第2話 初めての、一振り
(異世界、かぁ…………凄いところに来ちゃったな)
不良にナイフで腹を刺されて死に、異世界に転生してから約一年。
雷華改めスランは自分の身に起きた状況をなんとなくではあるが把握することが出来た。
(あれだね……あんまり詳しくはないけど、異世界転生? ってやつだっけ………………読まず嫌いせず読んでおけば良かったかな)
前世ではそれなりに漫画を読んでおり、特に格闘漫画やバトルファンタジー漫画などは好きだった。
しかし、異世界転生や転移といった系統の漫画にはそこまで興味がそそられず、なんとなく読んでいなかったが……まさかまさかの、そんな雷華が死んで本当に異世界転生してしまった。
(魔法に武器……闘気とか、あとはモンスターとかだっけ…………本当に、前世とは違う世界なのよね……)
まだぽつぽつと話せるようになった程度ではあるが、生まれた家が家であったため、メイドや執事などに頼めば本を読んでくれ、質問すれば母が答えてくれることもある。
そんな門答を繰り返す中で、雷華は自分が転生した世界がどのような世界で、自分がどういった家の子に生まれたのかも知った。
(それにしても、貴族……貴族…………嬉しいこと? なんだろうけど、ちょっとめんどくさそうな匂いがする……)
雷華が生まれた家は、デリルガーナといった姓を持つ名家。
獅子の紋章を持ち、国の中でもトップクラスの武力を持つ名門とも呼ばれる家。
雷華はそんな名家の五女、スランとして生を受けた。
「ねぇ、あっち」
「はい、解りました。それでは移動しましょうか」
面倒な匂いはする……しかし、同時に楽しそうな匂いも感じていた。
その良い匂いがする元へ、お付きのメイドと共に向かう。
「破ッッ!!! セヤっっ!!!!」
「疾ッッ!!! ーーーっっ!!!!」
「っっ、チッ!! ぅおらぁッッッ!!!!!!」
「……………………」
そこは、訓練場。
名門、デリルガーナ家に仕える騎士、訓練兵や騎士候補生たちが鍛錬を行う訓練場。
そこにメイドと共に訪れ、じっくりと眺めていた。
「お、おい。また来たな」
「あぁ、そうだな……噂通りってことなんだな」
「やっぱり、デリルガーナ家の子ってこと、なんでしょうね!!」
「まさしく、将来が楽しみな存在だ」
当然、多くの者たちが雷華ことスランの存在を知っている。
雷華にとって意識はあるのに、自由に体を動かせない時期というのはあまりにも苦痛な期間。
だが、生の武器を使って訓練を行う騎士や候補生たちがいる場所を知ると、毎日のように訪れ、訓練風景を眺めるようになった。
そうなれば当然、五女が生まれたという話を耳にするだけではなく、実際に五女……スランがどういった容姿をしているのかも解るようになる。
まだそこまで長々とは言葉を話せないスランだが、それでも印象的に残った動き、凄いと思った攻撃が見れた時は拍手していた。
それを見ると……まだまだ一歳になっていない子供だと解りつつも、可愛い赤ちゃんが喜んでくれているという事実に、騎士や候補生たちのやる気が漲り、結果としてスランの来訪は教官たちから見ても有難いものとなっていた。
(やっぱり……凄い。本物の武器だ…………)
前世で格闘技を行っていた雷華だが、少なからず武器という存在に興味を持っていた。
空手の先生の友人が刀を持っており、実際に巻き藁などを居合切りなどで切断する光景を見て興奮したのを今でも覚えている。
そして、ここには刀だけではなくロングソードやショートソードに大剣……勿論剣だけではなく槍や斧、ハルバードといった武器なども存在する。
それらを使って真剣に鍛錬を行い、模擬戦を行う光景などは何度見ても雷華の心を躍らせる。
「いらっしゃいませ、スラン様。今日も気が済むまでごゆるりとごらんください」
「ありがとう、ございます。レドルドさん」
「っっ……本当に子供というのは成長が早いですね」
「レドルド様の仰る通りかと」
先日会話をした時よりも、話し方がスムーズになっている。
たかが話し方と思われるかもしれないが、今よりも幼い頃からよく自分の意志を示すような動きをしていたこともあり、それを知る者たちからはただの成長とは思えなかった。
(デリルガーナ家に生まれた者たちは他の子供たちと比べて武器、戦いというものに興味を持つのが早くはあるが、だとしても……生後三十日も経たない内から興味を持ったのはスラン様ぐらいだろう……………………よし)
スランが歩けるようになり、多少は動けることを前から知っていたレドルドは、事前に用意していた木製の剣を取り出した。
「スラン様。実際に振ってみますか? こちらの木製の物になってしまいますが」
どれだけ我儘を言われたとしても刃引きしてない剣は持たせられないが、サイズを一歳児に合わせた木製の剣であれば、こっそり知り合いに作ってもらっていた。
「良いのっ!!!!!?????」
「えぇ、勿論です。これはスラン様の為に作られた物ですから」
「ありがとう、ございます!」
「こちらこそ、スラン様に喜んでもらえて光栄です」
メイドもレドルドが用意した木製の剣に問題はないと判断し、止めることはなく……ただ、転んでしまった際に速攻で受け止められるように準備だけはしておく。
「よし…………っ!!!」
「「「「「―――――っ!!??」」」」」
一振り……上段に構えてから、斬り下ろした。
たったその一振りに、レドルドとメイド……二人の話が気になり意識を向けていた騎士たちの背筋が震えた。




