第20話 歴史を刻む
「っと、あそこか」
試験開始から丁度十時間が経った頃、空に信号弾が打ち上げられ、子供たちに試験終了の合図が送られる。
(…………良かった)
集合場所に戻ったスランは、今回の試験に参加した者たちが全員いることが……生き残っていることが素直に嬉しかった。
勿論、全員がスランのようにほぼ無傷というわけではなく、傷口にかけたり直接飲んだりすることで傷を癒す液体、ポーションを全て使ってしまい、試験中に治せなかった者たちも多くいる。
それでも、集合場所に戻れば試験監督を務めていた騎士たちからポーションを貰い、傷を癒すことができる。
「それでは、順に確認させてもらうぞ」
基本的に不可能ではあるが、屋敷に戻ってからの採点では万が一にも細工がされるかもしれないため、現場で子供たちが倒したモンスターの魔石、素材を確認していく。
(……どの子供たちも最低でも十を越える魔石、素材を手に入れている…………他の騎士たちからの報告がないということは、あくまで全員実力や創意工夫の果てに戦果を手に入れたということ……平均値で言えば、歴代の中でも間違いなく上位に入る成績だな)
今回がモンスターとの初戦闘ということもあり、これまで試験を受けてきた子供たちの中には、一体もモンスターを狩れずにただ逃げ回るだけで終えてしまった者もいる。
騎士たちからすれば、その気持ちは正直なところ、解らなくはない。
ただ、将来騎士として……デリルガーナ家の騎士として活動する者としては、最低評価を付けざるをえない。
しかし、今回は一人も最低評価を……なんなら、低評価を付けられる者すらいない。
(ぅお~~~~……こりゃあ、平均点に関しちゃあ、歴代で一番なんじゃないか?)
(彼らの鍛錬の賜物というのもあるでしょうけど…………それでも、それに関わっているのは、間違いなくスランお嬢様よね)
十人以上いる子供たちの採点が終了し……誰一人表情は沈まず、笑顔の中……ついに、スランの採点が始まる。
「「「「「「「「「「「「「「「……えっ……えっ………………」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
アイテムバッグの中から取り出される魔石、素材の量に子供たちは文字通り圧倒された。
それは子供たちに限らず、騎士たちも同じだった。
「っ……さ、さて。こちらもだったな」
そして、今度はアイテムリングの中からも魔石や素材が取り出されていく。
その光景に、子供たちは顎が外れかねない程口を開き……大人である騎士たちはその光景に引いていた。
(いやぁ~~~~、解る解る。その気持ち、超解るぜ~~~)
(……そういった反応になってしまうのも、致し方ないだろう)
当然ながら子供たちは聞いたことがなく、既にデリルガーナ家の騎士として活動し始め……最低でも五年は経っている者たちであっても、今回の試験で一つ目のアイテムバッグがパンパンになったので二つ目を使いました、という話は一度も聞いたことがない。
「これで全部、だな……よし」
簡易テーブルの上に置かれた素材を見て、呼吸を整えた騎士が採点を開始。
もはや、ぶっちぎりの一位であるのは明らかなのだが、それはそれとして点数によっても当主から褒美を受け取れる可能性があるため、細かく採点する必要があった。
「……………………千、二百六十点、だな」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
絶句。
今回の試験で千点を越えた者は、デリルガーナ家の歴史の中でも片手の指があれば足りるほどの超好成績。
加えて、千二百六十点は……長いデリルガーナ家の歴の中でも、正真正銘……トップの成績であった。
「千二百六十点…………最後、そこそこ頑張ったから、かな」
スランの言葉に、彼女の試験監督担当二人は頷く。
それまでに討伐した魔石や素材の数でも十分過ぎる点数が付くも、最後のゴブリン集団による襲撃によって大量の点数を稼ぐことが出来た。
「お、おめでとうございます、スラン様!!」
「おめでとうございます!!!!」
「ほ、本当に、本当に凄いです!!!!」
過去一かもしれない衝撃を受けていた子供たちだが、発表されたスランの点数がぶっちぎり一位だと……デリルガーナ家の歴史に詳しい者であれば、スランがその歴史を塗り替えたということまで解っていた。
彼らとしては、自分たちと共に鍛錬を行い……自分たちを鍛えてくれていた彼女がぶっちぎりの一位となったことを、心の底から喜んでいた。
ただ……それは、彼女も同じだった。
「ありがとう……皆、多分だけど目標にしてた点数に届いたよね……それに、皆こうして生き残った……それが、本当に良かったよ」
「「「「「「「「「「「「「「「ーーーーっっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」
子供たちは、彼女の笑みに心を打ち抜かれた。
スランは……雷華は、自分の派閥の人間になるであろう者たちを労う為に考えて言葉を口にしたのではない。
雷華が転生した世界は、命が軽い。
少なくとも、彼女が前世で生活していた国と比べれば、あまりにも軽い。
それは雷華もなんとなく解っているからこそ、彼ら彼女たちが目標の点数に到達したことも嬉しかったが……それよりも、こうして全員生きてまた会えたことがなにより嬉しかった。
(あぁ~~~、こりゃぁ……)
(本心なのだろう……しかし、これはあれだな)
(あ~~らら。これはもしかしなくても、焼かれちゃったねぇ)
彼女の笑みを見て、子供たちが何を感じたのか……大人である騎士たちは直ぐに理解し、大なり小なり差はあれど……全員が苦笑いを零すのだった。




