第二夫人イザベル様
そして私は第二婦人のイザベル様の元へと案内された。
「失礼いたします」
「どうぞ。あら? 新しい騎士なのかしら?」
実際にこの目に映ったイザベル様は、歴史の教科書に載っていた絵姿よりも断然美しく、光り輝く銀色の髪に優しそうで快活な青い目はとても若々しく、善良で無邪気な人間に見えた。
「本日からイザベル様の護衛に着かせていただきますレオンス・ローヌです」
「まぁ素敵! 凄く気に入りました! お茶にしましょう? レオンス、座って!」
「え? 護衛は⋯⋯」
「イザベル様のご命令だ。早く座れ」
イザベル様の護衛騎士の一人がコッソリと私に伝えてきたので、すぐさま勧められた椅子に座る。
郷に入っては郷に従えだ。
「レオンスは素敵だわ~! お姉様って呼んでもいいかしら?」
「え? ど、どうでしょうか? 私など⋯⋯」
「綺麗なエメラルドグリーンの髪だわ~黄金の目も素敵!」
「あ、ありがとうございます?」
将来処刑される第二婦人と会話をしていると思うと微妙な気分になる。この方は随分と王族らしくないというか、少々子供っぽいというか⋯⋯王族としての公務を熟せるとは思えないが⋯⋯
まぁ元は子爵家の令嬢だものね。それにしても⋯⋯でもこういう雰囲気の人が王の好きな女性なのでしょう。
「おいお前、レオンスだったか? いい気になるなよ?」
「はい?」
交代の時間になり廊下へ出たら、いきなり新しい同僚に切れられた。
「お前はどうせすぐに飽きられる。だからいい気になるなと言っている!」
「そうですか。自己紹介が遅れました。レオンス・ローヌです。本日からよろしくお願いいたします」
「⋯⋯俺は先輩のアレクシー・モデストだ。ちょっと顔がいいからってデカい態度をとったら許さないぞ!」
「あら、可愛い⋯⋯」
このアレクシーは小さな女の子みたいで凄く可愛い。癖のあるふわふわな白い髪に、零れそうな程大きな青い瞳を持ち、華奢な体なのに頑張って虚勢を張っている。
「俺が可愛いのは知ってるよ!」
「飴食べる?」
近衛に配属された同期が『護衛任務中にお腹が鳴って恥ずかしかった!』と言っていたのを思い出したので、今朝一応ポケットに飴を入れておいたのだ。実際に食べられるのかは分からなかったが。
「フン! 食べるよ! レオンスのせいでイザベル様のお茶にありつけなかったんだ!」
「まぁ~ごめんなさいね」
「年上ぶるな! 俺が先輩だ!」
「ふふふふふ」
「笑うな!」
レオンスにとても可愛らしい先輩が出来た。
次の朝、私は騎士団の訓練場に向かった。イザベル様に気に入られた私は日に三度ある護衛交代時間の内、朝担当の七時~15時と昼担当の15時~23時勤務のどちらかの勤務となった。
どうやら夜間は部屋の入り口に立って護衛するだけなので、お気に入りかどうかは関係ないらしい。
まずは訓練場で軽く走り込みをする。今日も朝稽古をする騎士はいない。昨日はたまたま訓練の無い日だったのかと思い確認したら、どうもそうではなかったらしい⋯⋯
『副騎士団長、明日の朝訓練は何時からですか?』
『ギゼルって呼んでね。近衛に訓練は必要ないよ。怪我や日焼けをしたら美しくなくなって王宮を追い出されてしまうからね』
『そ、そうですか』
『そんな暇があったら美容院にでも通った方が建設的だよ? もちろん適度な運動で体を引き締める事は大事だけど、俺は毎晩頑張っているから間に合ってるわ』
『⋯⋯』
この任務の終わる一年後には、また26年後の騎士団に戻るつもりなので、ここで体を怠けさせる訳にはいかない。一日サボると三日分の鍛錬が水の泡になるなんて言う人もいるくらいだ。 ⋯⋯父だけど。
私の家系は昔から騎士になる者が多い家系で、体格に恵まれて産まれる者が多い。若い頃は強い騎士だったらしくモテた父は美人な母と結婚した。そのおかげで顔は母、体格は父な私が産まれたのだ。そんなモテた両親も今となっては貧乏領地で地味な生活をしているが。
「あれ? そういえば両親はもう結婚して領地で生活しているのかな?」
第ニ騎士団に所属していた父は、革命の時には既に騎士を辞めて領地にいたと言っていたし、その後にすぐに五歳年上の兄が産まれたと聞いた。
私には少し体の弱い兄がいる。母は昔から兄に付きっ切りだったので、幼かった私は必然と父と過ごす時間が多くなり、気づいた時には女だてらに剣術の道に進んでいた。
「う~ん⋯⋯軽いし馴染まない⋯⋯」
だからこそ、このお飾りレイピアが軽すぎる。戦ったら折れてしまいそう⋯⋯
レイピアは速度勝負で刺す感じの攻撃する剣なのだろうけど、長時間の戦いとなれば厳しいと思われる。革命時はもちろん王宮にいるつもりはないが、日ごろから治安の悪そうな王宮での護身の為にも、慣れ親しんだ普通の剣を携えたい。もし死んだら任務の失敗だし、実家のお墓にも入れてもらえない。
「どうしょう? 誰に相談すればいいのかな⋯⋯」
私が剣について考えていると、ふいに後ろから声を掛けられた。




