第23話 流すか、買うか
「っ、フッッ!!!!」
今日も今日とて訓練場で体を動かす雷華。
(凄い……飛躍的に、上がってる)
先日の試練を乗り越えた結果、一星級から二星級に成長しており、身体能力が飛躍的に向上し、闘気量も増えていた。
(けど……一星級に、上がった時、よりも……振り回されてる、感じが……凄い)
緩やかに身体能力が上がったのではなく、劇的に……階段的に身体能力が上がってしまったため、まだその全てを発揮出来てはいなかった。
これは戦う者たちの多くが直面する問題であり、常に実戦を行うものほど早急に向上した身体能力をコントロール出来るようになる必要がある。
「う~~~~ん…………やっぱりこっちにしよ」
そう言いながら雷華は……スランはロングソードをしまい、素手の状態で構え……本気のシャドーを始めた。
「ッ、ふッッ!! 疾ッッ!!!」
ジャブ、ストレート、フック、フットワーク、蹴り、アッパー、ボディー、肘、膝。
使えるものを全て使っていき、本気で動き……本気の調整を行う。
「よ、淀みないなぁ~~~~」
「そうよね…………スランお嬢様って、剣や槍のことに関しては私たちに教わってるけど……徒手格闘に関しては、誰からも教わってないわよね」
「? 確かにそうだな……それがどうかしたか?」
「……はぁ~~~~。普通に考えれば、おかしいことでしょ。一応私たちの中でも徒手格闘が出来る騎士はいるけど、それでも専門にしてるやつはいないでしょ」
「…………確かにそうだな」
いったい、どのようにして徒手格闘を覚えたのか。
若い騎士たちにとって、そこが最大の謎部分だった。
しかし……更に歳上の騎士たちは……謎と思うのではなく、心配をしていた。
「……素晴らしいな。相変わらず他の武器などと比べて、技量は頭一つ抜けている」
「そうだな…………ふぅーーーーー……スランお嬢様はいつ頃デビューされるのだ?」
「今七歳なのだから、そろそろじゃないかしら? 戦いありの場なのかは解らないけれど」
「そうか……」
「もしかして、引き抜きを心配してるの?」
「あぁ、その通りだ」
引き抜き……言葉通り、という訳ではないが、形としてはそうとも捉えられることが行われかねないと、大人の騎士たちは心配していた。
デリルガーナ家は……剣以外の武器を使う騎士たちもいるが、世間一般的には剣の名家と呼ばれている。
そんな中でも、スランは異質な存在。
勿論剣という武器に大きな興味は持っているが、それは槍や斧といった他の武器も同じ。
ただ、その中でも彼女は己の肉体だけで戦う徒手格闘が他の武器と比べ、技術的な意味で確実に頭一つか二つ抜けている。
「……他の家から、そういったところの名家から婚約者として迎え入れたいって提案がくるってわけだな」
「あぁ……その時、スランお嬢様がどういった反応を取られるか……」
「…………こういう家に生まれた子たちって大体がそうかもしれないけど、あんまりそういうのには興味ないだろうから、そんなに心配しなくても良いんじゃないか」
「それはそれでスランお嬢様の将来が少し心配になるが……とはいえ、そうだな…………心配が残るとしたら、別の問題だろう」
「別の問題? ……スランお嬢様は少しぼんやりとしたところはあるが、誰彼構わず喧嘩を売ったり偉そうな態度を取る方じゃないだろ?」
彼女が喧嘩を売る姿が想像できない。
それはある心配をしている男性騎士も同じだった。
そこは心配していない……ただ、また別の心配があった。
「そうだな。ただ、おそらく売られた喧嘩であれば買うだろう」
「うっ……それは、まぁそうだろうな」
二年ほど前の話になるが、スランは一つ歳上の双子、パルガとルカナに勝負を挑まれた……正確には、喧嘩を吹っ掛けられた。
それに対して、上から目線な様子で絡んでくる二人に対して煽り返すようなことはなかったものの、特に拒否反応を示すことなどはなく、そのまま受け入れた。
そう……売られた喧嘩を断らず、あっさりと受けてしまった。
「最近は他家の天才と呼ばれる者たちを見てはいないが……拳の分野で、スランお嬢様が劣っているとはとても思えない」
「……てなると、あれか。得意分野としてる奴と喧嘩になって、拳で倒してしまったらってことか」
「そういう事だ……恐ろしいだろう」
「面白くはありそうだが、恐ろしさもあるな…………俺ら大人だけで対処出来ればそれで良いんだが」
「ふっ、そうだな」
現在、世は戦乱の時代……といったほどではない。
少なくとも、デリルガーナ家が属する国はそうではないのだが、それでも何かが切っ掛けで名家と名家が激突することは十分起こりうる。
結果、片方が完全に消えるということはなくとも……勝利した家の勢力、財力が高まり、国内の勢力図が変わってしまう。
「…………私としては、スランお嬢様はそういった部分をくみ取り、上手く回避出来なくはないと思うが……」
「俺は、正直そういうのを逆に嬉々として受け入れちまうんじゃねぇかって思うな……どうせなら良い味がするワインを一本賭けてみるか?」
「……ふぅーーーーー。良いだろう」
騎士たちの間でそんな賭けが行われているとはつゆ知らず、スランはひたすら上昇した身体能力に振り回されない為の調整を続けていく。
「スランお嬢様、お客様が来ております」
「お客様?」
「えぇ。そうです……長女であるリゼスお嬢様がいらっしゃっています」
「リゼス、お姉様…………」
名前だけは、知っている。
だが、まだ面と向かって会って話したことはないデリルガーナ家の現長女、リゼス。
何故、いきなり戻って来たのか……何故、自分に会いに来たのかは解らない。
ただ……ここでスランに会わない、居留守を使うという選択肢はなかった。




