第24話 気持ちがよく解る
「とても似合ってますよ、スランお嬢様」
(……こういうとこ、ちょっと面倒)
おしゃれ意識、というのがあまりない雷華。
そんな彼女の感覚をなるべくくみ取ってか、普段の生活ではあまりそこまで服装に関してとやかく言われることはない。
ただ……対面する相手が同じ家の人間……半分は血の繋がった姉とはいえ、普段通りの格好というわけにはいかない。
綺麗なドレス……とまではいかないが、それでも見るからに上等な服装を身に纏い、長女リゼスが待つ部屋をノックする。
「あぁ、入ってくれ」
「失礼します」
中に入ると、麗しく長い銀髪を有し、キレのある美しぃ目と顔立ち……凛とした美しさ……神々しさすら感じさせる女性がソファーに座っていた。
(確か……十五歳、とかだったよね? それであんなに…………前世とは違う……日本とは少し違うと思ってたけど、ほぼ大人……だよね?)
この世界では一応十五歳になれば大人扱いはされるものの、それはあくまで大人(仮)のようなもの。
見た目も……雷華の前世と比べれば大人っぽい容姿や雰囲気に至る者が多いが……それはあくまで外見までの話。
雷華から視て、リゼスという十五歳の女性は全てが大人となんら変わらなかった。
「…………」
「どうした、スラン。立ってないで座ると良い」
「あ、はい……失礼します」
姉に促され、そのままソファーに腰を下ろし……改めて姉……長女という存在と真正面から対面する。
「…………」
「ふふ。私の顔に何か付いているか?」
「いえ……とても綺麗で、大きな強さを持たれてると感じて」
「っ……そうか」
とても綺麗。
幼い頃から非常に整った容姿を持つスランは、その言葉を何度も伝えられてきた。
そして……その世代の怪物の一人である彼女は、強いですねという言葉も何度も伝えられてきた。
向けられる視線からも感じ取ってきた。
ただ……その言葉に、これほど余裕や興味を多く含みながら歳下の子に言われるのは初めての経験だった。
(解っていない、ということはないだろう)
デリルガーナ家の者たち、騎士候補生たち全員が避けては通れない試験を少し前に受けたばかりというのは耳にしている。
それでも……彼女から感じ取れる血の匂いは、中々に強烈なものだった。
幼くとも、相手のおおよその力量が解らないわけがない。
そう思わせる血の匂いと染み込んだ闘気の匂いが感じ取れた。
「父がな、お前に会ってみろと言ったのがよく解るよ」
「父様が、ですか?」
「あぁ。少し前に手紙を受け取ってな……お前がこれまでに何をしたのかという内容と、一度会ってみろという内容が記されていた……正直なところ、少し疑っていたんだ」
デリルガーナ家は、数ある武家の中でも名門中の名門。
その直系である者として生まれたのであれば、幼い頃から伝説と言われる逸話を残してもおかしくない。
それこそ、リゼスもこれまで幾つもの逸話を残してきている。
だが、手紙に記されていた内容はそんなデリルガーナ家の人間であっても、それはさすがに盛っているであろうと感じる内容のものだった。
しかし……そんな神童を目の前にし、リゼスは一瞬にして父が手紙に書き記した内容が本当であったと確信を持った。
「だが、結果は違った。どうやら本物の傑物だったようだ」
「えっと…………ありがとうございます」
褒められたということは解るため、一応頭を下げて感謝の気持ちを伝える。
まだそこまで異世界について詳しくはないものの、それでも自分が転生者であり……その身に宿すスペックが普通ではないということは理解していた。
「それでな、一つ父から預かっている物がある」
そう言いながらリゼスはアイテムバッグから一つの小さな箱を取り出した。
(指輪とかのアクセサリー、かな?)
受け取り、早速中身を確認するスラン。
「…………薬?」
すると、中に入っていたのは指輪やイヤリングなどのマジックアイテムではなく、やや毒々しい緑色の丸薬だった。
「そういった使い方をする者もいるだろう。それは霊薬と呼ばれる貴重な素材の一つだ」
「霊薬…………闘気の量を上げたり、質を変えたりするあれ、ですか」
「ほぅ、よく知ってるな。博識じゃないか、スラン」
デリルガーナ家の人間として一番に求められるのは強さ。
名門としての教養は必要ではあるものの……現段階では、そこまで学ぶ必要はない。
ともすれば、スランがただ強さだけに興味がある猪突猛進少女ではないことが窺える。
「それは毒に対する耐性を飛躍的に向上させる霊薬だ」
「毒に対する耐性…………もしかして、どこかで毒殺される予定があるんですか?」
「……どうだろうな。私が受け取った手紙には、そういった内容は記されてはいない。ただ、この家に生まれたということは、そういう事もあるということだ……それは、身を持って体験しているのだろう」
「えっと……………………………………あっ、もしかしてゴブリンの群れの話ですか?」
「…………ふっ、ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!」
急に大きな笑い声を上げるリゼス。
笑い声にすら圧を感じさせるが……彼女のお付きのメイドは、そこまで意識して抑えられない自身が仕える主の気持ちが解ってしまっていた。
(……本当に噓偽りのない方、ですね)
長い時間を掛け、ようやっとそれらしいと思う内容を思い出したスラン。
つまりは、彼女はその仕組まれた戦いのことを、家の誰かが仕掛けてきた戦いだと……度を越えた内容であったという自覚が一切ない。
「手紙に記してあったのだが、父が声を上げて笑ったという気持ちがよく解る……必要ないとは思うが、私からも一つ渡そう」
アイテムバッグから取り出された、もう一つの小さな箱。
そこには……父ランゾから送れらた毒々しい緑色の丸薬とは違い、真っ白の丸薬が入っていた。




