騎士団長との出会い
第一騎士団は26年後と同じ建物であり、訓練場も特に変わりはなかった。指定された時間よりも大分早く着いてしまった私は、ならば朝の訓練に参加しようと思い訓練場を見渡したが、騎士の姿はなかった。
朝は鍛錬しないのかな? 昨日大きな夜会の警備があって今日は朝の鍛錬は無いとか?
騎士団長が現れるまで一人でできる素振りか走り込みでもして待とうかな? と思ったが、今日の私は完璧に化粧がされている事に気づいた。大人しくここで時間を潰すしかない。
「あれ? どこからか音がする?」
――シュ――シュ――シュ――
暑いので日陰に移動していると、誰かが素振りをする音が聞こえた。耳を澄ますと訓練場の脇から聞こえてくる様だ。
たった一人で朝の鍛錬をする熱心な騎士団員もいるのかと感心し、それはどんな騎士なのか見て確認したくなってしまった。
音を頼りに訓練場の脇の方へと向かうと、そこには騎士としては細身な黒髪の男性が一人で素振りをしていた。
――シュ――シュ――シュ――シュ――シュ――
同じ動作を繰り返しているだけだがそれは大層美しい。見ている内にレオンスは時間が止まった様な感覚に落ち入った。彼は無駄な動きが一切なく、同じリズムで振り続けていて機械の様に正確だ。
⋯⋯この侯爵と合わなそうな感じ。この方が騎士団長だと思う。
鍛錬中に声を掛けるのも悪いと思い、近からず遠からずの場所から騎士団長の素振りが終わるのを待つが⋯⋯ついジロジロと目の前にいる騎士団長を観察してしまう。
26年後の筋肉団子の騎士団長と比べて随分と細身ね。背は一般的には高い方だとは思うけど騎士としてはそれ程高いわけではない。でもこの素振りだけでも強い事は分かる。だから騎士団長なのね。
「あれ? すまない待たせただろうか?」
不意にレオンスに向けられたのは綺麗な黄金色の目⋯⋯私の金色の目よりも明るく澄んでいて⋯⋯月みたいだと思った。
「いえ、私が早く着きすぎてしまいました。レオンス・ローヌと申します」
「あぁコンスタンから話は聞いているよ。私は騎士団長のクロード・モーリエだ。君は優秀な騎士だと聞いた。今日からよろしく」
「はっ」
その後我々は団長室に移り、団長が自ら近衛騎士の仕事について説明をしてくれた。
「おはようございます団長、あれ? 新人ですか?」
「ああ今日から近衛騎士になったレオンス・ローヌだ」
「はっ、レオンス・ローヌです。よろしくお願いいたします」
「俺は副騎士団長のギゼル・メールね。へぇ~女性騎士かぁ、いいんじゃない? 王妃の護衛に良さそう」
副騎士団長は波打つ薄い紫の髪に垂れ目がちな青い目の何とも軽そうな男だった。服装も乱れ、良く言えばフェロモン垂れ流し、悪く言えばだらしがない。だが見た目が抜群にいい男だ。
「レオンスには第二婦人の護衛に付いてもらおうと考えている」
「?!」
これは願ってもいないチャンスでは? 第二婦人のお腹の子の父親を容易に特定できるかも!
「え? どうだろうな~? 近衛であっても綺麗な女性は危ないよ? レオンスちゃん狙われちゃうよ~? 怖いよ~」
「え?」
王宮では護衛に危険が及ぶことが日常茶飯事なのかな? まさか女騎士だと舐められて襲撃でもされやすくなるとか? それは困る。この時代で死んだら任務の失敗だ。
「しかし王妃は護衛を親戚や知人らで固めている。だから第二婦人がいいと思ったのだが⋯⋯」
「そうだ! レオンスちゃんは背が高いし、かっこいいから男装しよう! 男装の麗人なら第二婦人が喜ぶ事間違いなし!」
「はい?」
あれよあれよという間に副団長のお友達という女性が現れ、私は凛々しい化粧を施された。突然の事態に全くついて行けない。私は近衛騎士で護衛をする仕事のはずだけど?
「スゲ~レオンスちゃん! 近衛一の美貌かも~俺の目に狂いはなかったぜ!」
「はぁ」
「⋯⋯入団早々すまないな。今の王宮は巷で言われている通りの事態なのだ。ローヌ嬢も自己防衛を怠らない様に」
「⋯⋯はっ」
え? 巷で噂の事態とは一体⋯⋯。
そして私は第二婦人のイザベル様の元へと案内された。




