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成功した魔術と26年前

「え、成功ですかね? 実感がなくて」


「そうですよね? あ、始めましてマリエット・アーベイです。今からレオンス・ローヌですが」


「マシュー・モンカルメルです。こちらこそ始めまして。今からイゴール・バールですね。早く名前に慣れないといけませんね」


 私達は26年後とそれ程変わりのない王都北の自然公園から、南方面にある魔術師団長の屋敷へと向かって歩き始めた。


「あ、意外と道や建造物はそのままですね。町の人々の服装に昔の雰囲気がありますから、やっぱりここは26年前なのでしょう。魔術は成功したのですね」


「そうですね⋯⋯でも⋯⋯」


26年後の街並みと大きな違いはないが、すれ違う人々の顔に表情がない。ワントーン暗く見える町民の姿に、前を見ず下を見ながら足早に通り過ぎる人々、お店には商品があまり並べられていなのでスカスカで色が無い。そしてどこからか饐えた匂いも漂う。


「これは実際に目にすると――」


「食べ物下さい、子供がお腹を減らしているんです⋯⋯」


「⋯⋯」


物乞い。酷く痩せた女性が、眠る子供と道端に座ったまま小皿を向けて来た。そこに食べ物かお金を入れろという事か。


だが我々は歴史を変える事は許されない。申し訳ないが無視をして歩き続ける。

転移してものの数分で心が重くなった。早めに任務を終えて元の時代に戻りたい。


今は革命一年前の世界にいる状態だ。第二婦人は革命後に収監されていた牢獄内で出産したので、これから王宮への潜入捜査を始めれば父親が特定できるだろう。



私とイゴールは魔術師団長の屋敷に着いた。


「面会予約もない突然の訪問で申し訳ございません。こちらの手紙を執事長のマティアスさんに読んでいただきたいのです」


「はい。少々お持ち下さいませ」


 魔術師団長は仕事で留守の様だ。私達は公園や町を歩き回っても浮かないシンプルな服を着て馬車も使わず徒歩で来ているので、侯爵である魔術師団長の屋敷に入れてもらえるか心配したが問題は無さそうだ。


「お待たせいたしました。私がマティアスでございます。お持ちいただきましたお手紙を拝見させていただきました。お部屋へご案内いたします。主人は外出しておりますので、帰宅後にお会いしていただけたらと思います」


「はい。ありがとうございます」


綺麗な客間に案内され、出されたお茶で一息つく。今日は朝から怒涛の展開だったので気持ちがついてこない。


町の人々を見た限り26年前なのは確かなのかもしれない。これから腐敗した王宮への潜入捜査。上手くやれるか心配だし、即処刑になんてならないよね⋯⋯


これから考えなくてはならない事だらけだが、清潔なベッドに横になって目をつぶると、しばしの休息をとった。



「執事から話は聞いたよ。それに君達が持ってきたこの手紙は私が書いた物で間違いない。手紙の内容から大体の事情は把握した」


 その夜、私達は魔術師団長⋯⋯ではまだなく、コンスタン・マヴェット侯爵の人払いをされた執務室に呼び出された。 彼は今朝見た魔術師団長で間違いはないのだけれど、とても若い。ここが本当に26年前なのだと実感した。


「未来の私は時空を超える事に成功したのだね! で、イゴールでいいのかな? 君はその魔法陣を覚えているかい? どんなだった?」


「いえ、我々には守秘義務がありますので⋯⋯」


「そうだな⋯⋯でも少しくらいいいだろ?」


「申し訳ございません。未来のマヴェット侯爵様からの命令ですので」


「未来の私はつれない男だなぁ~」


私達はこの屋敷で生活をする事になった。


「君たちを私の推薦で王宮騎士団と魔術師団にねじ込むよ。君達は顔がいいから重宝されるはずだ。今の王宮は人手不足が深刻でね、新しい人材は喉から手が出るほど欲しいだろうよ」


ここでもまた顔の話⋯⋯。それに深刻な人手不足の原因は何だろうかと、学生時代に読んだ歴史書や当時を知る人から聞いた話を思い出し鳥肌が立った。私に今回の任務が上手く務まるだろうか。


「では明日からの方向性は決まった事だし、未来の話を肴に酒を飲もうではないか!」


「「⋯⋯守秘義務がございますので⋯⋯」」


「酷い! 目の前に餌があるのに、飼い主からお預けを食らっている犬の気分だよ!」

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