかもしれないぞ)
バルザスとは、デリルガーナ家の長男であり、リゼスとは違って次期当主の座に座ることに強い意志、野心を持っている。
現状、リゼスがそこまで興味を示していないということもあって、彼が当主の座に一番近い。
ただ……今のところ、実力ではリゼスに及ばない。
彼女はスランが生まれるまで、デリルガーナ家の中でも特に優れた……異質な存在の一人。
それは多くの騎士たちが理解しているため、彼女に勝てなくとも……まぁ、と思われているところはある。
だが、五つ以上も離れた妹にも負けるとなると、色々と話が変わってくる。
「よし。それじゃあ始めようか」
「はい、よろしくお願いします」
ロングソードを構えるリゼスに対し……まず、スランも同じくロングソードを構えた。
(凄い……やっぱり、騎士の皆と同じで、隙が無い……だったら)
隙が無い。
そう感じる相手への対策をスランは知っていた。
とりあえず……全力で攻める。
「ッ!! 疾ッッッ!!!!!」
「………………」
これは、あくまで模擬戦……なんなら、リゼスがスランに稽古をつけるという形。
だからこそ、甘えとも取れるかもしれないが、まずは攻めて攻めて攻めまくる。
「――ッ!! っ、ふッッ!! 破ァアアアアッッ!!!!」
「………………」
普段、あまりスランが零さないほど苛烈で気合の入った声が訓練場に轟く。
スランはじっくりと視るまでもなく、本能的にリゼスとの力の差を理解していた。
今の自分では、どう足掻いても……奇跡が起きたとしても敵う相手ではないと。
だからこそ、スランはただ全力で戦うのではなく、殺す気でリゼスに斬り掛かっていた。
これまで騎士たちに習った王道の剣技だけではなく、短剣を扱う時に繰り出す獣の様な動きを混ぜ、纏う闘気を砂の様に細かく放ち、視界を潰す。
(……恐ろしいですね)
戦況は、ただリゼスがスランの攻撃に対して全て対応し、受け止めているだけ。
コントロールしているのは間違いなくリゼスだが、お付きの戦闘メイドはスランの戦闘能力の高さに驚かされっぱなしだった。
(七歳時点で二星級に至っているのも普通ではありませんが、子供とは思えないほど線が……芯が整っている。あれほど激しく動きながらも、軸がブレずに放てる最大限の攻撃を放てている……加えて、闘気の扱いも…………卑怯な手も知っている)
名門出身の者が卑怯な手を使えば、基本的には非難される。
しかし、実戦で……命が懸かっている場では卑怯もクソもなく、そんな王道ではない手が命を救うことは大いにある。
それを……リゼス相手に躊躇なく使うことが出来る、
戦闘メイドからすれば、それもまた一種の才であった。
「………………ッ!!」
「っ!!??」
そして模擬戦が始まってから約三分後、リゼスの斬撃によってスランのロングソードが弾き飛ばされ……手元から離れてしまった。
普通なら……ここで終了である。
しかし、スランは右腕に痺れを感じながらも地を蹴り、後方に下がると左ジャブの勢いで闘気の弾丸を発射。
右腕の痺れがなくなるまでそれで時間を稼ぎ、再び……今度は無手のまま距離を詰めた。




