革命の11か月前
「レオンス、週末の夜会では私の後ろにいてね! レオンスの正装姿は絶対に素敵だと思うの!」
「お望みとあらば護衛任務に就かせていただきます」
26年前に来てから数週間が経ち仕事にも慣れてきた頃、夜会での護衛任務に就く事となった。
第二婦人であるイザベラ様は今の所、特に親しい男性がいるようには見えないが、夜間の護衛任務が無いのが厳しい。私のいない23時以降に男性と密会している可能性もあるから⋯⋯
でも革命まではまだ11か月ある。妊娠期間は約40週間くらいとして考えると280日、約9カ月間。まだ時期的に妊娠の可能性は無い。だがもし国王以外の男性の子を妊娠するとしたら、その人物との出会いはいつ転がってくるのか分からない。
夜会は出会いがゴロゴロしているから気は抜けないだろう。
「レオンス、王宮はどう? 何か得た?」
「イゴール、それがまだ何も。今度夜会の護衛をするけど、第二婦人に新たな出会いが無い事を祈るわ」
久々に夕食が同じ時間になったイゴールと食後に情報交換をする。魔術師団はなかなかの激務の様で、いつも帰宅が遅い。
「イゴールの方はどう?」
「そうだね、王だけど、毎晩違う女を私室に連れ込んでいる」
「それは⋯⋯」
イザベラ様の部屋には行っていないという事だ。ここにきて一気にアントワヌ王太子の父親が怪しくなってきた。
「でもまだわからないからな。王の気が向いたら第二婦人の元へ行くかもしれないし。それに第二婦人もいきなり知らない男と成り行きで⋯⋯なんてあるかもしれないが、今は時期早々だ」
それはそうだ。だが我々を常に悩ませるのは獄中出産したその正確な日付がわからない所にある。革命時に投獄され、約半年後に処刑されたのは確実だが、その間に出産したとしかわからない。産まれた子は元気だったそうなので早産の可能性は低いだろう。しかし42週に産まれた子と37週に産まれ子では同じ正期産でも一月近くも違いが生まれる。
早くて革命の10~9か月前に妊娠、遅くとも革命の二~三か月前に妊娠なのは確実。これからは目が離せないわね⋯⋯
「そのうち動きがあると思う。任務を続けよう」
「そうね」
朝からの任務の時は早めに起きて鍛錬を続けている。体を怠けさせない為でもあるけれど⋯⋯
「はぁ、今日もありがとうございました。でもまだ一度も勝てないなんて自信を失います」
「十分強いと思うが⋯⋯ローヌ嬢は近衛になっても鍛錬を続けて更に上を目指すのか。本当に感心する。誰もが楽な方へ流されるのに君は凄いな」
「え? いえ、そんな、自分にはこれしか出来ないので」
真顔で褒められると何だか恥ずかしくなってしまうのだけれど。しかも凄腕な騎士団長に言われて嬉しくない訳がない! 顔が勝手にうにょうにょしてしまう⋯⋯
「ふふ」
「?! 騎士団長、今笑いました??」
「いや、どうだったかな」
全く罪作りな男だわ。でも朝から貴重な騎士団長の笑いを拝められたのだから、今日も一日頑張れそう。
「レオンス素敵! 正装が似合うわ!」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
あっという間に夜会のある週末となった。大きな夜会なのできちんとした近衛騎士の正装で、しかも何故か完璧な男装まで施されて護衛に付かされた。
だがそのせいで夜会会場に入った瞬間に第二婦人だけでなく、若い女性からの視線も集めてしまっている。
⋯⋯若い女性は年上の男性っぽい女性が気になる時期があるのよね。
婚約者がいる女性でも、相手が女性ならキャーキャー言っても浮気にはならないし、レオンスだけでなく元のマリエットにもよくある現象なので慣れている。
「何でこんなヤツが人気なんだよ! 女なのに女にモテるなんて。背もデカいし、もう男のなっちゃえよ!」
「何ですかそれ? アレクシーも成長期が来たら男の子から男性になりますよ」
「これでも両親の背は抜いたんだぞ! 俺もすぐに大きくて超かっこ良くなってやる! あと俺は男の子じゃない!18歳だ!」
⋯⋯アレクシーよりも小さなご両親? か、可愛いかも。でもすでに18歳のアレクシーの背はもう⋯⋯
「そうですか、それは失礼しました」
「何で笑ってるんだよ!」
こうして26年前の下品なほど煌びやかな夜会は始まった。




