第15話 どこまでいくんだ?
SIDE 試験監督たち
『……ヤバいな』
『あぁ、やっぱりヤバいな、スラン様』
今回の試験では、一定間隔で斥候能力に長けた騎士たちが配置されていた。
基本的に子供たちをモンスターから助けることはないが……他家からの刺客として送られてきた者たちを倒すためや、場合によっては内乱の対処に追われることもある。
そんな仕事を持つのが試験監督たちだが……スランの試験監督として配置された騎士たちは、彼女の暴れっぷりに驚かされ続けていた。
普通とは違う……それはスランに限らず、デリルガーナ家の人間たちには総じて言えることだが、それでも彼女は頭一つ二つ飛びぬけていた。
『一瞬固まった感じはしたけど、普通に捌き続けて魔石を取り出したよな』
『あぁ……苦戦するわけがないとは思っていたが、それでも一発……武器すら使わず、手刀で一撃だったしな』
試験監督たちは無線のようなマジックアイテムを使い、眼の先で普通ではないことを繰り返すスランの凄さを語り続ける。
『それに、スライムに関しては……もしかしなくても、あの散弾を練習台にしてた、よな』
『小さくではあったが、楽しそうな笑みを浮かべていたからな…………おそらく、その通りだろう』
『しかも、スライムが仕掛けた最後の散弾もあっさりと躱したし……他のご子息たちもあんな感じだったのか?』
『……色々と逸話は聞いているが…………それでも、スタートダッシュでこれは……他の方々と比べても、飛びぬけた異質さだろう』
『やっぱりそうか……ゴブリンに囲まれても平然と対応……つーか、嬉しそうに戦り合ってたもんな』
試験が始まってから三十分も経たない間に、今度は複数のゴブリンに囲まれた。
スランは最初から一人で活動すると決めており、複数体に囲まれれば不利になるのは眼に見えていた結果。
しかし、そんな状況を不利だとすら思っておらず、小さな笑みを浮かべながらまた徒手格闘のまま戦い続けた。
最初こそゴブリンたちは多数で一人を殺すことに余裕な表情を浮かべ……自分たちが負けるなど、これっぽっちも考えていなかった。
だが、十秒と経たずに一体目が抜き手で殺され……二体目が、前蹴りで腹を完全に潰されて絶命。
その瞬間、まだ残っていたゴブリンたちに、初めて自分たちが目の前の小さな人間に殺されるかもしれないという焦りを感じ、更に殺意が膨れ上がった。
『…………あの時の表情を覚えているか』
『ゴブリンたちが本気になった瞬間だろ………………生まれ変わりとか、魂が宿るとかそういうのはあんまり信じられねぇ質なんだが、ぶっちゃけ……俺はスランお嬢様に阿修羅ってやつの魂が宿ってるんじゃないかと思ってるぜ』
『そうだな……ポイズンスネークとの戦いも含めれば、そういったあり得ないと思われることが、本当にあってもおかしくなさそうだな』
『だろだろ。つか、あん時はさすがに止めるべきかと思ったってのに……本当にまぁ嬉しそうな顔しちゃってくれるんだからよ』
現在、スランは一星級と、戦士としてのスタートラインに立ったばかり。
体格的な問題も含め、本来はゴブリンなどであっても楽に倒せる相手ではないが……更に壁となる毒や麻痺液などの状態異常攻撃を扱うモンスターたち。
星級、サークルが上がっていけば、耐性がなくとも……特定の治療やポーションといった回復液に頼らずとも治すことが可能。
しかし、一星級ではそれが基本的に不可能。
だからこそ、試験監督たちは出来るだけ子供たちが状態異常攻撃を使うモンスターと遭遇しないことを祈っている。
だが……そんな願いを裏切る様に、スランの前へ文字通り毒蛇であるポイズンスネークが現れた。
『ゴブリンとかラージマウスとは迫力とか、殺意の度合い……感じる恐怖が異なると思うんだが……これまたあっさり殺っちまったよな』
『あぁ……蛇というモンスターの動きに対し、あまりにも驚きと躊躇いが小さかった……ないとは思うが、スランお嬢様は以前にモンスターと戦った経験があったか?』
『なかったと思うぞ。この時期までモンスターと戦うことは禁じられてるはずだし……それはどれだけ才能やセンスがあるご子息、ご令嬢たちであっても原則通り従う必要があるだろ……いや、まぁお前の気持ちも解るけどよ』
ゴブリンというモンスターは人型であるため、ある程度対応しやすい。
その他のモンスターもある程度対応しやすい、予想しやすいことが多いが……蛇というモンスターは、実際に対峙してみないとどういった動きをするのか予想し辛い。
加えて、その予想外の動きに対応するのも難しく、そこに毒を注入する牙を警戒しなければならなず、一部界隈ではルーキー殺しのモンスターとも呼ばれている。
そんな凶悪狡猾なモンスターを……スランは腕に巻きつかれた瞬間、容赦なく地面に叩きつけた。
『……あれは、素晴らしい判断だったな』
『だな。スランお嬢様なら短剣を使って倒せたとは思うが、牙に触れずに毒に触れずにって考えると、一番良い対応だったと言えなくもねぇ』
スランは一度だけでは二度、三度と完全にポイズンスネークの意識が飛び、そのまま命までぶっ飛ぶまで何度も地面に頭部を叩きつけた。
『まっ、俺としてはなんで魔石を取り出すだけじゃなくて、毒袋まであんなに上手く取り出せたのかが気になるところっすけど』
『……スランお嬢様は、そういった本も読まれているからな』
『そう言ってしまえばそれまでっすけど……それと、ファットボアまであっさりぶっ殺しちゃいましたよね』
『あぁ、見事な蹴りだった』
ファットボア……ポイズンスネークと同じく文字通りの存在であり、太った猪。
しかし、子供からすればデブ猪のタックルは当たれば死も同然。
スランと同じく一星級に至っている子供たちであっても、その物量……威力に耐え切れずに吹き飛ばされてしまう。
そんな太っちょ猪のタックルに対し……スランは上段蹴りをた叩き込み、タックルの勢いを別方向に移動させてしまった。
『んで、木に激突してちょっと意識が飛んだファットボアに掌底を叩き込んで終わらせたよな……あれってさ、もしかしなくてもよ……』
『……一星になり、闘気を得られたのだ……不可能ではないだろう』
衝撃を内部に与える。
それは防御力の高いモンスターに対する有効打の一つ。
ただ、子供にはあまりにも高等技術であるため、センスがある者であってもほぼ不可能な技。
なのだが……二人の眼には、スランがその技術を使ってファットボアを仕留めたように見えた。
((スランお嬢様……いったいどこまでいくんだ?))
最初は彼女の試験監督になれてラッキーと思っていた二人だったが、時間が経つにつれて驚きで腹一杯になっていった。




